各地のリーディング 後編(兵庫、高知、佐賀、ばんえい)

2024年08月22日

※成績等は8月19日現在。通算成績は地方競馬全体での数字。それ以外は特に明記のない限り所属場(地区)での数字を示す。
 
■兵庫
 
 近年、兵庫で不動のリーディングとなっているのは吉村智洋騎手。今年も179勝で、2位の下原理騎手(122勝)に50勝以上の差をつけて独走となっている。
 兵庫リーディングでは、2015年に244勝を挙げた川原正一騎手が56歳でトップに立った。その後、16、17年は下原騎手が2年連続でトップ。そして18年に初めてトップに立った吉村騎手が、それ以降ダントツのリーディングを続けている。この間、2位、3位は下原騎手と田中学騎手が争っていたが、田中騎手は23年11月23日を最後に騎乗を休んでいる。
 吉村騎手は、18年は289勝で2位の田中騎手に48勝差、19年は330勝で同じく2位の田中騎手に76勝差、そして20年以降は毎年2位の騎手に100勝以上の差をつけているように、兵庫での吉村騎手の牙城はますますゆるぎないものとなっている。
 吉村騎手は、18、22、23年には全国リーディングにもなって、同時にNARグランプリで最優秀勝利回数騎手賞を受賞している。
 そして近年、急激に成績を伸ばしてきたのが廣瀬航騎手。2001年にデビューし、15年までは年間の勝利数が30に届かなかったものの、16年以降徐々に勝ち星を伸ばすと、21年には初めて100勝を超える103勝を挙げ、兵庫リーディングの5位まで躍進。この年、兵庫若駒賞をガリバーストームで制し、デビュー21年目にして重賞初制覇も果たした。廣瀬騎手はその後も年間100勝超を続け、22、23年は下原、田中騎手に続く4位で、今年は前述のとおり田中騎手の戦線離脱によって3位。デビュー20年を過ぎて完全に上位に定着。今年タイガーインディでは、黒船賞JpnIIIで7番人気ながら3着に好走し、その後、兵庫大賞典、オグリキャップ記念を連勝するなど、重賞での活躍も目立っている。
 吉村騎手は現在39歳。田中騎手50歳、下原騎手46歳、廣瀬騎手40歳で、いずれも吉村騎手より年長だ。若手から吉村騎手の座を脅かすような存在はまだまだ見えてこない。
 ただ今年、小牧太騎手が20年ぶりに兵庫に復帰したことはご存知のとおり。小牧騎手は今年9月7日には57歳となり、川原騎手が最後に兵庫リーディングを獲った年齢よりひとつ上になるが、人気馬への騎乗も多く、吉村騎手のダントツリーディングに影響を与えるほどの存在となるかどうか。同時に、世代交代が期待されるような若手の台頭にも期待したい。
 
■高知
 
 高知では赤岡修次騎手が14年連続年間200勝という、とてつもない記録を2020年に達成した。それ以前の記録は、川崎の佐々木竹見さんによる1964〜76年まで13年連続というもので、じつに44年ぶりの記録更新だった。
 その間、赤岡騎手は高知で不動のリーディング......だったわけではない。2015年以降は南関東での期間限定騎乗など他地区での騎乗で勝ち星を稼いだぶん、地元高知での勝ち星が減ることになり、高知でのリーディングは同年から19年まで永森大智騎手に譲っている。しかしコロナ禍に見舞われた20年は他地区での騎乗が制限されたため赤岡騎手は高知で245勝を挙げ、再び高知リーディングとなった。その年、2位の永森騎手が115勝だから、高知ではいかに赤岡騎手が圧倒的な存在だったかがわかる。
 14年連続200勝という記録を達成した赤岡騎手だが、「記録を意識してからは精神的にもキツかった。数字を気にして乗るのはもういいです、これで最後です」と語り、その後は数字にこだわることはなくなった。
 しかしながら、21年は200勝には達しなかったとはいえ174勝でトップ。22年には宮川実騎手が136勝で初めて高知のトップに立ち、2位赤岡騎手、3位永森騎手。そして23年は赤岡騎手が170勝でトップに返り咲き、2位宮川実騎手、3位永森騎手。今年はここまで宮川騎手が87勝で、赤岡騎手、永森騎手という順位。ここ3年はこの3名がトップ3を占めている。
 一方で近年、若手で急成長してきたのが、19年デビューで現在26歳の多田羅誠也騎手だ。昨年は、高知リーディングでは76勝で5位だったが、他地区での勝利数も合わせると自己最多の93勝。今年はここまで61勝(うち高知59勝)で、このペースであれば単純計算で年間100勝に届く勢いだ。重賞での活躍も目立っており、多田羅騎手がトップ3の牙城に割って入る日もそう遠くはなさそうだ。
 
