NARグランプリレポート VOL1
2025年02月07日
NARグランプリ授賞式が2月3日、都内ホテルで行われました。
2024年の地方競馬を彩った人たちが一堂に会した華やかな授賞式のリポートを、競馬リポーターの大恵陽子が今年もお届けします。
まずは騎手部門から。
昨年の最優秀勝利回数騎手賞は森泰斗騎手(船橋)でした。いわゆる地方全国リーディングで、昨年11月末をもって騎手を引退して1カ月の空白期間がありながらも2位吉村智洋騎手(兵庫)に9勝差をつけての獲得。それだけ11カ月間の勝利数が抜けていて素晴らしいということなのですが、ご本人は複雑な思いを抱いていたようです。
「12月はレースに乗っていなくて、引退発表した人間が獲ってしまっていいのかな、と複雑な思いでいます。
昨年は体も不調な部分があり、到底、納得できる騎乗はできませんでした。数字の面でも一番勝っていた年で400勝近くだったので、昨年の295勝はだいぶ落としていて、不本意なシーズンでした」
自分自身に納得がいかない中でも、後輩騎手の台頭がなかったことなどが影響しての森騎手の受賞となったのでした。
引退後の現在の生活は「不摂生をしてみたんですけど、体にしみついた習慣はあまり抜けなくて、今は寝る時間も食事も騎手の頃と変わらない生活に戻りました」と規則正しい生活。そうした中で、現在は調教師を目指しています。
「少し離れて色々考えてみて、やっぱり近くで馬に関わりたいと思いました。叶うのであれば、培ってきた知見を生かしていい馬を育てたいですし、自分の経験や足りなかった部分を伝えながら騎手も育てたいです。スタージョッキーは地方競馬の発展に必須だと思います」
調教師試験への合格が待たれます。
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その森騎手の隣で「(森)泰斗さんの壁は大きくて、泰斗さんが1カ月休んだにもかかわらず勝利数を大きく引き離されたのは情けないです」と話したのは笹川翼騎手(大井)。最優秀賞金収得騎手賞を受賞しました。
「昨年は不甲斐ないシーズンで、賞金も地方競馬だけなら矢野貴之さんに負けていました。馬が頑張ってくれたから獲れた賞です」
そう厳しいジャッジを下しますが、昨年はカタール遠征、そしてイグナイターとのドバイ遠征と貴重な経験をしました。ドバイでは勝ちを意識できる走りを感じられた一方、直線の進路取りで制裁を受けるなど正と負の感情をどちらも抱いたのでは、と思います。
今年も2月22日、サウジアラビアで行われるリヤドダートスプリントにイグナイターと参戦予定。
「昨年のドバイでは悔しい思いもしましたし、今後のジョッキー人生で感じさせられるものもありました。サウジに行くのは初めてですが、昨年、2カ国に行ったことは自分の中では大きなアドバンテージになっています。自信を持って、悔いの内容一生懸命乗りたいです。
また、今年は自分に発破をかけて、厳しくレースに向き合って全国リーディングを獲りたいです。あえて、この場で言います」
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最優秀勝率騎手賞は渡邊竜也騎手(笠松)が初の受賞となりました。
東海地区からは初めてどころか、同賞は2009年の創設以降、赤岡修次騎手(高知)と山口勲騎手(佐賀)、宮川実騎手(高知)の3名しか受賞したことがありませんでした。それだけ毎年、受賞者が固定されがちな部門。
そこを目標に掲げたのは、地元紙の記者から「勝率が高いよ」と教えてもらった3月頃でした。そこからは毎週、競馬が終わるたびに勝率をチェック。
「1年間、目標に頑張ってきたので嬉しいです」と喜びました。
また、昨年は12月に地方通算1000勝を達成。
「笹川騎手を目標に頑張ったんですが及ばなかったので、2000勝は笹川騎手より最短で達成できるように頑張ります」
※笹川騎手はTCK史上最速のデビューから2784日目で地方通算1000勝を達成。
JRA初勝利や自身の持つ笠松の年間最多勝更新もあり、とにかく濃い一年でした。
「昨年は目標が多く、いろいろ達成できましたが、今年はまだコレという目標は立っていません。目の前の一つ一つを追いかけながら、新しい目標を立てられたらと思います」
同じ東海からは宮下瞳騎手(愛知)が優秀女性騎手賞と特別賞を受賞。
昨年は自身2度目の年間100勝を達成し、116勝は国内女性騎手最多でした。これまでは地元・名古屋競馬場での騎乗が中心で、常時交流のある笠松競馬場での騎乗は少なかったのですが、昨年は281鞍で、一昨年の60鞍から一気に増加。これにはご家族の支えもあってのものでした。
「主人をはじめ、子供たちの応援もあってこのような結果を残すことができました。特に主人にはたくさん協力してもらって、助かっています。
関係者のみなさまのおかげでいただけた賞だと思うので嬉しく思います。
毎年ケガをしてしまうんですが、昨年は大きなケガなく、いい馬に乗せていただいた結果だと思います。笠松への遠征も増えて、騎乗数も多くなったと思います」
元騎手の小山信行さんは騎手引退後、韓国で攻馬手をしていましたが、現在は帰国して名古屋競馬で厩務員をしています。
「受章を聞いた時は正直ビックリしました。私なんかがもらっていいのかな、と思いましたが、すごく嬉しかったです。今まで頑張ってきてよかったなと思いましたし、それらが報われたので、これからもっと努力したいです。ケガが多いので、ケガなく一鞍一鞍、大事に乗って1勝ずつ自分の記録を積み重ねたいです」
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フェアプレイ賞は村上忍騎手(岩手)。
「30年以上ジョッキーをしていますが、こういう賞は縁がなかったので光栄です」と、意外にも初受賞。
「いま思えば、若い頃は勝ちたい思いが強かったですが、年齢を重ねるごとに馬を御しながら、周りを見ながら少しだけ冷静に騎乗しようという気持ちが強くなったことが、今回の受賞に繋がったのかなと思います」
昨年は東北優駿や園田・楠賞を勝ったフジユージーンとの活躍も目立った年でした。
「デビュー前から期待が高くて、今年も楽しみな馬です。プレッシャーもある程度ありますが、それよりも『今日はどんな走りをしてくれるんだろう』と僕自身も楽しみが強い馬です」
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最優秀新人騎手賞は加藤翔馬騎手(金沢)。
23年にデビューし、昨年は112勝を挙げる活躍で、ヤングジョッキーズシリーズではファイナルラウンドに進出も果たしました。
「新人賞は師匠でもある父(加藤和義調教師)も受賞していて、新人の間の限られた枠なので、受賞したいとデビュー前から思っていたので嬉しいです。前目の位置で競馬をすることが自分の持ち味だと思っていて、それをより磨きながら、そうじゃない競馬ももっと上手く乗れるように頑張りたいです」
次回のコラムでは各部門を受賞した競走馬や調教師についてリポートします。
文/大恵陽子