2024各地のリーディング

2025年01月24日

 1月も半ばを過ぎてしまったが、2024年の各地の騎手リーディングを振り返る。なお特に断りのない限り、対象競馬場での所属騎手のみの成績・順位とした。

【岩手】
 岩手のリーディングは近年、村上忍騎手と山本聡哉騎手の争いとなっていて、2015年以降の10年間では両名とも3位以内を外したことがない。さらに両騎手以外で3位以内に入ったのも高松亮騎手か山本政聡騎手に限られる。なかなか3位以内に若手が食い込む余地がない。
 そうしたなかで2024年は山本聡哉騎手が181勝で1位。154勝で2位の村上騎手に27勝の差をつけた。勝率でも山本聡哉騎手21.6%に対して、村上騎手15.9%と圧倒的だった。
 しかしながら村上騎手はフジユージーンで岩手二冠制覇に加え、園田・楠賞でも全国の強豪を相手に勝利。また11月19日には、岩手所属騎手の通算最多勝記録を更新する4,128勝を挙げるなど、ベテランとして印象的な活躍が目立った。
 
【金沢】
 金沢のトップジョッキーといえば吉原寛人騎手だが、とにかく他場での騎乗が多く2011年を最後に金沢ではトップに立っていない。それゆえかどうか金沢リーディングは群雄割拠という状況で、2012〜24年の13年間で6名の騎手がトップに立っている。
 2023年には2015年デビューの栗原大河騎手が初めてトップに立ち、そして2024年は2014年デビューの中島龍也騎手が169勝をマークし、2位の栗原騎手(120勝)に49勝という大差をつけて初めて金沢リーディングに輝いた。
 
【笠松】
 笠松ではデビュー8年目の渡邊竜也騎手が笠松競馬場における年間最多勝記録を3年連続で更新し、断然の一強となっている。2024年は笠松競馬場で232勝。2位3位は名古屋所属の岡部誠騎手、塚本征吾騎手で、笠松所属騎手として2位の藤原幹生騎手が74勝なので、じつにトリプルスコア以上の差をつけた。
 渡邊騎手の笠松での勝率は37.7%、連対率は57.2%で、2回に1回以上連対し、3回に1回以上勝っていることになる。また地方競馬全体では689戦245勝、勝率35.6%は全国でもダントツの成績で、NARグランプリ2024で最優秀勝率騎手賞を受賞した。
 
【名古屋】
 名古屋では、3月21日に歴代7人目となる地方競馬通算5,000勝を達成した岡部誠騎手の牙城がほとんど揺るぎない。"ほとんど"というのは、他場での期間限定騎乗などで地元を留守にすることが少なくないため。近10年では、南関東で期間限定騎乗をしていた2014、15、18年、韓国・釜山競馬場で短期免許で騎乗していた2016年以外はいずれの年もトップに立っている。
 2024年は名古屋競馬場で170勝。131勝で2位の塚本征吾騎手に39勝差をつけた。名古屋では若手の台頭が目立っており、その塚本騎手は2021年デビュー、3位は2006年デビューの今井貴大騎手が112勝、4位は2016年デビューの加藤聡一騎手で104勝と、2位争いは接戦だった。さらに2023年デビューの大畑慧悟騎手が90勝で6位、2024年4月デビューの望月洵輝騎手は9カ月間で82勝(地方全体では95勝)を挙げ、いきなり7位にランクインしている。
 また日本の女性騎手として通算勝利数の記録を更新し続けている宮下瞳騎手は93勝で5位。地方全体で116勝は自身のキャリアハイの勝利数だった。
 