■佐賀
 
 佐賀では『ミスターほとんどパーフェクト』というキャッチフレーズでも知られる山口勲騎手が2008年以降、不動のリーディングとなっている。23年こそわずかの差で飛田愛斗騎手にトップを譲ったものの、この年は7月から9月上旬にかけて約2カ月、騎乗していなかったため。今年ここまで山口騎手は102勝。2位の飛田騎手(62勝)に40勝もの差をつけて再びトップに立っている。
 近年は、39歳の石川慎将騎手、45歳の倉富隆一郎騎手が年間100勝前後で2位、3位を争っていたが、若手の台頭も目覚ましい。その急先鋒が、2020年10月にデビューした22歳の飛田愛斗騎手だ。
 飛田騎手は、翌21年6月27日に通算100勝を達成。デビューから268日での100勝は、地方競馬における通算100勝の最速記録を更新。またデビューから1年となる21年10月2日までにマークした127勝も、地方競馬の新人騎手によるデビュー1年間の最多記録となった。
 その21年の佐賀リーディングでは、1位山口騎手の196勝に対して、飛田騎手は143勝でいきなり2位。22年は115勝で、山口騎手、石川騎手に次ぐ3位だったが、23年は前述のとおり山口騎手が1年間フルに乗れなかったこともあり、飛田騎手が129勝で佐賀リーディングとなった。
 さらに飛田騎手に続く若手の注目株が、22年4月にデビューした山田義貴騎手だ。そのデビュー年は9カ月で62勝を挙げ、2年目の23年は118勝(うち佐賀では117勝)で、飛田騎手、山口騎手に次ぐリーディング3位となった。
 飛田騎手は21年のNARグランプリで優秀新人騎手賞を受賞し、山田騎手は23年に同賞(この年から最優秀新人騎手賞となった)を受賞。両騎手は佐賀だけにとどまらず全国的に注目となっている。
 なお8月19日現在の佐賀リーディングでは再び山口騎手が102勝でトップ。飛田騎手62勝、石川騎手61勝で、6位の山田騎手58勝まで、2位争いは拮抗している。山口勲騎手は現在54歳だが、今季の数字を見る限り、世代交代はもう少し先かもしれない。地方競馬通算5379勝は、歴代5位、現役3位となっている。
 
■ばんえい
 
 ばんえい競馬は4月から翌年3月までの"年度"で番組が組まれており、またリーディング表彰も年度で行われているので、ここでも年度ごとの数字で比較する。
 ばんえい競馬は2007年度から帯広での単独開催となったが、翌08年度からトップを堅持しているのが鈴木恵介騎手だ。
 2位、3位はほぼ毎年のように入れ替わっていたが、近年鈴木騎手を脅かす存在になったのが阿部武臣騎手。15、16年度に連続で5位に入ると、17年度には鈴木騎手167勝、阿部騎手164勝と、わずか3勝差まで迫って2位に躍進した。この年以降はほぼ2人の一騎打ち。18年度は鈴木騎手195勝、阿部騎手193勝、19年度は鈴木騎手194勝、阿部騎手184勝と、僅差の争いが続いた。
 このあたりの僅差の争いになると、シーズン終盤にはそれぞれの騎手に近い厩舎や馬主などが、なんとかリーディングを獲れるようにと勝てそうな馬をまわしてくるようになるので、トップ争いはますます激しくなる。
 そして20年度、180勝を挙げた阿部騎手が、12年続いた鈴木騎手の牙城を崩して初めてトップに立った。鈴木騎手は年間を通してほぼ休むことなく騎乗していたのが、例年ほど勝ち星が伸びず156勝で2位だった。
 21年度は鈴木騎手がシーズン開始から2カ月ほど休んだため、阿部騎手が155勝で2年連続でトップ。132勝の渡来心路騎手が前年度の7位から一気に2位に躍進。鈴木騎手は129勝で3位だった。
 22年度は203勝というダントツの数字で鈴木騎手がトップに返り咲き、23年度も196勝でトップを守った。その2年間は鈴木騎手の数字が突出したぶん2位争いは混戦。22年度は2位菊池一樹騎手133勝、3位島津新騎手132勝。23年度は2位西将太騎手135勝、3位島津新騎手134勝と、ともに1勝差の2位争いだった。
 8月19日現在、今年度は大混戦。鈴木騎手58勝、西将太騎手58勝、西健一騎手53勝、阿部騎手52勝、渡来騎手51勝と、1〜5位が50勝台で拮抗している。果たしてここから誰が抜け出すのか、注目となりそうだ。
 若手騎手では20年12月にデビューした金田利貴騎手がデビューから395日目で通算100勝を達成し、ばんえい競馬での100勝最短記録を更新(それまでの記録は島津騎手の442日)。さらに22年12月にデビューした今井千尋騎手がその記録を332日に更新した。とはいえ23年度のリーディングでは、金田騎手が112勝で9位、今井騎手が91勝で11位と、上位を脅かすまでには至っていない。
 
