各地の注目馬〜ばんえい・兵庫

2025年04月24日

■ばんえい
 
 ばんえい競馬の新たなシーズン(年度)が4月18日から始まった。ばんえい競馬は、開催が進むにつれてクラスごとに設定されているソリの基礎重量が徐々に重くなっていくので、平地の競馬以上にシーズンの区切りが重要になる。
 そして4月27日には、シーズン最初の古馬重賞、ばんえい十勝オッズパーク杯が行われる。
 昨シーズンの古馬戦線は、メムロボブサップ一強で推移してきた。昨シーズンは11戦10勝で、そのうち重賞7勝。唯一2着に負けたのは、他馬より30キロ以上重い負担重量だった帯広記念。その帯広記念を勝っていれば、ばんえい競馬の古馬重賞全制覇という史上初の快挙となるところだったが、その記録は今シーズン以降に持ち越しとなった。しかしシーズン最後の大一番、ばんえい記念を断然人気にこたえて制し、ばんえい競馬で史上8頭目となる通算賞金1億円を達成した。そのメムロボブサップだが、今シーズンはしばらく休養と伝えられる。主戦の阿部武臣騎手が、ばんえい記念の2日前の調教中に負った怪我で入院中であること、またシーズン前半に賞金を稼ぐと後半の重賞で負担重量が課されて厳しくなることもあるだろう。当面の目標は、5連覇がかかる夏のばんえいグランプリ、古馬重賞全制覇がかかる帯広記念、そしてばんえい記念3勝目というところになる。メムロボブサップはここまで重賞23勝。オレノココロ、ハクサンアマゾネスが保持する地方競馬重賞最多25勝という記録更新も今シーズンの期待となる。
 そのメムロボブサップがしばらく不在となると、今シーズン前半の古馬戦線は"鬼の居ぬ間に"台頭するのはどの馬か、ということになる。
 まず期待されるのは6歳世代。クリスタルコルドは、昨シーズンの前半戦、メムロボブサップ不在の北斗賞、旭川記念を連勝。そこで稼いだ賞金でシーズン後半は苦戦したが、それでも2月のチャンピオンカップで3着に好走した。とはいえその6歳世代で最強と言われているのは、2歳シーズンと3歳シーズンではそれぞれ二冠、4歳シーズン三冠を制したキングフェスタだ。昨シーズンは、夏期の休養から復帰した9月以降、シーズン最終戦の蛍の光賞まで11戦オール連対。重賞勝ちこそなかったものの、ドリームエイジカップ、チャンピオンカップでともにメムロボブサップの2着に善戦した。
 
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旭川記念を制したクリスタルコルド(写真:ばんえい十勝)
 
 ひとつ下の5歳世代は、3歳時にばんえいダービーを制し、4歳シーズン三冠を達成したタカラキングダムが古馬重賞戦線への本格参戦でどこまでやれるか。
 昨シーズン8月以降、13戦5勝、2着3回で掲示板を外していない7歳のオーシャンウイナーも古馬重賞での台頭が期待される。
 3歳世代は、キョウエイエースが2歳シーズン一冠目のナナカマド賞、ばんえいグレードBG1の三冠目イレネー記念を制して世代ナンバー1をアピール。二冠目のヤングチャンピオンシップを制したスーパーシン、翔雲賞を制したスターイチバン、ヤングチャンピオンシップ、イレネー記念でともに2着だったウンカイダイマオーらが続く存在。3歳一冠目のばんえい大賞典は7月20日に行われる。
 
■兵庫
 
 今年、兵庫の3歳戦線で断然の注目となっているのが、デビューから6連勝で一冠目の菊水賞を圧勝したオケマルだ。デビュー戦は1馬身1/4差、2戦目のJRA認定アッパートライは6馬身差をつけて勝ったが、重賞初挑戦となったネクストスター園田は、4コーナー5番手から直線馬場の真ん中を追い込み、逃げ粘るラピドフィオーレをなんとか半馬身とらえたというもの。ここまでいずれも1番人気で勝っていたとはいえ、それほど抜けた存在という印象ではなかった。しかし2歳最終戦の園田ジュニアカップが7馬身差、3歳初戦の兵庫若駒賞が大差、そして菊水賞は好スタートから先頭に立って逃げ切り8馬身差。2歳年末から一戦ごとに力をつけ、兵庫の3歳世代では圧倒的な存在となった。兵庫優駿(6月26日)が目標ということのようだが、その前に西日本クラシック(5月8日)で他地区の3歳トップホースとの対戦はないのだろうか。
 