【兵庫】
 兵庫では2018年に初めて吉村智洋騎手がトップに立つと同時に、全国でもトップに立って以降、吉村騎手の天下が続いている。
 2024年は全国1位の森泰斗騎手(船橋)が11月29日の騎乗を最後に引退し、その時点で森騎手295勝に対して、吉村騎手は257勝(地方全国)。残り約1カ月で38勝差を逆転するのはさすがに難しく、吉村騎手は9勝差の286勝で全国2位だった。
 吉村騎手は初めて全国のトップに立った2018年が296勝(地方全国)で、以降は毎年300勝超の勝ち星を重ねてきたが、2024年は6年ぶりに300勝を割った。NARグランプリ2023の表彰式のインタビューで「昨年(2023年)は精神的にもきつかった。目標を決めると昨年のようにしんどくなるので、今年(2024年)は怪我なく楽しく乗れればいいかなと思っています」と話していた。全国トップを続けるといいうのは、我々には想像できないほど精神的に追い込まれるもののようで、数字にはこだわらなかった結果が2024年の成績と思われる。
 とはいえ兵庫での勝利数284は、2位の下原理騎手(191勝)に100勝近い差をつけた。2022年から3年連続2位は下原騎手で、それまで2位・3位を争っていた田中学騎手が現在は長期療養中のため、近年台頭著しい廣瀬航騎手が2023年の4位から2024年は3位に繰り上がった。
 兵庫では近年若手の活躍も目立たないわけではないが、リーディングの上位はまだまだベテラン騎手の寡占状態が続いている。
 そうした中で2024年8月には小牧太騎手が中央から復帰。兵庫所属となって騎乗を再開した8月14日から年末までに限っての兵庫リーディングを集計してみると、吉村騎手114勝、下原騎手71勝、小牧騎手66勝という順。2025年は小牧騎手も含めたリーディング争いに注目だ。
 
【高知】
 2024年の高知競馬では、134勝の宮川実騎手が赤岡修次騎手(120勝)を抑えてトップとなった。宮川騎手の高知リーディング1位は2022年以来2度目で、2021年に初めて2位になって以降、赤岡騎手と1・2位を分け合っている。
 宮川騎手は2021・22年にNARグランプリ最優秀賞勝率騎手賞を受賞していて、この年も29.8%(地方全体)という高い勝率をマークしたが、渡邊竜也騎手(笠松)の35.6%はあまりにも壁が高かった。
 所属する打越勇児調教師は、これまで2018、19、21、22年に調教師のリーディング全国1位でNARグランプリ最優秀勝利回数調教師賞を受賞していたが、2024年には同賞に加え勝率でも全国1位となって最優秀勝率調教師賞とダブルで受賞。賞金でも小久保智調教師(浦和)に次いで2位だった。所属厩舎の好成績にともない宮川騎手も有力馬の騎乗機会が増えていると考えられる。
 
【佐賀】
 佐賀では2008年以降、山口勲騎手がほとんどダントツの数字でリーディング1位を続けてきたが、2023年は怪我で約2カ月のブランクがあったためトップの座を飛田愛斗騎手に明け渡した。それでも2024年には山口騎手152勝に対して飛田騎手120勝と、32勝差をつけて再び首位に返り咲いた。
 とはいえ山口騎手も今年3月で55歳。佐賀では近年若手騎手の活躍が目覚ましく、2020年にデビューした飛田騎手のほかにも、2022年にデビューした山田義貴騎手は2023年には118勝(地方全体)を挙げNARグランプリ最優秀新人騎手賞を受賞、2024年も99勝をマークしており、世代交代も近いかもしれない。
 
【ばんえい】
 ばんえい競馬では、主催者の表彰や発表しているデータが年度単位(4月から翌年3月)となっているため簡単に。
 ばんえい競馬では鈴木恵介騎手のトップが長く続いていたが、2020・21年度に阿部武臣騎手がその牙城を崩し、2年連続で1位となった。しかし2022年度以降は再び鈴木騎手がトップに立っていて、2024年度も1月20日現在、鈴木騎手が134勝でトップだが、西将太騎手が126勝で2位、島津新騎手が112勝で3位に迫っている。この時点で上位8名が100勝以上と、勝ち星を分け合っている状況だ。
 
文/斎藤修

 

ばんえい競馬クライマックスに向けて

2025年01月09日

 年末には競馬場ごとに2024年を振り返ったが、ばんえい競馬では年末・年始に世代ごとの重賞競走が行われ、3月のシーズン終盤にむけてさらに盛り上がる。そのクライマックスに向けての勢力図を世代ごとに紹介する。
 