文/斎藤修

 

おかえり小牧太騎手!園田への復帰初戦を初勝利で飾った日と、懐かしい面々との再会

2024年08月19日

いよいよこの日がやってきた。
園田・姫路競馬で8年連続10回のリーディングに輝き、2004年にJRAに移籍した小牧太騎手が古巣へ復帰するのだ。地方復帰を望んでいることが発表されたのは今年4月。地方競馬全国協会の騎手免許試験を一から受けて7月19日、合格の報せが届き、8月1日付で地方騎手となって帰ってきたのだった。


復帰初日となった8月14日はお盆開催ということもあり、開門時刻が早められた園田競馬場。入場門へと続く道には「おかえり!!小牧太」の横断幕が掲げられた。



今か今かとファンが待ちわびた復帰戦は園田2レース。35℃を超える暑い中でも多くのファンがパドックに詰めかけ、ここにも横断幕が張られていた。よく見ると、阪神競馬場や京都競馬場での掲出許可シールが何枚も貼ってある。あとで小牧騎手に聞くと「20年近く前から張ってくれている横断幕で、今はJRAでは横断幕を張れなくなっているので、懐かしいなと思って見ていました」という年季モノ。



パドックに現れた小牧騎手は、単勝1.2倍の1番人気に支持されたエイシンジェットに騎乗。3カ月半の休み明けでもこれだけ人気を集めたのは、小牧騎手への期待も込められてのことだろう。
「応援の声が、"親父"の声が、僕にも届いていました」と、オールドファンの野太い声援を背に復帰戦へと向かっていった。




注目の一戦は、好スタートから2番手外につけ、4コーナーではスーッと脚を伸ばした。懐かしい勝負服が先頭に並びかけると、スタンドからは「小牧!」という声援。逃げ馬との追い比べを直線で制すると、最後は1馬身抜け出して拍手に包まれる中、復帰初騎乗初勝利を決めた。



「なんでうちの厩舎が復帰初戦やねん(笑)。2戦目とかの方が気が楽やったのに」と、大役のプレッシャーを感じていたのは騎乗馬を管理する渡瀬寛彰調教師。そんな冗談を言いつつも、喜びの表情でいっぱいだった。というのも、「調教師になって初めて乗ってもらえて嬉しいです。厩務員時代には乗り替わりでよく勝ってくれたんです」という思い出があったからだった。



小牧騎手は「馬がすごく余裕で交わしたけど、半馬身前に出たところで急にソラを使ってやめてしまって、必死に追いました」と汗を拭うと、この日の朝、栗東トレセンで調教に乗ってから駆け付けた長男・加矢太騎手や長女・ひかりさんらとともに口取り撮影に収まった。



そして、ウイナーズサークルで行われた勝利騎手インタビューには「実況の神様」と呼ばれ、ギネス世界記録に認定された吉田勝彦アナウンサーが登場。コロナ前は毎年秋に小牧太カップのプレゼンターとして来場した際に共演はあったが、地元ジョッキーとして吉田アナウンサーから勝利騎手インタビューを受ける姿を見て、ロードバクシンなどで園田競馬場が大いに盛り上がっていた時代を思い出したファンもいたのではないだろうか。


「吉田さんも87歳で元気ですよね。長生きしてほしいです。10代から知っていて、摂津盃で初めて重賞を勝った時の『小牧は必死だ』という実況がいまだに印象に残っています」



