【私的名馬録】GIでも互角に戦ったゴールドプルーフ
2025年01月08日
全日本サラブレッドカップでダートグレード初制覇
日本競馬界の歴史に名を刻んだ名馬・競馬ファンの記憶に残る名馬の活躍を競馬ライターたちが振り返る私的名馬録。
今回のテーマは─
1999年1月31日は地方競馬の関係者、ファンにとって忘れられない日だ。岩手のメイセイオペラがフェブラリーステークスを勝って、地方馬として初の中央GIを制覇した日である。
さらに3日後の2月3日にも川崎記念GIで、船橋のアブクマポーロが中央馬を抑え、地方馬によるGI連勝を達成した。
地方ファンの私にも溜飲が下がったが、その川崎記念で、2頭に続く地方の期待馬が出現したことも深く脳裏に刻まれている。
川崎記念3着だった名古屋・今津勝之厩舎のゴールドプルーフの走りは衝撃的だった。
東海地区で重賞を総なめにしたゴールドレツトが父という血統も琴線に触れるが、当時4歳(現表記)のゴールドプルーフは直前に地元重賞の新春グランプリを制して4連勝中。
勢いに乗っていたが、ダートグレード初出走がいきなりのGI。
相手はアブクマポーロだけでなく、中央馬には前年のドバイワールドカップに挑戦したキョウトシチー、"女オグリ"と呼ばれたマツクスフリートの半弟ナリタホマレもいた。
ゴールドプルーフを担当する田畑伸一郎厩務員も「相手は強いし、いい経験になれば」くらいの思いだった。
ところがレースでは好発を決めると、好位の内で脚をため、4コーナーでは先頭に立って、勝ちに行く競馬。
これがダートグレード初挑戦かという堂々たるレースぶり。
結果こそアブクマポーロ、キョウトシチーに差されたが、新たな地方のスターが、そして自分の中で名馬が誕生した瞬間だった。
しかしその後は、名古屋大賞典GIIIで2年連続オースミジェットの2着や、オグリキャップ記念GIIでは川崎記念GIで先着したナリタホマレに雪辱を許しての3着など、中央馬とも互角の勝負を繰り広げるが、勝ちきれないレースが続いた。
田畑厩務員は「距離の長い短いは問わないし、気性も大人しかった」と話すように、折り合いなど乗り手には従順だが、大人しい気性が、ここ一番の踏ん張りに響いたかもしれない。
ダートグレード初勝利は01年笠松の全日本サラブレッドカップGIII。
ダートグレードに挑戦すること18戦目だった。
4コーナー先頭からマンボツイスト、ブロードアピールの猛追を封じた。
待ちに待った勝利にスタンドのファンは熱い声援で迎えた。
「球節が弱く、常にケアしてました。
すくみもあったので、全休日でも先生が引き運動しました。僕も当時はまだ20代。
今なら、もっと早くに勝たせてあげられたかなと思ったりもします」と田畑厩務員は振り返る。
02年には3度目の挑戦となる川崎記念で勝利寸前のところを内リージェントブラフ、外ハギノハイグレイドに差され、タイム差なしの3着で、またもや惜敗。
しかし翌03年、中央に挑戦した東海ステークスGIIではアタマ差での2位入線も、1位入線ディーエスサンダーが進路妨害による3着降着で繰り上がり1着の幸運もあった。
頂点(GI)にこそ、あと一歩届かなかったが、見せ場たっぷりのその走りは、打倒中央を願う地方ファンの思いをしっかりつかんでいた。
文/松浦 渉
OddsParkClub vol.68より転載
2024年を振り返る(兵庫・高知・佐賀)
2024年12月30日
【兵庫】
2024年、兵庫で最大のトピックといえば、イグナイター(牡6)のドバイ(ドバイゴールデンシャヒーン)遠征だろう。兵庫からの海外遠征は初めてのことで、多くのことが手探り状態での5着は健闘といえる。今後、地方競馬からも海外遠征の機会が増えると思われ、イグナイター関係者だけでなく、大きな経験になったはずだ。