【2歳(明け3歳)】
 2歳(明け3歳)世代は、年末までの成績で、10戦7勝、2着2回のスーパーシン、14戦6勝、2着6回のキョウエイエースという2強が抜けた存在となっている。
 2歳シーズン一冠目のナナカマド賞(10月13日)は、基礎重量570kg(牝馬20kg減)の条件で、青雲賞(2歳特別)を制していたキョウエイエースが1頭だけ別定10kg増の580kg。ほぼ同時に第2障害を越えた2強が抜きつ抜かれつの一騎打ちとなって、ゴール寸前でわずかにキョウエイエースが前に出ての勝利。その差はわずかコンマ4秒。3着ヤマノドラゴンは10秒以上も遅れてのゴールとなった。
 ばんえい競馬では、生産頭数が圧倒的に多い十勝地区の産駒の層が厚いが、この世代は例年以上にその傾向が顕著だった。二冠目ヤングチャンピオンシップの予選として行われる産地別特別は十勝産駒特別が事実上の決勝戦と言われ、565kgのスーパーシンが、トップハンデ570kgのキョウエイエースを振り切った。
 そして迎えたヤングチャンピオンシップ(12月29日)は、2強の馬連複が1.2倍と人気が集中。第2障害で最初に仕掛けたスーパーシンがすんなりひと腰で越えると、そのまま後続を寄せ付けず完勝。一方のキョウエイエースは障害3番手から一旦は2番手に上がったものの、残り10mで一杯になってまさかの4着。2着は北央産駒特別で2着だったウンカイダイマオー、3着は北見産駒特別1着だったアバシリタカラコマ。2強は明暗が分かれる結果となったが、キョウエイエースは別定20kg増で、スーパーシン(600kg)より10kg重い610kgというハンデがあっただけに、まだ勝負付けが済んだとはいえない。
 年が明けて、牡馬限定の翔雲賞(2月2日)、そして2歳シーズン三冠目のイレネー記念(3月9日)となるが、引き続き2強を巡る争いとなりそうだ。
 2歳牝馬では、白菊賞(特別・8月11日)を勝ち、いちい賞(特別・9月15日)で2着だったキョウエイカスミが10月までに4勝を挙げてリードしていたが、その後は賞金的に牡馬のトップクラスとの対戦となって足踏み。いちい賞を勝って3勝目としたマツサンブラックも同じように秋以降は足踏み。年末までに3勝、2着5回のウンカイマジックらが収得賞金では上位となっているが、2歳シーズン(明け3歳)女王決定性の黒ユリ賞(2月9日)に向けて、これから台頭してくる馬も出てきそうだ。
 
【3歳(明け4歳)】
 この世代は、ヤングチャンピオンシップ、翔雲賞、イレネー記念と重賞3連勝を含め2歳シーズンの終盤に5連勝でシーズンを締めくくったライジンサンが、3歳シーズンの序盤は休養。初戦として出走したのが3歳一冠目のばんえい大賞典(7月7日)だったが、トップハンデもあって第2障害を越えてからの動きが重く7着。障害をひと腰先頭で越えたホクセイハリアーがそのまま押し切った。
 二冠目のばんえい菊花賞(11月3日)でもホクセイハリアーが第2障害を先頭で越え、そのまま押し切るかに思えた。しかしゴール前で脚取りが鈍ったところ、差し切ったのが出走馬中唯一の牝馬スマイルカナで、ばんえいオークス(12月1日)も制した。スマイルカナは2歳シーズンには黒ユリ賞を制し、イレネー記念でもライジンサンの2着と、3歳になっても男勝りの能力を発揮している。
 そして迎えた三冠目のばんえいダービー(12月30日)は、2歳シーズンのチャンピオン・ライジンサンが第2障害を先頭で越えると、ゴール前では一度詰まったものの、すぐに立て直して押し切った。ばんえい菊花賞は4着に敗れていたものの、その後自己条件を使われて調子を上げ、イレネー記念以来の勝利。ライジンサンは、2歳シーズン、3歳シーズンで頂点に立った。
 そのほかこの世代では、ミチシオがばんえい大賞典2着、ばんえい菊花賞3着、ばんえいダービー2着と健闘。またウルトラコタロウは2歳時から通算して重賞で3着5回という成績で存在感を示している。
 