そんな"小牧太旋風"で大盛り上がりの園田競馬場にもう一人、懐かしい顔があった。元JRA調教師の小桧山悟氏だ。「今日は小牧の日でしょ。撮りにきました」と、こちらも地方復帰を楽しみにしていたようで、2008年日本ダービーをスマイルジャックで2着だったコンビが園田で再会した。



待っていたのは身内もだった。弟で元騎手の小牧毅調教師は自宅で勝利を見届けたのち、園田競馬場にやってきてこう話した。


「やっぱり強い馬に乗ったら勝てるね。安心して見ていられました。いま目標があって、重賞の園田オータムトロフィー(10月10日、3歳、園田ダート1400m)をウインディーパレスと(小牧)太くんとで勝つこと。勝ったらね、二人で十三(大阪の繁華街)に行こうかな」


写真は2016年秋の小牧太カップの時のもの。このツーショットが夜の十三で見られる日も近いのかもしれない。(左が弟・小牧毅調教師)



さて、この日は計5鞍に乗って、1着、3着、4着、10着、8着。


「1日5鞍の騎乗がベストかな。集中力を切らしたくないので、これがいまの自分に合った騎乗数。目標は60歳まで騎手を続けることで、太く短くいきたいです。
調教は今朝で9頭に乗りました。JRAでは元気なのに1~2頭だけの調教で、今の方が体も動いていいし、自分には合っています。調教は任せてくれるので自分で考えてやることができて、走ってくれたらいいなと思いながらJRA20年を含め騎手を40年近くやってきたことを交えてやっていて、すごく楽しいです」


とにかく、乗りたかったのだ。調教もレースも、まだまだ乗れる体力も技術もある。だから、その機会がより多いであろう古巣への復帰を望んだのだ。


他にも、外から園田・姫路競馬を見ていて感じていることがあった。


「売り上げが伸びていて、特に高知競馬が盛り上がっているなと思っていました。高知があれだけ盛り上がるなら、立地的に園田はもっと盛り上がっていいんじゃないかなと考えていました。
また、園田をよく買うファンから『レースがワンパターン化して面白くない』という声を聞いていました。僕自身は強い馬が勝ったらそれでいいなと思うけど、僕が入ることで変わって、また面白いレースができたらいいんじゃないですかね」


似た思いを抱いていたのは、所属厩舎の中塚猛調教師もだった。
「(小牧)太をきっかけにオールドファンがまた戻ってきてくれたら嬉しいし、全国の地方競馬が活性化してほしいね」


その実現に向けて、小牧騎手はこう話す。


「園田で乗るだけじゃなくて、盛り上げていくことにたくさん僕を使ってもらったらいいです」


だからこそ、ファンにこう呼びかけた。


「5~6年燻っていたのを園田で鬱憤を晴らしたいと思っています。頑張るので、ぜひまたこれくらいのお客さんが来てくれたら嬉しいです。暑いですけど、園田競馬場まで足を運んでください」


ここから始まった小牧太第三章は、自身の活躍だけでなく、古巣の再興もかけた日々となりそうだ。


文/大恵陽子


 

各地のリーディング 前編(岩手、金沢、東海)

2024年08月13日

 地方競馬は、競馬場ごとに所属する人数が限られていることから、トップジョッキーに人気馬の騎乗が集中することで勝利数や勝率が突出してしまうこともめずらしくない。ときに勝率4割、連対率6割という成績の騎手が出てくる。たとえば昨年でいえば、高知の赤岡修次騎手は、近年騎乗数を制限するようになったこともあり、必然的に勝てる可能性の高い馬に多く乗ることになって、勝利数(172)こそ全国で12位だが、勝率38.5%、連対率52.6%では断然の数字を残した。「地方競馬は騎手で買え」というようなことをよく言われるのはそのためだ。
 