イグナイター不在となった春に短距離路線で輝いたのがタイガーインディ(牡7)だった。2月の兵庫ウインターカップで遠征馬を相手に5馬身差で圧勝すると、高知・黒船賞JpnIIIでは7番人気ながら3着に好走。今年から1400メートルに距離短縮となった兵庫大賞典でも5馬身差で圧勝。笠松・オグリキャップ記念では、黒船賞JpnIIIで先着(2着)された高知のヘルシャフトをクビ差で抑えての勝利となった。そして夏には佐賀・サマーチャンピオンJpnIIIに遠征し、ここでも3着に好走してみせた。しかしその後に骨折が判明し、引退となったのは残念だった。
そのサマーチャンピオンJpnIIIを8番人気で制したのがアラジンバローズ(セン7)。中央時代はダート1600〜1800メートルを中心に活躍してオープンまで出世。兵庫移籍後も佐賀・鳥栖大賞(2000メートル)や新春賞(1870メートル)を制するなど、当初は中距離で活躍したが、中央時代にも経験のなかった1400メートルの舞台でも能力を発揮した。サマーチャンピオンJpnIIIは54キロのハンデに恵まれたこともあったが、同じ佐賀1400メートルが舞台のJBCスプリントJpnIでも中央の一線級相手に3着に好走。イグナイター(4着)にも先着して、短距離路線でイグナイターとともに新子雅司厩舎の2枚看板となった。
中距離路線では兵庫生え抜きで、古馬中距離路線では常に中心的存在だったジンギが、8歳になった今年は2戦とも着外となって引退。7月25日には引退式が行われた。
代わって古馬中距離路線を牽引したのが、白鷺賞、六甲盃を制したラッキードリーム(牡6)だったが、同馬はその六甲盃を最後に大井に移籍した。
そして今年後半、一気に台頭したのが、3歳のマルカイグアス(牡3)だった。2歳時にも園田ジュニアカップを勝っていたが、3歳になっての今年前半は菊水賞を回避するなど順調には使えず、西日本クラシックでも高知からの遠征2頭に先着されて3着だった。しかし兵庫優駿を制すると、園田オータムトロフィー、さらに古馬初対戦となった年末の大一番・園田金盃も勝って重賞3連勝。2025年の古馬中距離戦線では中心的な存在となりそうだ。
【高知】
高知では近年の賞金アップにともなって生え抜きから全国区の活躍馬が出ているが、この年の3歳馬では2頭が印象的な活躍を見せた。
2歳時、デビュー2戦目から連戦連勝のプリフロオールイン(牡3)は、圧倒的な強さで高知三冠を制覇。2着につけた着差は、6馬身、7馬身、5馬身というものだった。
一方、2歳のデビューから無敗のまま土佐春花賞を制したシンメデージー(牡3)は、園田に遠征した西日本クラシックを勝利。あらたにJpnIとなった東京ダービーでは地方馬最先着の4着、金沢で行われた西日本3歳優駿を大差で圧勝すると、ジャパンダートクラシックJpnIでも地方馬最先着の5着。地元に戻って土佐秋月賞を制すると、古馬初対戦となった名古屋大賞典JpnIIIでもゴール前接戦の3着に入った。ダートグレード3戦いずれも地方馬最先着で、まだ地方馬には先着されていない。
この2頭は同じ打越勇児厩舎。うまくレースを使い分けてこられたためここまで未対戦。4歳になっての古馬戦線で直接対決が実現するのかどうか、注目だ。
古馬短距離路線では、23年に最下級条件からA級まで出世したヘルシャフト(牡7)が絶対的な存在となった。黒潮スプリンターズカップ、御厨人窟賞を連勝すると、ダートグレード初挑戦の黒船賞JpnIIIでも2着。さらにトレノ賞、建依別賞も制し、1300/1400メートルの重賞で4勝を挙げた。
古馬中距離戦線で注目となったのが、22年の二冠馬ガルボマンボ(牡5)、23年の三冠馬ユメノホノオ(牡4)の対戦。二十四万石賞ではユメノホノオがガルボマンボに1馬身差をつけて勝利。珊瑚冠賞では逆にガルボマンボがユメノホノオに3馬身差をつけて勝利。それぞれ今年のタイトルはここまでひとつずつだが、大晦日の高知県知事賞が昨年に続いて雌雄を決する舞台となる。昨年、直線2頭が馬体を併せての一騎打ちは、半馬身差でユメノホノオに軍配が上がったが、果たして今年は。