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菊水賞を制してデビューから6連勝としたオケマル(写真:兵庫県競馬組合)
 
 古馬中距離戦線では、昨年兵庫優駿を制したマルカイグアスが、秋には園田オータムトロフィーを制し、さらに古馬初対戦となった園田金盃も勝って一気に台頭。しかしながら年明けの新春賞では、園田金盃で半馬身差2着だったインベルシオンが3コーナー先頭からマルカイグアスを3馬身半差で振り切って重賞初勝利。2025年の古馬中距離路線はこの2頭が中心かに思えた。ところが姫路の白鷺賞では、中央オープンから転入して年末にオッズパーク2024杯を制していたオディロンが、遠征馬も含めこの2頭をまとめて負かしてしまった。古馬中距離路線は群雄割拠といえそうだ。
 
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白鷺賞を制したオディロン(写真:兵庫県競馬組合)
 
 サウジ遠征から戻ったイグナイターは、野田オーナーのXによると、兵庫大賞典(5月5日)か、オグリキャップ記念(5月15日)から、さきたま杯JpnI(6月25日)が目標となるようだ。兵庫大賞典に出走すれば、地元ファンの前で走るのは2023年9月の園田チャレンジカップ以来1年8カ月ぶりとなる。昨年のさきたま杯JpnIではレモンポップの2着に好走していただけに、2023年のJBCスプリントJpnI以来久々のJpnI制覇への期待となりそうだ。
 
文/斎藤修

 

各地の重賞、2025年度の主な変更点

2025年03月31日

 地方競馬は4月からが新年度。今回は2025年の各地の重賞を中心に、日程や条件など変更があった主なものを紹介する。
 
 ネクストスター北日本は、昨年は門別で行われたため開幕2日目の4月18日という日程で、3歳スプリントシリーズではあるものの4月29日の兵庫チャンピオンシップJpnIIにはつながらなかった。今年は岩手の水沢1400メートルが舞台となり4月6日。これにより5月1日の兵庫チャンピオンシップJpnIIへは中3週弱という日程となった。
 また岩手ではこれまで4月上旬に行われていた3歳重賞・スプリングカップが、ネクストスター北日本の実施にともない、今年は冬期休催明け初日の3月9日に繰り上げて実施。そしてこれまで三冠の前哨戦として1600メートルで行われていたが、ネクストスター北日本の前哨戦の位置づけとなって1400メートルに距離短縮となった。
 そのスプリングカップを勝ったのは、1番人気に支持されたポマイカイ。昨年10月に行われたネクストスター盛岡(盛岡1400メートル)以来の実戦ながら重賞連勝とした。次走に予定されているネクストスター北日本では、北海道からの遠征馬を相手にどんなレースを見せるか。
 岩手では昨年、夏の時期に大雨に祟られることが多く、走路状況の悪化によって7月30日以降、芝のレースがすべてダート変更で行われた。果たして今年夏の天候や馬場状況はどうか。なお、2011年から行われていたOROターフスプリント(盛岡芝1000メートル、3歳以上)が今年は休止となった。OROターフスプリントは過去2年ともダート変更で行われ、川崎のマッドシェリーが連覇していた。
 
 笠松競馬場は今年、走路改修のため6月中旬から8月上旬まで開催休止となる。これにより、6月(もしくは7月)に行われていた、クイーンカップ(1600メートル、3歳牝馬)、7月に行われていたサマーカップ(1400メートル、3歳以上)が休止となる。
 また2023年度まで2月(または1月)に行われていたウインター争覇(3歳以上)が24年度から11月の実施となり、東海ゴールドカップのトライアルとして距離も1800メートルから1900メートルに延長。今年度からは『レジェントハンター記念』に改称された。
 
 名古屋では、トリトン争覇(3歳以上)が今年から1500メートルに短縮。旧競馬場時代には1600メートルで行われていたが、新競馬場に移転した2022年から昨年まで1700メートルで行われていた。名港盃(3歳以上)も今年から1700メートルに短縮。旧競馬場では1900メートルで行われていたが、新競馬場では昨年まで2000メートルで行われていた。
 