【4歳(明け5歳)】
 この世代はタカラキングダムが4歳シーズン三冠馬となって、圧倒的な存在感を示した。2歳シーズンはばんえい大賞典、3歳シーズンはばんえいダービーと、それぞれ重賞は1勝ずつ。4歳シーズン序盤は、それまで稼いだ賞金でハンデに苦しめられ、同世代同士の特別戦でも、すずらん賞(4月27日)7着、ライラック賞(6月3日)4着と勝利には至らず。初勝利となったのは、4番人気で臨んだ一冠目の柏林賞(6月23日)で、そこからは連対を外さない快進撃。ひとつ下の3歳と混合の重賞・はまなす賞(8月25日)をトップハンデで制し、二冠目の銀河賞(9月22日)は牝馬のスーパーチヨコとは60kg差というトップハンデ750kgが課せられたものの、先に抜け出して単独先頭のクリスタルゴーストをゴール前でわずかにとらえて勝利。古馬一線級との対戦となったドリームエイジカップ(11月24日)は6着だったが、定量で争われる三冠目の天馬賞(1月3日)は、2番人気マルホンリョウユウが先頭で第2障害を抜けたところ、障害4番手から自慢の末脚で差し切った。
 タカラキングダムの4歳シーズン三冠制覇では、柏林賞こそ差のない2番手から抜け出したが、銀河賞、天馬賞は、そこから届くのか?と思われるようなタイミングで第2障害を越え、しかし終わって見れば完勝という内容。4歳になって一気に本格化を見せた。それにしてもこれほどの追い込みで重賞を勝ちまくるというのは、かつてのフクイズミを思い起こさせる。
 この世代でタカラキングダムに次ぐ存在は、3歳時にばんえい大賞典、ばんえい菊花賞の二冠を制したマルホンリョウユウで、4歳シーズンは柏林賞3着、天馬賞2着。年明け5歳馬でオープン格付けはこの2頭。
 4歳2月から5連勝で成長を見せたクリスタルゴーストは、重賞初挑戦だった柏林賞で2着。はまなす賞、銀河賞でもタカラキングダムの2着に好走したが、天馬賞では第2障害を越えられず競走中止だった。
 牝馬では、スーパーチヨコが銀河賞で3着に好走。4歳牝馬の重賞・クインカップ(11月10日)は3着だったが、トップハンデだっただけに、能力的にはこの馬が最上位といえそう。
 
【古馬】
 古馬では、今シーズン最初の重賞・ばんえい十勝オッズパーク杯で、1着メムロボブサップ、2着アオノブラックという結果のとおり、今シーズンもこの2強が中心となって古馬重賞戦線が展開されると思われた。しかしアオノブラックが夏以降不振に陥り、メムロボブサップの天下となった。ドリームエイジカップ(11月24日)まで重賞5勝を含め8連勝。ばんえい競馬で、重賞を使われながらオープンクラスで連勝を続けるのは難しい。
 メムロボブサップはこれまで、シーズン前半の重賞を勝ちまくり、後半の重賞では別定重量を課されてとりこぼすことが多かった。それゆえ今シーズンは、北斗賞(6月16日)、旭川記念(7月14日)という前半の重賞は自重。ばんえいグランプリ(8月11日)4連覇を達成すると、岩見沢記念(9月15日)、北見記念(10月27日)、さらに世代対抗戦のドリームエイジカップ(11月24日)は、いずれも初勝利。5頭立てとなった帯広記念(1月2日)を勝てば、史上初のばんえい古馬重賞全制覇となるところだったが、先頭で障害を越えたコウテイをとらえきず2着。今シーズン初の敗戦となった。負担重量はメムロボブサップ930kgに対し、ほかの馬たちは900kgか890kg。メムロボブサップは、これで帯広記念は3年連続930kgで2着。帯広記念をその重量で勝つのは難しい。
 帯広記念を制したコウテイは、8歳ながらこれが重賞初勝利。昨年の帯広記念でも障害トップ抜けで3着と好走し、今シーズンは旭川記念、北見記念で2着と好走していた。そして帯広記念3着だったコマサンエースも、昨年のばんえい記念で3着好走があり、今シーズンはばんえいグランプリ2着のほか重賞3着が3回。この2頭はばんえい記念(3月16日)でも対抗格の評価となりそう。
 今シーズン前半、メムロボブサップが不在となった北斗賞、旭川記念を連勝したのが、5歳(明け6歳)のクリスタルコルドで、急成長が目立った。ただその世代は4歳シーズン三冠を制したキングフェスタが最強という位置づけ。来シーズン以降、この2頭が古馬戦線における世代交代の中心として注目の存在となりそうだ。
 
文/斎藤修

 