なお打越調教師は今年12月28日現在で、227勝、勝率32.7%は、ともに2位に差をつけての全国1位。収得賞金5億2000万円余りも、浦和・小久保智調教師(7億1900万円余り)に次ぐ2位となっている。
【佐賀】
佐賀では、ウルトラノホシ(牡3)による新たなダート三冠に向けての挑戦が全国的な注目となった。2歳時の全日本2歳優駿JpnI(6着)に続いて南関東遠征となったブルーバードカップJpnIIIでは、勝ったアンモシエラにわずか0秒2差の4着で地方馬最先着。さらに雲取賞JpnIIIにも遠征したが6着。ダート三冠への挑戦は断念することとなったが、地元では佐賀皐月賞、栄城賞の二冠を圧倒的な強さで制した。
古馬では、テイエムフェロー(牡5)が佐賀スプリングカップ、佐賀がばいスプリント、吉野ヶ里記念と、1300〜1800メートルという幅広い距離で今年前半に重賞を3連勝。また、春に大井から転入したアエノブライアン(牡6)は、佐賀王冠賞、九州大賞典と長距離重賞2勝をはじめ、8戦オール連対と安定した走りを見せた。
そして年末の中島記念では、JBCクラシックJpnI・4着好走のあと佐賀に移籍したシルトプレ(牡5)が、アエノブライアンに5馬身差をつけて圧勝。2025年の佐賀記念JpnIIIでは地元の期待となりそうだ。
2歳では牝馬ミトノドリームが、九州ジュニアチャンピオン、ネクストスター佐賀を制してデビューから3連勝。2着との着差が6馬身、5馬身、4馬身差といういずれも圧勝だっただけに、年明けの3歳戦線で注目となりそうだ。
文/斎藤修
2024年を振り返る(岩手・金沢・笠松・名古屋)
2024年12月24日
【岩手】
2024年の岩手競馬の主役は、なんといってもフジユージーン(牡3)だろう。新たなダート三冠が始まった年に、全国レベルで注目となる1頭だった。
シーズン当初は羽田盃の前哨戦からというプランもあったが、体調が整わず前半は開幕から地元戦を使われ、デビューから無敗のまま8連勝で東北優駿を制した。そしていよいよ中央馬との対戦となったのが、この年からダート三冠目の前哨戦としてJpnIIに格付けされた不来方賞ということでは、なお期待が高まった。結果は4着だが地方馬最先着で、地元期待の面目は保った。三冠目のジャパンダートクラシックJpnIにも挑戦し、4番手あたり好位を追走したが、勝負にいったぶん直線では脚が上がって10着だった。
それでも園田に遠征した楠賞(1400メートル)は距離不足かとも思われたが、先行勢ハイペースの激戦から直線3頭の接戦を制し、あらためて全国レベルの能力を示した。
古馬では中央1勝クラスから転入したヒロシクン(セン5)が連戦連勝。ダートグレードはさすがに厳しかったが、地元馬同士では7戦全勝。重賞は、一條記念みちのく大賞典、青藍賞、トウケイニセイ記念を制した(12月23日現在)。大晦日の桐花賞も勝って1年を締めくくるかどうか。
牝馬では、昨年東北優駿やひまわり賞など牡・牝の3歳変則四冠を制したミニアチュール(牝4)が幅広い距離をこなし、ビューチフルドリーマーカップ、ヴィーナススプリント、すずらん賞と重賞3勝。またゴールデンヒーラー(牝6)は短距離に専念して、白嶺賞、栗駒賞、岩鷲賞と重賞3勝を挙げた。なおゴールデンヒーラーは12月23日のスプリント特別(5着)がラストランとなった。
記録的なことでは、阿部英俊騎手が10月21日に地方通算2,000勝を達成。村上忍騎手が岩手競馬歴代通算最多勝記録となる4,128勝を11月19日に達成した。
残念だったのは大雨の影響で盛岡芝コースの走路状態が悪化し、7月下旬以降、芝コースの使用を断念したこと。7月21日までで芝コースのレースが行われたのはわずか8戦。そのうち2歳新馬戦は1戦のみで、重賞はいしがきマイラーズが行われたのみ。7月30日以降に予定されていた芝重賞8レースはすべてダートに変更して実施された。
【金沢】