 兵庫(園田・姫路)では、これまで2歳重賞として行われていた兵庫若駒賞(園田1400メートル)を今年から年明けに3歳重賞として実施。3月6日で、姫路1800メートルに距離延長となった。2月20日に行われた兵庫ユースカップ(姫路1400メートル、3歳)の短距離路線に対し、兵庫若駒賞は中距離の兵庫三冠の前哨戦となる。
 そしてリニューアルされた兵庫若駒賞を大差で圧勝したオケマルはデビューから5連勝。4月2日の菊水賞(園田1700メートル)でも断然人気となりそうだ。
 
 佐賀では、3歳馬の栄城賞が、『九州優駿栄城賞』と改称された。2001年以降、九州ダービー栄城賞として行われていたが、地方競馬では昨年から大井の東京ダービーJpnI以外で"ダービー"の名称を使用しないことになり、2000年までと同様、栄城賞に戻っていた。そして佐賀の"ダービー"としての位置づけを明確にするため、今年から"九州優駿"が冠されることになった。
 
文/斎藤修

 

レディスジョッキーズシリーズ園田レポート 「疲れない体の使い方ができているのかな」充実表情の木之前葵騎手(愛知)が優勝!

2025年03月27日

3月12日、園田競馬場で初めてレディスジョッキーズシリーズ(LJS)が行われました。平成の時代、インターナショナルクイーンジョッキーシリーズといって、海外から招待した女性騎手と地方競馬の女性騎手の交流レースがこの地で行われたことはありましたが、地方競馬の女性騎手のみで覇を競うLJSは初めて。園田・姫路競馬では2021年4月に佐々木世麗騎手がデビューするまで女性騎手がいませんでしたから、それも当然と言えます。しかし、近年は装鞍所の改築工事に合わせて女性用控室を作るなど少しずつ時代に合わせて進化。


今年のLJSは佐賀ラウンド2戦、園田ラウンド2戦で行われることとなりました。


園田でのLJS開催はファンにとっても待望だったようで、ウイナーズサークルには紹介式が始まる数レース前から人だかり。中島良美騎手(浦和)がエキストラ騎乗で4レースを勝つと、「おめでとう」「サインください」という声がたくさん聞こえてきました。





その4レースは中島騎手にとって今年初勝利ながら、見ていた地元記者は「昨日からの馬場傾向で一番いい位置につけてたね」と評価。本人は「掛かってるー、と思っていました」と言いますが、大山寿文調教師は「それくらいでこの馬はいいねん」と笑顔。先輩女性騎手からも祝福を受けていました。





和やかな紹介式を終えて、第1戦を勝ったのは地元の佐々木世麗騎手(兵庫)。ゲートが直線に入ったところに置かれる1230m戦で、最初のコーナーまでの距離が短くポジション争いが激しくなりやすいコースです。それでも、ゴール板の辺りで隊列はほぼ決まることが多いのですが、この時は違いました。


木之前騎手が逃げるかと思われたところ、1コーナーを回りながら外から並びかけたのが佐々木騎手。このタイミングで強気に位置を取りに行くのが彼女の武器でもあり、逃げ有利なこの日の馬場傾向を味方に押し切り勝ちを収めました。








「この馬に乗っていた大柿騎手から『流していっていいよ』とアドバイスをいただいていたので、馬の気持ちに任せて行ったら、勝てました」
と佐々木騎手。


2着は深澤杏花騎手(笠松)。
1コーナーまでハナ争いがもつれ込んだことでペースが少し速くなっていたため、差し馬に乗っていた彼女向きの展開となりました。
本人も「展開がハマったと思ったんですけど。あそこまでいったら勝ちたかったです」と悔しさを滲ませました。


ちなみに、騎乗馬の厩務員さんも女性で、LJSらしいコンビでした。





3着に塩津璃菜騎手(兵庫)。Bグループの騎乗馬ながら好ポイントを獲得しました。


検量室で泥を落としながら「ヤバい。表彰台にも残れないかも」と嘆いていたのは関本玲花騎手(岩手)。





4日前に行われた佐賀ラウンドでは写真のように和やかなムードで、佐賀第2戦も勝って暫定2位で園田ラウンドを迎えていましたが、ここは7着。


残す園田第2戦はAグループの騎乗馬が当たってはいるのですが、「次のレースは(木之前)葵さんで決まりでしょ。騎乗馬は時計が2秒も速いもん」とやや諦めムード。木之前騎手は佐賀第1戦を勝ち、最終戦を前にしても暫定1位ですから強力なライバルですが、それでもやっぱり表彰台には上りたい思いが伝わってきました。