※以下、通算成績は地方競馬全体での数字。それ以外は特に明記のない限り所属場(地区)での数字を示す。
 
■岩手
 
 岩手リーディングは、岩手所属騎手として歴代最多の地方通算4127勝を挙げた菅原勲騎手(現調教師)が2012年3月限りで引退して以降、村上忍騎手、山本聡哉騎手によるツートップの争いが続いている。
 その2012年から15年までは村上騎手1位、山本聡騎手2位が4年続いたが、16年には初めて年間200勝をマークした山本聡騎手がトップに立ち、18年まで200勝前後の争いで山本聡騎手が3年連続でトップをキープ。
 しかし19年には、岩本怜騎手、鈴木祐騎手ら若手が勝ち星を伸ばしてきたことで勝利数が分散し、150勝前後の争いとなって村上騎手が1位に返り咲き、山本聡騎手が2位となった。
 そして17年ごろから3位、4位を争っているのが、山本政聡騎手と高松亮騎手。
 20年には村上騎手が6月から1カ月ほどの休養があったため、1位は山本聡騎手で、2位に高松騎手が食い込んだ。
 21年は再び村上騎手が175勝でトップに立ち、山本聡騎手はわずか3勝差の172勝で2位。22年は山本聡騎手212勝、村上騎手186勝と、再びハイレベルな争いとなった。
 23年は山本聡騎手が6月に3週間ほど、8月から2カ月半ほど怪我による休養があったため、村上騎手がトップで、2位は高松騎手だった。
 そして今年は8月8日現在、山本聡騎手が93勝で1位。2位は高松騎手80勝、3位は山本政騎手75勝、村上騎手は67勝で4位となっている。とはいえ、トップ4の顔ぶれは変わらない。
 年齢でいえば現在、村上騎手47歳、山本政騎手39歳、高松騎手38歳、山本聡騎手36歳。そろそろ20代の若手の台頭も期待したいところ。
 
■金沢
 
 金沢競馬は年ごとにリーディングの入れ替わりが激しい。それは絶対的な存在である吉原寛人騎手が他場への遠征が多く、地元金沢では騎乗数がそれほど多くないためでもある。
 過去10年、2014〜23年のリーディング1位は、吉田晃浩騎手(14年)、田知弘久騎手(15年)、藤田弘治騎手(16、17、19、20年)、青柳正義騎手(18、21、22年)、栗原大河騎手(23年)。
 金沢競馬は冬季休催があり、基本的には週2日、年間の開催日数は90日(23年実績)と地方競馬では少ない部類で、20年1位の藤田騎手が98勝だった以外、トップ争いは100勝をやや上回る数字となっている。
 ちなみに23年の金沢競馬場のランキングは、122勝を挙げた栗原騎手がデビュー9年目で初めてトップに立ち、以下、2位が120勝で青柳騎手、3位が89勝で中島龍也騎手。吉原騎手は86勝で金沢では4位だが、期間限定騎乗していた高知での58勝などを含め金沢以外でも86勝、年間計172勝を挙げており、金沢所属騎手の地方競馬全体の勝利数では、やはり吉原騎手がダントツの勝利数となっている。さらに昨年の収得賞金は、高知で1億8783万円、金沢で9073.8万円と、賞金の高い高知では金沢の2倍以上を稼いだ。
 今年も8月7日現在、栗原騎手が72勝でトップで、2位が67勝で中島騎手。そして50勝で3位にデビュー2年目の加藤翔馬騎手が躍進している。
 
■東海(笠松・名古屋)
 
 笠松・名古屋は常に騎手が行き来しているので、まずは東海地区としてリーディングを見ていく。
 東海地区では、それまでの吉田稔騎手に替わって2004年に初めてリーディングとなった岡部騎手が、現在まで20年に渡ってほぼ不動といっていいトップを続けている。2014年以降の過去10年で見ても、長期休養があった15年と16年にはトップを譲ったが、それ以外の年はずっと年間200勝前後をキープして東海地区のリーディングとなっている。
 その岡部騎手は、名古屋所属騎手として通算最多勝記録を更新し続け、今年3月21日には地方競馬通算5000勝を達成。8月7日現在の地方通算5109勝は、地方競馬全体で現役4位、歴代でも6位の記録となっている。
 東海地区では開催日数の多い名古屋所属騎手が上位を占めることが多いが、近年、躍進が目覚ましいのが、今年デビュー8年目を迎えた笠松の渡邊竜也騎手だ。22年には所属する笠松競馬場で164勝、23年には同183勝を挙げ、2年連続で笠松競馬場における年間最多勝記録を更新している。東海地区の数字では、22年188勝、23年191勝で、ともに岡部騎手に次ぐ2位となっている。
 今年も8月8日現在、東海地区では184勝で岡部騎手がダントツリーディングを走っているが、2位が135勝でデビュー4年目の塚本征吾騎手(名古屋)、渡邊騎手は133勝で3位。絶対王者・岡部騎手に次ぐ2位の座を、名古屋、笠松の若手2人が争っている。
 岡部騎手は現在47歳。近い将来に来るであろう東海地区の世代交代で、誰がトップに立つのか気になるところ。
 