【私的名馬録】GIでも互角に戦ったゴールドプルーフ

2025年01月08日

全日本サラブレッドカップでダートグレード初制覇

日本競馬界の歴史に名を刻んだ名馬・競馬ファンの記憶に残る名馬の活躍を競馬ライターたちが振り返る私的名馬録。



今回のテーマは─


1999年1月31日は地方競馬の関係者、ファンにとって忘れられない日だ。岩手のメイセイオペラがフェブラリーステークスを勝って、地方馬として初の中央GIを制覇した日である。


さらに3日後の2月3日にも川崎記念GIで、船橋のアブクマポーロが中央馬を抑え、地方馬によるGI連勝を達成した。


地方ファンの私にも溜飲が下がったが、その川崎記念で、2頭に続く地方の期待馬が出現したことも深く脳裏に刻まれている。


川崎記念3着だった名古屋・今津勝之厩舎のゴールドプルーフの走りは衝撃的だった。


東海地区で重賞を総なめにしたゴールドレツトが父という血統も琴線に触れるが、当時4歳(現表記)のゴールドプルーフは直前に地元重賞の新春グランプリを制して4連勝中。

勢いに乗っていたが、ダートグレード初出走がいきなりのGI。


相手はアブクマポーロだけでなく、中央馬には前年のドバイワールドカップに挑戦したキョウトシチー、"女オグリ"と呼ばれたマツクスフリートの半弟ナリタホマレもいた。


ゴールドプルーフを担当する田畑伸一郎厩務員も「相手は強いし、いい経験になれば」くらいの思いだった。


ところがレースでは好発を決めると、好位の内で脚をため、4コーナーでは先頭に立って、勝ちに行く競馬。


これがダートグレード初挑戦かという堂々たるレースぶり。


結果こそアブクマポーロ、キョウトシチーに差されたが、新たな地方のスターが、そして自分の中で名馬が誕生した瞬間だった。


しかしその後は、名古屋大賞典GIIIで2年連続オースミジェットの2着や、オグリキャップ記念GIIでは川崎記念GIで先着したナリタホマレに雪辱を許しての3着など、中央馬とも互角の勝負を繰り広げるが、勝ちきれないレースが続いた。


田畑厩務員は「距離の長い短いは問わないし、気性も大人しかった」と話すように、折り合いなど乗り手には従順だが、大人しい気性が、ここ一番の踏ん張りに響いたかもしれない。


ダートグレード初勝利は01年笠松の全日本サラブレッドカップGIII。


ダートグレードに挑戦すること18戦目だった。


4コーナー先頭からマンボツイスト、ブロードアピールの猛追を封じた。


待ちに待った勝利にスタンドのファンは熱い声援で迎えた。


「球節が弱く、常にケアしてました。


すくみもあったので、全休日でも先生が引き運動しました。僕も当時はまだ20代。


今なら、もっと早くに勝たせてあげられたかなと思ったりもします」と田畑厩務員は振り返る。


02年には3度目の挑戦となる川崎記念で勝利寸前のところを内リージェントブラフ、外ハギノハイグレイドに差され、タイム差なしの3着で、またもや惜敗。


しかし翌03年、中央に挑戦した東海ステークスGIIではアタマ差での2位入線も、1位入線ディーエスサンダーが進路妨害による3着降着で繰り上がり1着の幸運もあった。


頂点(GI)にこそ、あと一歩届かなかったが、見せ場たっぷりのその走りは、打倒中央を願う地方ファンの思いをしっかりつかんでいた。



文/松浦 渉
OddsParkClub vol.68より転載

 

2024年を振り返る(兵庫・高知・佐賀)