そうして迎えた最終戦は、やはり木之前騎手が圧倒的に強い競馬を見せて勝利。騎乗馬は3カ月半の休み明けでしたが何のその。逃げ馬直後、園田では「ハコ」と呼ばれる絶好位につけると、4コーナーで外に出して抜け出す当地の王道競馬でした。








「LJSは騎乗馬の成績が順位を左右する部分があって、運が良かったです」


そう笑顔が弾けました。
そういえば、今年のLJSでは明るいキャラクターの木之前騎手の表情がいつも以上に生き生きしていたように思います。写真は佐賀ラウンド第1戦を勝った直後。





さらに振り返ると、ここ1~2年は充実した表情に感じることも多いかもしれません。
それについて聞いてみると、こう返ってきました。


「昔は体力がついてきていなかったのか、体が疲れていました。いまは調教頭数が2~3頭減ったにしても、余裕があります。色々とトレーニングをしたり、ホットヨガに最近通い始めました。体のバランスが持久力に関係していると思っていて、疲れない体の使い方ができているのかな、と思います。馬が好きだし、いま馬乗りが楽しくて仕方ないです」


この時の表情ったら、目を輝かせてキラキラ眩しかったくらい。
以前からトレーニングには取り組んでいて、ジムへの行き帰りも筋トレになれば、とロードバイクを漕いで行くなどしていました。そうしたことが少しずつ実を結んでいるんですね。


そう考えると、LJS優勝は騎乗馬のクジ運に恵まれただけでなく、木之前騎手自身のスキルアップもあるのでしょう。レースぶりを見ていても、安定感がありました。





2位は佐々木騎手。
地元開催とあって声援も多く、表彰式の合間にそれに地声で応える場面を見ると、優勝できずとも表彰台に上れたことは嬉しかったのでしょう。





一旦は諦めかけていた関本騎手は最終戦を3着にまとめて総合3位。なんとか表彰台を死守しました。





「ゴール前は内に(佐々木)世麗と(深澤)杏花がいて、この二人を抜かさないと表彰台はないぞと思っていました」


と胸中を話すと、すかさず深澤騎手が「私も3位ほしかったです」と悔しそうにツッコミ。深澤騎手は総合5位でした。





デビュー1年目でLJS初参戦だった塩津騎手は総合4位。


「第2戦はいけるかと思ったんですけど、勝ち馬が強かったです。2戦とも掛かり気味だったので、悔しいです」


ようやくデビューから丸1年を迎えようかというところで、まだまだ課題はたくさんあるのでしょうが、9番人気3着と6番人気2着は地元で存在感を示しました。





宮下瞳騎手(愛知)は不思議と女性騎手戦に縁がなく総合6位でしたが、昨年は自身2度目となる年間100勝達成など、その実力は誰もが知るところ。


総合7位は神尾香澄騎手(川崎)。
佐賀第1戦ではいい手応えで迎えた直線で進路が狭くなる不利がありながらも、しっかり切り替えて第2戦も騎乗しており、さすが激戦区の南関東でそれなりの数の騎乗を得ているだけあると感じました。


総合8位は中島騎手、9位に入籍したばかりの濱尚美騎手(高知)でした。


ちなみに濱騎手、3月3日に入籍を発表し、結婚後初勝利となったのがLJS佐賀翌日の高知7レース・ヴァンケドミンゴ。それがネットニュースになっていたよ、とレース前に伝えると、「え!そうなんですか。ヴァンケドミンゴ自身もJRA時代からファンの多い馬みたいですね。この馬はコンスタントに使えていたら、状態のいい証だと思っていただけたら」とのこと。LJSは残念でしたが、また地元・高知での活躍を期待しましょう。





文/大恵陽子

 

目覚ましい新人騎手のレベルアップ

2025年02月27日

 JRAではまもなく新人騎手がデビューを迎え、地方競馬でも3月下旬には騎手免許試験合格が発表され、4月1日以降に新人騎手が順次デビューとなる。
 それで思うのは、近年デビューしてくる新人騎手のレベルアップが目覚ましい、ということ。
 NARグランプリ2024で最優秀新人騎手賞に輝いた加藤翔馬騎手(金沢)は、デビュー2年目で112勝を挙げた。ちなみにこの2024年は4月にデビューした望月洵輝騎手(愛知)も実質9カ月で95勝を挙げていたが、受賞は加藤騎手ということになった。
 