文/斎藤修

 

【私的名馬録】遠征で輝いた牝馬「トラベラー」

2024年07月30日

遠征先のダートグレードで好走を見せたトラベラー



日本競馬界の歴史に名を刻んだ名馬・競馬ファンの記憶に残る名馬の活躍を競馬ライターたちが振り返る私的名馬録。


今回のテーマは─


"名は体を表す"と言うが、地方馬としてこれほどその名にふさわしい活躍をした馬がほかにいただろうか。


旅の始まりは1999年の3歳時。名古屋の東海クィーンカップを勝って、JRA桜花賞トライアルのチューリップ賞に挑戦したが、さすがに相手が強く13着に敗れた。
当初それほど目立った成績を残していたわけではなく、8月のMRO金賞で6番人気ながら地元重賞初制覇となった。
秋、盛岡・ダービーグランプリGIの前哨戦として、この年から中央交流のGIIIとなった金沢のサラブレッドチャレンジカップでは5着。古馬相手の白山大賞典GIIIもさすがに勝負にならず9着だった。


ところが初めての長距離遠征となったダービーグランプリGIで足跡を残す。
出走12頭で最低人気。前半はほとんど最後方だったが、ラチ沿いから位置取りを上げると直線そのまま内から伸び、勝ったタイキヘラクレスに3/4馬身+2馬身差まで迫る3着と好走。

全国にその名をアピールした。

2000年、4歳となったトラベラーは、6月の百万石賞を制したあと、再び旅に出た。


盛岡・マーキュリーカップGIIIは5着だったが、船橋・日本テレビ盃GIIIで3着に健闘。勝った地元船橋のサプライズパワーに1秒3という差をつけられたが、1歳上のダービーグランプリ馬、ナリタホマレ(4着)に先着した。
地元ならと期待された白山大賞典GIIIだったが7着。2着ハカタビッグワン(笠松)、3着ゴールドプルーフ(名古屋)、5着ミストフェリーズ(高知)ら他地区から遠征の地方馬の後塵を拝した。


それでも名古屋に遠征した東海菊花賞GIIであらためて能力の高さを見せた。
このときも12頭立て11番人気。定位置ともいえる後方3番手からの追走で、名古屋の短い直線を追い込んだ。
人気にこたえて勝ったのは、牝馬ながらこの年の帝王賞GIを制していたファストフレンド。
1馬身半差2着のスナークレイアースを交わすかという勢いで、トラベラーはアタマ差3着。
コースレコードでの決着からコンマ3秒差だった。


遠征で強敵相手に力をつけたトラベラーは地元に戻り、断然人気に支持された北國王冠では2着に3秒の大差をつける圧勝。
続く中日杯でも単勝1.1倍の人気にこたえ連勝となった。


実は金沢所属馬は現在に至るまでダートグレードを勝っていない。
地元の白山大賞典でも、04年エイシンクリバーン、06年ビッグドン、10年ジャングルスマイル、12年ナムラダイキチと、金沢所属馬は2着が4回(地元馬限定だった07年は除く)。
それらより以前、いずれダートグレードを勝てるのではと期待されたのがトラベラーだった。


結果的に勝てなかったとはいえ、他地区遠征のダートグレードで3度の3着はどれも印象深い。


母になったトラベラーは、初仔のトラベラーズギフト(牝、父バチアー)が母と同じ小原典夫厩舎に所属し、北日本新聞杯で3着と好走を見せた。



文/斎藤 修
OddsParkClub vol.63より転載

 

各地の"ダービー"を終えて

2024年07月12日

 例年より日程がやや後ろにずれた兵庫優駿を最後に、各地の"ダービー"が終了した。昨年までは"ダービーシリーズ"として全国的にシリーズ化されていたが、今年はダート競馬の体系整備によって"ダービー"に相当するレースの扱いが変わったため、シリーズではなくなった。しかしながらいずれも1着1000万円を超える高額賞金であり、各地の関係者が目標とするレースであることは変わらない。今回はその各地の"ダービー"を振り返る(写真はいずれも各主催者提供)。
 