2024年12月30日

【兵庫】
 2024年、兵庫で最大のトピックといえば、イグナイター(牡6)のドバイ(ドバイゴールデンシャヒーン)遠征だろう。兵庫からの海外遠征は初めてのことで、多くのことが手探り状態での5着は健闘といえる。今後、地方競馬からも海外遠征の機会が増えると思われ、イグナイター関係者だけでなく、大きな経験になったはずだ。
 イグナイター不在となった春に短距離路線で輝いたのがタイガーインディ(牡7)だった。2月の兵庫ウインターカップで遠征馬を相手に5馬身差で圧勝すると、高知・黒船賞JpnIIIでは7番人気ながら3着に好走。今年から1400メートルに距離短縮となった兵庫大賞典でも5馬身差で圧勝。笠松・オグリキャップ記念では、黒船賞JpnIIIで先着(2着)された高知のヘルシャフトをクビ差で抑えての勝利となった。そして夏には佐賀・サマーチャンピオンJpnIIIに遠征し、ここでも3着に好走してみせた。しかしその後に骨折が判明し、引退となったのは残念だった。
 そのサマーチャンピオンJpnIIIを8番人気で制したのがアラジンバローズ(セン7)。中央時代はダート1600〜1800メートルを中心に活躍してオープンまで出世。兵庫移籍後も佐賀・鳥栖大賞(2000メートル)や新春賞(1870メートル)を制するなど、当初は中距離で活躍したが、中央時代にも経験のなかった1400メートルの舞台でも能力を発揮した。サマーチャンピオンJpnIIIは54キロのハンデに恵まれたこともあったが、同じ佐賀1400メートルが舞台のJBCスプリントJpnIでも中央の一線級相手に3着に好走。イグナイター(4着)にも先着して、短距離路線でイグナイターとともに新子雅司厩舎の2枚看板となった。
 中距離路線では兵庫生え抜きで、古馬中距離路線では常に中心的存在だったジンギが、8歳になった今年は2戦とも着外となって引退。7月25日には引退式が行われた。
 代わって古馬中距離路線を牽引したのが、白鷺賞、六甲盃を制したラッキードリーム(牡6)だったが、同馬はその六甲盃を最後に大井に移籍した。
 そして今年後半、一気に台頭したのが、3歳のマルカイグアス(牡3)だった。2歳時にも園田ジュニアカップを勝っていたが、3歳になっての今年前半は菊水賞を回避するなど順調には使えず、西日本クラシックでも高知からの遠征2頭に先着されて3着だった。しかし兵庫優駿を制すると、園田オータムトロフィー、さらに古馬初対戦となった年末の大一番・園田金盃も勝って重賞3連勝。2025年の古馬中距離戦線では中心的な存在となりそうだ。
 
【高知】
 高知では近年の賞金アップにともなって生え抜きから全国区の活躍馬が出ているが、この年の3歳馬では2頭が印象的な活躍を見せた。
 2歳時、デビュー2戦目から連戦連勝のプリフロオールイン(牡3)は、圧倒的な強さで高知三冠を制覇。2着につけた着差は、6馬身、7馬身、5馬身というものだった。
 一方、2歳のデビューから無敗のまま土佐春花賞を制したシンメデージー(牡3)は、園田に遠征した西日本クラシックを勝利。あらたにJpnIとなった東京ダービーでは地方馬最先着の4着、金沢で行われた西日本3歳優駿を大差で圧勝すると、ジャパンダートクラシックJpnIでも地方馬最先着の5着。地元に戻って土佐秋月賞を制すると、古馬初対戦となった名古屋大賞典JpnIIIでもゴール前接戦の3着に入った。ダートグレード3戦いずれも地方馬最先着で、まだ地方馬には先着されていない。
 この2頭は同じ打越勇児厩舎。うまくレースを使い分けてこられたためここまで未対戦。4歳になっての古馬戦線で直接対決が実現するのかどうか、注目だ。
 古馬短距離路線では、23年に最下級条件からA級まで出世したヘルシャフト(牡7)が絶対的な存在となった。黒潮スプリンターズカップ、御厨人窟賞を連勝すると、ダートグレード初挑戦の黒船賞JpnIIIでも2着。さらにトレノ賞、建依別賞も制し、1300/1400メートルの重賞で4勝を挙げた。
 古馬中距離戦線で注目となったのが、22年の二冠馬ガルボマンボ(牡5)、23年の三冠馬ユメノホノオ(牡4)の対戦。二十四万石賞ではユメノホノオがガルボマンボに1馬身差をつけて勝利。珊瑚冠賞では逆にガルボマンボがユメノホノオに3馬身差をつけて勝利。それぞれ今年のタイトルはここまでひとつずつだが、大晦日の高知県知事賞が昨年に続いて雌雄を決する舞台となる。昨年、直線2頭が馬体を併せての一騎打ちは、半馬身差でユメノホノオに軍配が上がったが、果たして今年は。
 なお打越調教師は今年12月28日現在で、227勝、勝率32.7%は、ともに2位に差をつけての全国1位。収得賞金5億2000万円余りも、浦和・小久保智調教師(7億1900万円余り)に次ぐ2位となっている。
 