 NARグランプリ最優秀新人騎手賞(2022年までは優秀新人騎手賞)の規定は、「前々年の3月31日以降に新規に免許を取得し、前年の地方競馬、中央競馬及び地方競馬登録馬による外国の競走で30勝以上をあげた地方競馬の騎手を対象に、勝利回数、収得賞金額、勝率、重賞競走成績等を総合的に評価して最も成績が優秀であった者」となっている。
 大雑把に言うと、デビュー2年以内の騎手から成績優秀者が選ばれる。
 そして、2019年以降の受賞者の当該年の勝利数を一覧にすると...
 
 2024 加藤翔馬(金沢) 112勝
 2023 山田義貴(佐賀) 118勝
 2022 塚本征吾(愛知)  84勝
 2021 飛田愛斗(佐賀) 145勝
 2020 小野楓馬(北海道) 68勝
 2019 岩本 怜(岩手)  87勝
 
 これ以前の優秀新人騎手賞受賞者の当該年の勝利数は、おおむね50〜60勝台が多く、年によっては30勝台で受賞している騎手もいる。そう考えると、近年の新人騎手賞争いのハードルがいかに高くなっているかがわかるだろう。
 なお、これ以前に80勝以上を挙げて受賞したのは以下。
 
 2011 島津新(ばんえい) 86勝
 2001 吉原寛人(金沢)  95勝
 2000 御神本訓史(益田)152勝
 1997 岡田 大(益田) 110勝
 
 御神本騎手の152勝というのが目を引くが、デビュー年が80勝で、これは2年目の数字。2年目でいきなり益田リーディングのトップに立った。一方、吉原騎手の95勝はデビュー年のもので、4月デビューから約9カ月でこの数字をマークした。
 なお、NARグランプリの表彰は1990年から行われているが、1994年までは表彰者はわかるものの、手持ちの資料では勝利数がわからなかったので、1990〜94年の記録は含まれていない。
 
 そして近年では新人騎手だけでなく、女性騎手のレベルアップも著しい。
 優秀女性騎手賞も、かつては50勝程度かそれ以下で選ばれることが多かった。また「最優秀」ではないので複数名が受賞することもめずらしくなく、2006年に3名が同時受賞ということもあった。
 この賞のハードルを上げてきたのが、2024年に、じつに14度目の受賞となった宮下瞳騎手(愛知)といえる。2020年には国内の女性騎手として初めて年間100勝を超える105勝をマーク。そして2024年は116勝として自身の記録をさらに更新した。
 
 一方で、新人騎手、女性騎手の成績が上がったことによって、ここ2年、不運にも受賞を逃したといえるのが、ばんえいの今井千尋騎手だ。
 今井騎手は2022年12月にデビューし、2023年にはいきなり103勝をマーク。ばんえい競馬の騎手として、デビューから通算100勝達成の最短記録を更新した。その2023年には優秀女性騎手賞を受賞。年間3桁の勝利は、年が違っていれば優秀新人騎手賞とのダブル受賞にもなっただろうが、この年は冒頭の表のとおり、山田義貴騎手(佐賀)が118勝で上回った。勝利数だけでなく、勝率でも、重賞勝ちがあったことでも山田騎手が上回っていたので、残念なが今井騎手は新人騎手賞のほうは逃すという、レベルの高い争いだった。
 そして今井騎手は、2024年にはさらに自身の記録を伸ばして105勝。新人騎手賞の対象からはすでに外れていて、優秀女性騎手賞ならと思われたが、前述のとおりさらに上をいく116勝の宮下瞳騎手がいた。3桁勝利であれば、かつてのように優秀女性騎手賞2名でもよかったように思うが、残念ながらそうはならなかった。
 今井騎手には次年度以降、幸運が訪れることを期待したい。
 
文/斎藤修

 

「2024 IWATE KEIBA AWARDS」授賞式報告~3/9開幕へ

2025年02月27日

岩手競馬は2ヵ月あまりの冬休みが明け、3月9日(日)から再開する。それに先立ち2月7日(金)、盛岡・水沢両競馬場で「調教始め式」を実施。"安全祈願祭"、"馬場清め"を行った。