金沢を盛り上げたのはハクサンアマゾネス(牝7)。昨年(2023年)末に移転50周年記念金沢ファンセレクトカップを制して重賞21勝とし、カツゲキキトキトによる地方競馬の平地重賞最多勝記録(20勝)を更新したが、7歳になった24年も現役を続行。利家盃、百万石賞ではともに4連覇を果たし、園田に遠征しては兵庫サマークイーン賞、兵庫クイーンカップをともに連覇し、重賞25勝。ばんえい競馬のオレノココロによる地方競馬の重賞最多勝記録に並んだ。そして引退レースとなった中日杯には記録更新を賭けて臨んだが、果敢な逃げを見せたマリンデュンデュン(牡4)をとらえきれず2着。タイ記録までで記録更新はならなかった。それでも平地競走としては断然の記録。12月3日には引退式が行われた。
3歳戦線では、中央未勝利から転入したナミダノキス(牡3)が石川優駿、サラブレッド大賞典の二冠を制して6連勝。中日杯でもゴール前で2着ハクサンアマゾネスにハナ差と迫る3着に好走を見せた。
記録的なことでは、吉原寛人騎手が2月22日に姫路競馬場の兵庫ユースカップを高知のリケアサブルで制し、地方競馬(平地)全場重賞制覇を達成。また4月18日には浦和競馬第2レースを勝って、地方通算3,000勝を達成した。
残念だったのは、ショウガタップリ(牝4)が8月28日に腸捻転に伴う疝痛のため死んだこと。デビューから無敗のまま11連勝で石川ダービーや加賀友禅賞を制し、佐賀に遠征して西日本ダービーも制した。通算成績は17戦12勝(うち重賞7勝)。なお吉原騎手はその西日本ダービー(23年9月10日)を制したことで、地方競馬全場重賞制覇へ、残すは姫路のみとしていた。
ショウガタップリは残念だったが、同じ馬主、調教師のショウガマッタナシ(牝2)がネクストスター金沢を制し、翌年への期待をつないだ。
【笠松】
笠松の重賞戦線では、名古屋や他地区の馬たちを相手に地元馬は苦戦が続いた。笠松競馬場で実施された重賞を地元馬が制したのは、サマーカップのエイシンヌウシペツ(牝5)、オータムカップのキャッシュブリッツ(牡3)、そして笠松所属馬のみで争われるネクストスター笠松のブリスタイム(牡2)の3頭だけ。大晦日の東海ゴールドカップでは、キャッシュブリッツ、中央オープンから転入して初戦を制したサヴァ(牡6)らに地元の期待がかかる。
一方で記録的なことでは、渡邊竜也騎手が笠松競馬場における年間最多勝記録を更新。昨年(2023年)自身でマークした183勝を上回る184勝目を10月23日に達成。その後も勝ち星を伸ばし、12月22日現在、笠松で227勝としている。また12月13日には地方競馬通算1,000勝をデビュー8年目で達成した。
その渡邊騎手の所属厩舎、笹野博司調教師も笠松競馬場における年間最多勝記録を更新。前年自身でマークした173勝を上回る174勝目を11月19日に達成。12月22日現在、笠松で187勝と記録を伸ばしている。
【名古屋】
名古屋では、フークピグマリオン(セン3)が東海地区の3歳三冠を制覇。12月22日現在で、今年は重賞のみ9戦して6勝、2着3着各1回。3着以内を外したのは園田に遠征した楠賞の5着だけだった。大晦日の笠松・東海ゴールドカップで古馬も含めた東海地区の頂点に立つことができるかどうか。
古馬戦線では、セイルオンセイラー(セン5)がウインター争覇、飛山濃水杯、くろゆり賞と笠松で重賞を3勝。昨年長距離戦で活躍したアンタンスルフレ(セン6)は、今シーズンなかなか結果が出なかったものの、金沢の北國王冠(金沢)で今年の初勝利を挙げるとともに、同レース3連覇を達成した。
記録面では、岡部誠騎手が3月21日に通算5,000勝を達成。
宮下瞳騎手は、令和6年春の褒章で黄綬褒章を受賞。11月21日には今年106勝目を挙げ、自身が持つ日本人女性の年間最多勝記録を更新。12月22日現在で116勝まで記録を伸ばしている。
そして地方競馬の調教師として最多勝記録を更新し続けている角田輝也調教師は、12月5日に地方競馬通算4,300勝に到達した。
文/斎藤修
ヤングジョッキーズシリーズ・ファイナルラウンド園田をリポート!