【佐賀】
 佐賀では、ウルトラノホシ(牡3)による新たなダート三冠に向けての挑戦が全国的な注目となった。2歳時の全日本2歳優駿JpnI(6着)に続いて南関東遠征となったブルーバードカップJpnIIIでは、勝ったアンモシエラにわずか0秒2差の4着で地方馬最先着。さらに雲取賞JpnIIIにも遠征したが6着。ダート三冠への挑戦は断念することとなったが、地元では佐賀皐月賞、栄城賞の二冠を圧倒的な強さで制した。
 古馬では、テイエムフェロー(牡5)が佐賀スプリングカップ、佐賀がばいスプリント、吉野ヶ里記念と、1300〜1800メートルという幅広い距離で今年前半に重賞を3連勝。また、春に大井から転入したアエノブライアン(牡6)は、佐賀王冠賞、九州大賞典と長距離重賞2勝をはじめ、8戦オール連対と安定した走りを見せた。
 そして年末の中島記念では、JBCクラシックJpnI・4着好走のあと佐賀に移籍したシルトプレ(牡5)が、アエノブライアンに5馬身差をつけて圧勝。2025年の佐賀記念JpnIIIでは地元の期待となりそうだ。
 2歳では牝馬ミトノドリームが、九州ジュニアチャンピオン、ネクストスター佐賀を制してデビューから3連勝。2着との着差が6馬身、5馬身、4馬身差といういずれも圧勝だっただけに、年明けの3歳戦線で注目となりそうだ。
 
文/斎藤修

 

2024年を振り返る(岩手・金沢・笠松・名古屋)

2024年12月24日

【岩手】
 2024年の岩手競馬の主役は、なんといってもフジユージーン(牡3)だろう。新たなダート三冠が始まった年に、全国レベルで注目となる1頭だった。
 シーズン当初は羽田盃の前哨戦からというプランもあったが、体調が整わず前半は開幕から地元戦を使われ、デビューから無敗のまま8連勝で東北優駿を制した。そしていよいよ中央馬との対戦となったのが、この年からダート三冠目の前哨戦としてJpnIIに格付けされた不来方賞ということでは、なお期待が高まった。結果は4着だが地方馬最先着で、地元期待の面目は保った。三冠目のジャパンダートクラシックJpnIにも挑戦し、4番手あたり好位を追走したが、勝負にいったぶん直線では脚が上がって10着だった。
 それでも園田に遠征した楠賞(1400メートル)は距離不足かとも思われたが、先行勢ハイペースの激戦から直線3頭の接戦を制し、あらためて全国レベルの能力を示した。
 古馬では中央1勝クラスから転入したヒロシクン(セン5)が連戦連勝。ダートグレードはさすがに厳しかったが、地元馬同士では7戦全勝。重賞は、一條記念みちのく大賞典、青藍賞、トウケイニセイ記念を制した(12月23日現在)。大晦日の桐花賞も勝って1年を締めくくるかどうか。
 牝馬では、昨年東北優駿やひまわり賞など牡・牝の3歳変則四冠を制したミニアチュール(牝4)が幅広い距離をこなし、ビューチフルドリーマーカップ、ヴィーナススプリント、すずらん賞と重賞3勝。またゴールデンヒーラー(牝6)は短距離に専念して、白嶺賞、栗駒賞、岩鷲賞と重賞3勝を挙げた。なおゴールデンヒーラーは12月23日のスプリント特別(5着)がラストランとなった。
 記録的なことでは、阿部英俊騎手が10月21日に地方通算2,000勝を達成。村上忍騎手が岩手競馬歴代通算最多勝記録となる4,128勝を11月19日に達成した。
 残念だったのは大雨の影響で盛岡芝コースの走路状態が悪化し、7月下旬以降、芝コースの使用を断念したこと。7月21日までで芝コースのレースが行われたのはわずか8戦。そのうち2歳新馬戦は1戦のみで、重賞はいしがきマイラーズが行われたのみ。7月30日以降に予定されていた芝重賞8レースはすべてダートに変更して実施された。
 