例年は同日に馬場を開放していたが、折からの寒波襲来による影響で水沢競馬場は2月10日(月)、盛岡競馬場は2月12日(水)まで馬場入れがずれ込んだものの、以降は3月競馬へ向けて着々とトレーニングが進んでいる。


競馬再開へ弾みをつける行事が毎年恒例の「2024 IWATE KEIBA AWARDS」授賞式。今年もホテルメトロポリタン盛岡NEW WING」を会場に2月14日(金)、来賓、競馬関係者、ファンなど約200名が出席。授賞式および交流会が盛大に行われた。


司会はテレビ岩手アナウンサー・中島あすかさん(年度代表馬選考委員会にも出席)、IBC岩手放送・徳岡伶美アナウンサーが務め、式冒頭に岩手県競馬管理者・達増拓也岩手県知事があいさつをした。
「昨年岩手県競馬組合が設立されて節目の60周年を迎え、ダートグレード競走を4ヵ月連続で実施。年度当初の売り上げ計画を上回り、岩手競馬を支持してくれるファンの皆さん、競馬関係者の努力に感謝します」


続いてきゅう舎関係者等表彰(別掲)、岩手県競馬組合創設60周年感謝状贈呈、岩手競馬アワード授与式が行われた。 まず壇上に立ったのは最優秀牝馬ミニアチュール、最優秀短距離馬ゴールデンヒーラーの関係者。2頭ともオーナー・平賀敏男さん、佐藤祐司調教師、渡辺正彦きゅう務員のゴールデントリオで二部門を授賞した。





平賀敏男さん「ゴールデンヒーラーが無事、生まれ故郷の下河辺牧場さんへ移動。繁殖生活に入ったことを報告します。現役時代の5年間はあっと言う間でした。佐藤祐司調教師、渡辺くんが一生懸命に手をかけてくださったおかげです。思い出に残るレースはマイルチャンピオンシップ南部杯5着(2022年)。JBCレディスクラシックは脚部不安のため出走取り消しをしましたが、重賞11勝もしてくれました。今後はいいお母さんになってほしいと思っています。ミニアチュールは小柄な牝馬ですが、シーズン最後の桐花賞でクビ差2着。2000mでも頑張りを見せてくれて私も感動しました。今年5歳になりますが、これからも岩手競馬を盛り上げていってほしいと思っています」
佐藤祐司調教師「ゴールデンヒーラーは2歳で華々しい活躍をしてくれましたから3歳牡馬クラシックに挑戦させましたが、近年にないハイレベル。今振り返ると申し訳なかったと思いますが、引退式まで行っていただき、多くのファンに見送られました。ミニアチュールは門別から転入時、まっすぐ走らないから気をつけてくれと言われましたが、実習時代の(佐々木)志音に乗せたら問題なかった。ですから移籍2戦目以降は重賞路線を歩ませました。桐花賞でもあれだけ走ることを証明しましたからね。牝馬で難しい面がありますから、じっくり使うレースを考えたいと思っています」


2歳最優秀馬ポマイカイは菅原勲調教師、ガンガ・シンきゅう務員が出席した。アワード最優秀馬の担当きゅう務員では初めてインド人の授賞となった。会場にはサリーを身にまとった奥さんとお子さんも来場。岩手競馬も国際色が出てきたなと思ったのは自分だけではないはず。
菅原勲調教師「明日(15日)福島県の、テンコートレセンから帰厩します。今後のローテーションについては白紙です。まずは現時点での成長度合い、状態を把握したいと思っています。新馬戦は思った以上に走ったが、その後は折り合い面で難しいところを出していました。ひと冬を越して距離延長にも対応できるか、見極めたいと思っています。姉(ダイセンメイト)はうちのきゅう舎で年間11勝もした上、昨年は早池峰スーパースプリントを勝ってくれた。その弟でしたし、体も良かったので馬主さんにすすめましたが、1000万レース(ネクストスター盛岡)を勝ってくれてホッとしました」