2024年12月20日
今年の「ヤングジョッキーズシリーズ・ファイナルラウンド」は、12月12日(木)が園田競馬場で、14日(土)がJRA中京競馬場。出場騎手は地方競馬とJRAそれぞれの東日本・西日本の予選(トライアルラウンド)でたくさんのポイントを獲得した上位4名、合計16名です。
唯一の例外は、ファイナルラウンドに進出を決めていた大江原比呂騎手(JRA関東所属)がケガをしてしまったため、予選5位から繰り上げ出場となった石田拓郎騎手。
大江原騎手のことは気にかけながらも、
「出場できることになったのは正直なところ、うれしく思いました」
とのこと。ちなみに、もともと土曜日は中京競馬場にいる予定だったそうです。
それでは改めて、出場騎手をおさらいしましょう。
【地方競馬・東日本】
室陽一朗(むろ・ひいろう・浦和=今年は愛知で期間限定騎乗をしました)
鷹見陸(たかみ・りく・大井)
谷内貫太(たにうち・かんた・大井)
及川烈(おいかわ・れつ・浦和=一昨年は笠松、今年は高知と佐賀で期間限定騎乗をしています)
【地方競馬・西日本】
土方颯太(ひじかた・そうた・兵庫=今年デビュー)
長江慶悟(ながえ・けいご・笠松)
加藤翔馬(かとう・しょうま・金沢)
望月洵輝(もちづき・じゅんき・愛知=今年デビュー)
【JRA・東日本】
佐藤翔馬(さとう・しょうま)
長浜鴻緒(ながはま・こお=今年デビュー)
土田真翔(つちだ・まなと)
石田拓郎(いしだ・たくろう)
【JRA・西日本】
橋木太希(はしき・たいき=今年デビュー)
河原田菜々(かわはらだ・なな)
田口貫太(たぐち・かんた)
古川奈穂(ふるかわ・なほ)
園田競馬場は同時に出走できるのが12頭までなので、16名の騎手は3つのレースのうち2つに騎乗します。
第3レース後の紹介式には、大井の2名が調教を終えてから移動したため間に合わず。そのため並んだのは14名でしたが、渡された記念品の「そのたんティッシュケース」(各騎手の勝負服キーホルダーつき)を手に、ひとりずつ意気込みを話しました。
ちなみにこの商品は、園田競馬場のスタンド1階にある「そのたんショップ」で販売されています。
しかし平日の正午前だというのに、西ウイナーズサークルの前に集まったカメラ持参のファンの多いこと!
そのなかには出場騎手の家族の姿もありました。そういえば、各地区の出場騎手のなかには「父が騎手だった」という人が1人ずつ含まれていますね。そして4人の父はすべて、現在は調教師。そのなかのひとりが佐藤翔馬騎手で、お母さんが園田競馬場に来て、競馬学校で同期だった河原田菜々騎手のお母さんと一緒に見守っていました。 その2名はファイナルラウンド園田・第1戦に登場。佐藤騎手は9番人気馬で4着、河原田騎手は4番人気馬で9着でした。 この写真は、佐藤騎手のクランテミスを管理する諏訪貴正調教師がゼッケンを手にしたところ。ついでに河原田騎手のゼッケンも持ってもらいました。
このレースで勝利を挙げたのは大井の鷹見騎手。単勝1.6倍と断然人気でしたが、パドックでは興奮ぎみ。さらに、気温が低いのに馬体からは汗が......
それでもゲートが開くと楽に先手を取って押し切りました。そのレースを振り返ってもらうと、
「返し馬でも待機所でもなんかヘンな感じで、それで(兵庫の)土方騎手に『いつもこんな感じなの?』と聞いたら、もしかしたら待避所で大きく回っているからかも、と教えてくれて、それで小さく回るようにしたら落ち着いてくれました」とのこと。勝利へのアシストをした土方騎手は8着でした(10番人気馬でしたが)。
2着に入ったのは及川騎手。ところで勝負服がいつもよりテカってない?
「いつもこんな感じですよ。でも、これは自分が持っているなかでいちばんいい服ですね」 及川騎手は佐賀での期間限定騎乗を25年1月26日まで延長。オレンジの蛍光色が"ほとめきナイター"でたくさん目立つことを期待しましょう。
続く3着は長江騎手。「100勝にリーチがかかっている状態で来ちゃいました。ここで勝てれば」と話していましたが、残念ながらメモリアルは地元で、ということになりました。
続く第2戦は、第1戦で鷹見騎手に"勝利へのアドバイス"をした土方騎手が1番人気馬で余裕十分の差し切り勝ち。第2戦は1870mだったので、この距離での経験値が圧倒的に高い点はアドバンテージになったといえるでしょう。
「思ったよりもペースが落ち着いて、インコースを回っていたので前が開くかどうか、というところはあったのですが、そのあとうまく外に進路を見つけることができて良かったです」
と話す姿は、2007年2月9日うまれの17歳とは思えぬ雰囲気。でも表情は17歳かな?