佐賀はウルトラノホシが二冠達成
 
 全日本2歳優駿JpnI(6着)から新たなダート三冠へ向けて南関東に遠征を続けたウルトラノホシ。3歳初戦のブルーバードカップJpnIIIでは地方馬最先着の4着、しかも勝ち馬にコンマ2秒差まで迫って爪痕を残し、続いて雲取賞JpnIIIにも遠征したが6着。新たなダート三冠の一冠目、羽田盃JpnIはわずか8頭立てという少頭数ゆえ「出る」と言えば出られただろうが、挫跖の影響などで万全な状態ではなく、地元の3歳重賞に矛先を変えた。
 一冠目の佐賀皐月賞。ウルトラノホシは4コーナーで一気に先頭に立つと、2着デッドフレイに1馬身半差をつける完勝。そして迎えた栄城賞は、今年も日本ダービーと同日の実施。4番手を追走し、全体がペースアップした3コーナー手前から位置取りを上げると、抜群の手応えのまま3〜4コーナーでまくりきり、直線でも軽く追われただけでデッドフレイに4馬身差をつけての圧勝。1〜5着が佐賀皐月賞と同じというめずらしい結果となった。
 ウルトラノホシの秋は、まず9月1日の金沢・西日本3歳優駿が選択肢にあり、9月29日のロータスクラウン賞には佐賀三冠ボーナス(1000万円)の期待もかかる。一方でジャパンダートクラシックJpnI(10月2日・大井)とは日程がかぶるため、地元の三冠か、再び全国区への挑戦か、という選択になりそうだ。
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混戦の東海はフークピグマリオンが二冠
 
 東海地区のこの世代は混戦で推移してきた。一冠目の駿蹄賞は4コーナーで人気3頭の勝負となり、フークピグマリオンが、ライバルのミトノウォリアー、スティールアクターを直線で置き去りにしての圧勝。6馬身差の2着には伏兵ベアサクシードが入った。
 そして迎えた東海優駿。駿蹄賞の勝ち方から単勝1.2倍の断然人気に支持されたフークピグマリオンは、慌てずいつものとおり中団を追走。道中では反応がいまひとつだったか、鞍上の今井貴大騎手が馬群の中で何度もうながす場面があった。しかし3コーナー過ぎで外に持ち出すと、4コーナーでは先頭に立っていたニジイロハーピーをとらえにかかかった。直線では外に大きくよれる気の悪さを見せながらも抜け出し、追ってきた笠松のキャッシュブリッツに1馬身半差をつけての勝利となった。
 冒頭のとおり、混戦と思われてきた東海地区のこの世代。2歳時にゴールドウィング賞を制していたフークピグマリオンは、3歳になって新春ペガサスカップ2着、スプリングカップ3着と惜敗が続いたが、その後は、ネクストスター中日本、駿蹄賞、そして東海優駿と3連勝。混戦に断を下す東海優駿制覇だった。
 鞍上の今井騎手は2006年デビューで、2012年にマイネルセグメントで東海ダービー初制覇。そこからわずか12年で東海優駿(東海ダービー)歴代単独最多となる5勝目となった。
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金沢ではナミダノキスが転入4連勝
 
 金沢一冠目の北日本新聞杯は、2歳時の金沢ヤングチャンピオンシップから冬期休催を挟んで3連勝中だったリメンバーアポロが1番人気に支持されたものの向正面で競走中止。中央未勝利から転入初戦を制していた牝馬のリケアマロンが2着に5馬身差、3着馬にはさらに6馬身差をつけての圧勝となった。
 石川優駿は、そのリケアマロンが単勝1.9倍で1番人気ではあったが、中央未勝利から転入して3連勝のナミダノキスも2.0倍で人気を分け合った。5番手から満を持してという感じでリケアマロンが3コーナー手前で先頭に立ち、楽な手応えのままで直線を向いた。そして後方から懸命に追ってきたのがナミダノキス。手応えでは完全にリケアマロンが押し切るかに思えたが、直線、一完歩ずつ差を詰めたナミダノキスが3/4馬身とらえてのゴールとなった。
 8馬身離れて3着のロックシティボーイも中央未勝利からの転入。4着ダブルアタックは金沢生え抜きだが、5着カレンアイバーソンも中央未勝利からの転入。4着馬以外、中央未勝利からの転入馬が掲示板を占めた。
 鞍上の柴田勇真騎手は、デビュー10年目で石川優駿(石川ダービー)初制覇。金田一昌調教師は今年まで8回の石川優駿(石川ダービー)で5勝目となった。
 ※柴田勇真騎手のインタビューはこちら
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岩手ではフジユージーンが無傷の8連勝
 