4歳以上最優秀馬はヒロシクン。壇上に佐藤雅彦調教師、佐藤航紀きゅう務員、そして主戦の高松亮騎手が壇上に上がった。
高松亮騎手「最初、騎乗した印象は子供っぽいけどかわいらしい馬―でした。最初はB級スタートでしたが、重賞3勝するまで成長してくれて本当にうれしいです。自分は首を骨折しましたが、しっかり治して今年もヒロシクンといっしょに成長していけたらと思っています」
佐藤雅彦調教師「B級で3連勝をした後、当時入院中だったオーナーの瀬谷隆雄さんを元気づけたいと思い、一條記念みちのく大賞典へ挑戦しました。桐花賞まで地元同士の戦いでは負けなし。オーナーも非常に喜んでくれました。ヒロシクンは常にマイペースの馬ですからね。どの距離がベストなのか分からないのが正直なところ。今年はいろいろ試しながらローテーションを決めたいと思っています」





馬事文化賞は『持続可能は馬資源の活用を目指す』ジオファーム八幡平 企業組合八幡平地熱活用プロジェクト代表理事・船橋慶延さん、全日本総合馬術・内国産総合馬術初代王者・菅原権太郎さん(日本大学職員)のお二人。
授賞式が終わり、交流会が始まる約15分の間、とある方が声をかけてきた。2006年当時、水沢青年会議所理事長の石川悦也さんだった。ご記憶の方もいるかもしれないが、同年6月、福永祐一元騎手(現調教師)が水沢競馬場の一日場長を務めてくださったが、実現に向けて尽力した中心人物が石川さんだった。
久々の再会に加え、場所がアワード受賞式だったので、思わず「なんで今日いるんですか?」と失礼な質問をしてしまった。
「実は菅原権太郎は長男。そして次男は現在、ジオファーム八幡平に従事していますから家族でダブル授賞です」と石川悦也さん。驚きを越して二人で大笑いしてしまった。これもかつて馬産地、馬の育成で名を馳せた岩手ならではだと思った。
すかさず隣にいた菅原健太郎さんに話を聞いた。「今後の乗馬を考えたとき、内国産部門の創設は意義あることですよね」。明確な返答だった。
「馬術競技で主流はヨーロッパ産ですが、日本のサラブレッドは現在、世界レベル。競馬で一流レベルの成績を残したサラブレッドが、乗馬へ転向しても活躍するケースは数多くあります。引退後、選択肢の一つとして積極的にお誘いしていきたいと取り組んでいます」
3月競馬が再開したら石川さんが経営するジャマイカ料理店「ROYALジャマイ館」に行こうと思っている。水沢駅(東北本線)東口から徒歩10分、水沢競馬場にも2キロ圏内。興味がある方は是非、訪れてみてください。





トリはもちろん満場一致で選ばれた年度代表馬および3歳最優秀馬フジユージーンの関係者。
有限会社富士ファーム代表・川口巌さん。「一昨年はフジラプンツェルで2歳最優秀馬。昨年はフジユージーンで2歳最優秀馬。今年は年度代表馬、3歳最優秀馬に選んでくださり、みなさんに感謝しております。印象に残っているのはジャパンダートクラシック挑戦。負けはしましたが、馬が育った気がします。楠賞ではスタートがうまくいかなくてひやひやしましたが、村上騎手が落ち着いて乗ってくれました。びっくりするくらい全国にファンが多くて、注目度がすごく高い馬だなと思っています。私自身が鞍つけから始まり、馴致しましたからより思い入れが強い馬。来シーズンの活躍も期待しています」
瀬戸幸一調教師「使う度にプレッシャーは大きかったですけど、その中でも調教などをきっちりやってくれたので、自信を持って出走させることができました。状態づくりがすごく難しく、スタッフのみんなが真剣に考えてくれていました。今年は昨年と同じくらいのペ-スで出走させたいと思っています」
フジユージーンの最大目標はJpnI・マイルチャンピオンシップ南部杯だと公言済み。そこへ向けてどのようなステップを踏んでいくのか、みなさんも注視してほしい。





岩手県競馬組合厩舎関係者等表彰
調教師部門
最優秀勝利回数 佐藤雅彦
最優秀賞金獲得 菅原勲
最優秀賞率   菅原勲


騎手部門
最優秀勝利回数 山本聡哉
最優秀賞金獲得 山本聡哉
最優秀勝率   山本聡哉
ベストフェアプレイ賞 村上忍
通算勝利2500勝 山本聡哉
通算勝利2000勝 阿部英俊
新人騎手      坂井瑛音





写真提供:岩手県競馬組合
文:松尾康司

 

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