それを近くで見ていたのが同期デビューの塩津璃奈(しおづ・りな)騎手。トライアルラウンドは16人中で13位でした。
「来年はファイナルに進みたいですね。レディースジョッキーズシリーズがあれば(地元のほかの新人騎手より)遠征機会が多くなるので、それをプラスにしたいです」
ただ、来年は兵庫に2名の新人騎手が誕生する予定。さらに厳しい戦いになるかもしれませんが、次はファイナルへの進出を期待しましょう。
今年の兵庫デビュー騎手は4名。土方騎手と勝ち星の数で競っている新庄海誠(しんじょう・かいせい)騎手は、
「来年はファイナルに出たいと思います」
と、普通のコメント。以前は早々にヤングジョッキーズシリーズに出られなくなる(つまり減量騎手を卒業する)というような話をしていた気が......
すると「あまり大きいことは言いたくないんで」と背中を丸めて退散。その様子を高橋愛叶(たかはし・まなと)騎手が先輩の鞍を磨きながら見ていました。引き続き、兵庫でのヤングジョッキーズの戦いにも注目です。
第2戦で2着に入ったのはJRAの橋木騎手。トライアルラウンドでは6戦して、2着4回という成績で1位通過でした。そしてファイナルラウンドでもまた2着。「もう2着はいいんですけど......」と、苦笑いでした。
3着は谷内騎手。「2番手に付けられましたが、反応させ切ることができなかったです」と、レース内容を振り返りました。それでも"大きい着順をなるべく取らない"ことがジョッキーレースでの注意点。実際、7番人気馬で4着に入った室騎手は、それが最終での結果につながることになりました。
最終戦となる第3戦は1400m。2戦連続2着で臨んできた馬に騎乗した長浜騎手が勝利。勝ち時計の1分34秒3は、同じクラスで行われた第1戦より1.5秒も遅いものでした。道中は11頭がほとんど一団で、2コーナーから仕掛け始める馬も複数いたほど。
その難しい流れのなか、好位から差し切った長浜騎手は、勝因のひとつに「先週、園田で乗ったこと」を挙げていました。
その「先週」とは、12月5日(木)の「JRA交流武庫川特別」(1400m)。そこに、所属している根本康広厩舎の馬とともに遠征したのです。これはおそらく根本調教師からの"アシスト"。その想いに応える結果となりました。
2着は最後方から追い込んできた鷹見騎手。金沢の加藤翔馬騎手は逃げ粘りましたが、2着からクビ差の3着でした。 「道中でガツンとくるところがあれば......」と、加藤騎手は言葉少なく振り返りましたが、ほかの競馬場への遠征機会が少ない金沢所属騎手は相対的に不利といえるかも。「左回りはデビュー前の教養センター以来。そこをもう1回、イメージし直して頑張ります」と、土曜日に向けて笑顔を見せました。
一方、9着、10着と2戦ともブービーだったのが望月騎手。
「第2戦は馬なりで気持ちよく行かせたんですが......。園田は名古屋と違ってインコースが開かないですし」と、初めての競馬場に戸惑いがあった様子。それでも気持ちを切り替えて土曜日の第2戦で単勝99倍のブービー人気馬(ちなみに根本厩舎)で勝利。さすが4月のデビューから80勝以上を挙げている"スーパーゴールデンルーキー"の腕を見せました。
望月騎手の実家は愛知県豊橋市。そこから最寄りの競馬場で、家族や親類が見守るなかで2着、1着と活躍し、総合2位に入りました。
優勝したのは園田で1着、2着と活躍した鷹見騎手。3位は中京の第1戦を制した室騎手で、地方所属騎手が表彰台を独占。この結果を見て、ファイナルに進めなかった騎手たちのモチベーションも上がったことでしょう!