【金沢】
 金沢を盛り上げたのはハクサンアマゾネス(牝7)。昨年(2023年)末に移転50周年記念金沢ファンセレクトカップを制して重賞21勝とし、カツゲキキトキトによる地方競馬の平地重賞最多勝記録(20勝)を更新したが、7歳になった24年も現役を続行。利家盃、百万石賞ではともに4連覇を果たし、園田に遠征しては兵庫サマークイーン賞、兵庫クイーンカップをともに連覇し、重賞25勝。ばんえい競馬のオレノココロによる地方競馬の重賞最多勝記録に並んだ。そして引退レースとなった中日杯には記録更新を賭けて臨んだが、果敢な逃げを見せたマリンデュンデュン(牡4)をとらえきれず2着。タイ記録までで記録更新はならなかった。それでも平地競走としては断然の記録。12月3日には引退式が行われた。
 3歳戦線では、中央未勝利から転入したナミダノキス(牡3)が石川優駿、サラブレッド大賞典の二冠を制して6連勝。中日杯でもゴール前で2着ハクサンアマゾネスにハナ差と迫る3着に好走を見せた。
 記録的なことでは、吉原寛人騎手が2月22日に姫路競馬場の兵庫ユースカップを高知のリケアサブルで制し、地方競馬(平地)全場重賞制覇を達成。また4月18日には浦和競馬第2レースを勝って、地方通算3,000勝を達成した。
 残念だったのは、ショウガタップリ(牝4)が8月28日に腸捻転に伴う疝痛のため死んだこと。デビューから無敗のまま11連勝で石川ダービーや加賀友禅賞を制し、佐賀に遠征して西日本ダービーも制した。通算成績は17戦12勝(うち重賞7勝)。なお吉原騎手はその西日本ダービー(23年9月10日)を制したことで、地方競馬全場重賞制覇へ、残すは姫路のみとしていた。
 ショウガタップリは残念だったが、同じ馬主、調教師のショウガマッタナシ(牝2)がネクストスター金沢を制し、翌年への期待をつないだ。
 
【笠松】
 笠松の重賞戦線では、名古屋や他地区の馬たちを相手に地元馬は苦戦が続いた。笠松競馬場で実施された重賞を地元馬が制したのは、サマーカップのエイシンヌウシペツ(牝5)、オータムカップのキャッシュブリッツ(牡3)、そして笠松所属馬のみで争われるネクストスター笠松のブリスタイム(牡2)の3頭だけ。大晦日の東海ゴールドカップでは、キャッシュブリッツ、中央オープンから転入して初戦を制したサヴァ(牡6)らに地元の期待がかかる。
 一方で記録的なことでは、渡邊竜也騎手が笠松競馬場における年間最多勝記録を更新。昨年(2023年)自身でマークした183勝を上回る184勝目を10月23日に達成。その後も勝ち星を伸ばし、12月22日現在、笠松で227勝としている。また12月13日には地方競馬通算1,000勝をデビュー8年目で達成した。
 その渡邊騎手の所属厩舎、笹野博司調教師も笠松競馬場における年間最多勝記録を更新。前年自身でマークした173勝を上回る174勝目を11月19日に達成。12月22日現在、笠松で187勝と記録を伸ばしている。
 
【名古屋】
 名古屋では、フークピグマリオン(セン3)が東海地区の3歳三冠を制覇。12月22日現在で、今年は重賞のみ9戦して6勝、2着3着各1回。3着以内を外したのは園田に遠征した楠賞の5着だけだった。大晦日の笠松・東海ゴールドカップで古馬も含めた東海地区の頂点に立つことができるかどうか。
 古馬戦線では、セイルオンセイラー(セン5)がウインター争覇、飛山濃水杯、くろゆり賞と笠松で重賞を3勝。昨年長距離戦で活躍したアンタンスルフレ(セン6)は、今シーズンなかなか結果が出なかったものの、金沢の北國王冠(金沢)で今年の初勝利を挙げるとともに、同レース3連覇を達成した。
 記録面では、岡部誠騎手が3月21日に通算5,000勝を達成。
 宮下瞳騎手は、令和6年春の褒章で黄綬褒章を受賞。11月21日には今年106勝目を挙げ、自身が持つ日本人女性の年間最多勝記録を更新。12月22日現在で116勝まで記録を伸ばしている。
 そして地方競馬の調教師として最多勝記録を更新し続けている角田輝也調教師は、12月5日に地方競馬通算4,300勝に到達した。
 
文/斎藤修

 

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