 東北優駿は、デビューから無敵の快進撃を続けていたフジユージーンが、単勝元返しの人気にこたえ、大差の圧勝でデビューからの連勝を8に伸ばした。
 2歳時は、北海道から重賞勝ち馬も遠征していた南部駒賞も4馬身差で圧勝して5戦5勝。明けて3歳となり、京浜盃JpnIIからダート三冠を目指すプランもあったが仕上げが間に合わず、始動戦となった水沢のスプリングカップでは2着に2秒4の大差をつける圧勝。東京ダービーJpnI指定競走となっているダイヤモンドカップでも北海道のオオイチョウに4馬身差をつける完勝で、一旦は東京ダービーJpnI出走を決めた。しかし馬房内で寝違えたことなどで調整が間に合わず回避。結局は、東京ダービーの11日後という日程だった地元の東北優駿に出走し、冒頭のとおりの圧勝となった。
 東北優駿まで無傷の8連勝。2着との着差がもっとも小さかったのが、デビュー3戦目、ビギナーズカップの2馬身半差。その能力はまだ底を見せていない。
 夏は休養し、今年からJpnIIのダートグレードとなった地元盛岡の不来方賞で、いよいよ中央勢との対戦となる予定だ。
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高知では圧倒的な強さでプリフロオールイン
 
 高知優駿は、デビュー2戦目から危なげないレースぶりで連勝を続けるプリフロオールインが断然の人気にこたえ、盤石の競馬を見せた。
 抜群のスタートを切ったプリフロオールインは、後続の脚色を測りながらの逃げ。宮川実騎手は持ったままの手応えで3コーナーから徐々に後続を離しにかかった。中団から2番人気のワンウォリアーが徐々に位置取りを上げて来たのを確認すると、4コーナーで軽く気合を付け、直線では再び突き放して楽々と高知二冠達成となった。
 ぴたりと2番手を追走していた浦和のアムクラージュが3コーナー過ぎで一杯になり、3番手のマジックセブンも徐々に遅れだした。そして中団で脚を溜めて自分の競馬に徹したワンウォリアーが2着という展開からも、プリフロオールインの強さが際立っていた。
 そして同じ打越勇児厩舎では、デビューから6連勝で西日本クラシック(園田)を制したシンメデージーが、東京ダービーJpnIで地方馬最先着の4着に好走。底を見せていない同厩舎2頭の直接対決がどこで実現するのかも楽しみになった。
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兵庫は3番人気もマルカイグアス圧勝
 
 デビューから4連勝で一冠目の菊水賞を制し、西日本クラシックでは初の敗戦を喫するも、先着されたのは高知のシンメデージーというオーシンロクゼロ。そして3歳1月のデビューから6連勝でいよいよ重賞初挑戦となったウインディーパレス。兵庫優駿は、地元馬同士では負けていない2頭の馬連複が2.1倍というオッズで一騎打ちかに思われた。しかし勝ったのは、離れた3番人気マルカイグアスだった。
 オーシンロクゼロは課題のゲートで何度か立ち上がって出遅れ、2周目向正面に入ったあたりですでに追走に一杯。一方のウインディーパレスは、逃げたクラウドノイズに競りかけたことで厳しいペースになった。
 勝ったマルカイグアスは、前半縦長となった5番手を追走。ペースが落ち着いたスタンド前で、先行2頭のうしろまで進出すると、向正面の半ばあたりで仕掛けて一気に先頭。あっという間に後続との差を広げると、そのまま直線独走でのゴール。追ってきたウェラーマンが8馬身差2着。さらに10馬身離れて3着には最低人気ゴールデンロンドンが入った。
 人気2頭は、ウインディーパレスが5着、オーシンロクゼロは8着という結果。マルカイグアスは、前走トライアルのオオエライジンメモリアルでウインディーパレスに7馬身差をつけられ2着に敗れていたが、今回はマイナス16キロと馬体を絞る渾身の仕上げと、鴨宮祥行騎手の思い切った仕掛けで歓喜の勝利。橋本忠明調教師、鴨宮騎手、ともに"ダービー"初制覇となった。
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文/斎藤修

 

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