文/浅野靖典
古馬重賞全制覇へメムロボブサップ
2024年11月29日
メムロボブサップの勢いが止まらない。
11月24日のドリームエイジカップを勝って今シーズン負けなしの8連勝。重賞も今シーズンだけで5勝で、通算では21勝とした。まだ8歳なだけに、オレノココロの重賞25勝という記録更新も見えてきた。
さらに、ドリームエイジカップを勝ったことで、ばんえい競馬の古馬重賞全制覇まで、残すところは帯広記念のみとなった。
ドリームエイジカップを制して古馬重賞全制覇に王手をかけたメムロボブサップ(写真:ばんえい十勝)
メムロボブサップは今シーズン、年度最初の重賞・ばんえい十勝オッズパーク杯を初めて制したことで、古馬重賞(牝馬限定戦を除く、以下同)全制覇を目標にレースを選んで使われてきたと思われる。
「レースを選んで使われてきた」というのは、早い時期に勝ちまくってしまうと、後半になると重量を課され、後半の重賞が勝ちにくくなるためだ。
ばんえい競馬の古馬重賞は、シーズン最初のばんえい十勝オッズパーク杯、そしてクライマックスのばんえい記念を除き、いずれも賞金別定戦となっている。そのためメムロボブサップは、これまで後半の重賞では重量的に不利になり、ライバル・アオノブラックにタイトルをさらわれることが多く、たとえば10月下旬に行われる北見記念は昨年までアオノブラックが3連覇していた。
そういうわけで、今シーズンのメムロボブサップは、ばんえい十勝オッズパーク杯を制したあとは、すでに制している北斗賞、旭川記念には出走せず。ばんえいグランプリで4連覇を果たすと、そのあとの岩見沢記念、北見記念は、ともに初制覇となった。
ドリームエイジカップも、これまで2020〜22に出走(23年は不出走)していたが、2、2、3着と勝ちきれず。20年は10kg軽いアオノブラックに先着を許し、21年は牡馬同士で最大40kg、22年は同じく最大70kgという重量差に苦しめられてきた。しかし今年はシーズン前半を休んだため、牡馬同士で最大30kg差。それゆえ2着のキングフェスタに10秒以上の差をつけての圧勝となった。
さて、残すところは帯広記念。これまでは22年9着、23年2着、そして24年も2着。
帯広記念は基礎重量890kg。メムロボブサップはこの3年間、いずれも別定40kg増の930kgでの出走だった。さすがにその重量差は現役最強馬といえども、いかにも厳しい。むしろ2着に入ったことでは、あらためて飛び抜けた強さを示したといっていいだろう。
そして今シーズンは、このあと賞金を稼ぐことがなければ別定30kg増の920kgでの出走となると思われる。帯広記念は、過去に930kgで勝った馬はおらず、920kgであれば、帯広市単独開催になった2007年度以降(帯広記念は年明けに行われるため08年以降)で、カネサブラック(13年)、オレノココロ(17、19年)、コウシュハウンカイ(18、20年)、アオノブラック(23年)と、6例の勝利がある。
そしてメムロボブサップにとっては、今シーズン、ライバルのアオノブラックが不調ということもあり、帯広記念を勝てる可能性が高い条件が揃ったといえそうだ。
そしてもうひとつ、メムロボブサップによって達成されるかもしれない偉大な記録が、シーズン無敗記録だ。
ただこの記録は、ばんえい競馬でこれまで達成した馬がいなかったわけではない。01、02年にばんえい記念を連覇したサカノタイソンは、97年度の3歳(旧4歳)シーズン、98年度の4歳(旧5歳)シーズンと、2シーズン連続で、また21年のばんえい記念を制したホクショウマサルは18年度の7歳シーズンに達成している。
とはいえサカノタイソンは、3歳シーズンは重賞には出走せず12戦全勝。4歳シーズンはわずかに7戦のみ。ただその中に、銀河賞、ポプラ賞、チャンピオンカップという重賞3勝が含まれていたというのは立派な記録だ。しかもそのチャンピオンカップは、明け5歳で古馬重賞初挑戦で制したということでも評価できる。
ホクショウマサルは、7歳シーズンに23戦全勝。ただこのときは2年以上の休養明けのため番組賞金ゼロで、最下級条件からの連戦連勝。最後はA2級まで上がったが、重賞出走はなし。さらに8歳シーズンもA2級からのスタートで連勝を続けたが、最終戦のばんえい記念で惜しくも3着に敗れた。
メムロボブサップが達成しようとしているシーズン無敗記録は、最上級クラスに格付けされてのもの。しかもすでに古馬重賞5勝が含まれている。
メムロボブサップがこのあと、帯広記念、そしてばんえい記念まで、今シーズン無敗のまま制することになれば、過去にない偉大な記録となる。
文/斎藤修