目覚ましい新人騎手のレベルアップ
2025年02月27日
JRAではまもなく新人騎手がデビューを迎え、地方競馬でも3月下旬には騎手免許試験合格が発表され、4月1日以降に新人騎手が順次デビューとなる。
それで思うのは、近年デビューしてくる新人騎手のレベルアップが目覚ましい、ということ。
NARグランプリ2024で最優秀新人騎手賞に輝いた加藤翔馬騎手(金沢)は、デビュー2年目で112勝を挙げた。ちなみにこの2024年は4月にデビューした望月洵輝騎手(愛知)も実質9カ月で95勝を挙げていたが、受賞は加藤騎手ということになった。
NARグランプリ最優秀新人騎手賞(2022年までは優秀新人騎手賞)の規定は、「前々年の3月31日以降に新規に免許を取得し、前年の地方競馬、中央競馬及び地方競馬登録馬による外国の競走で30勝以上をあげた地方競馬の騎手を対象に、勝利回数、収得賞金額、勝率、重賞競走成績等を総合的に評価して最も成績が優秀であった者」となっている。
大雑把に言うと、デビュー2年以内の騎手から成績優秀者が選ばれる。
そして、2019年以降の受賞者の当該年の勝利数を一覧にすると...
2024 加藤翔馬(金沢) 112勝
2023 山田義貴(佐賀) 118勝
2022 塚本征吾(愛知) 84勝
2021 飛田愛斗(佐賀) 145勝
2020 小野楓馬(北海道) 68勝
2019 岩本 怜(岩手) 87勝
これ以前の優秀新人騎手賞受賞者の当該年の勝利数は、おおむね50〜60勝台が多く、年によっては30勝台で受賞している騎手もいる。そう考えると、近年の新人騎手賞争いのハードルがいかに高くなっているかがわかるだろう。
なお、これ以前に80勝以上を挙げて受賞したのは以下。
2011 島津新(ばんえい) 86勝
2001 吉原寛人(金沢) 95勝
2000 御神本訓史(益田)152勝
1997 岡田 大(益田) 110勝
御神本騎手の152勝というのが目を引くが、デビュー年が80勝で、これは2年目の数字。2年目でいきなり益田リーディングのトップに立った。一方、吉原騎手の95勝はデビュー年のもので、4月デビューから約9カ月でこの数字をマークした。
なお、NARグランプリの表彰は1990年から行われているが、1994年までは表彰者はわかるものの、手持ちの資料では勝利数がわからなかったので、1990〜94年の記録は含まれていない。
そして近年では新人騎手だけでなく、女性騎手のレベルアップも著しい。
優秀女性騎手賞も、かつては50勝程度かそれ以下で選ばれることが多かった。また「最優秀」ではないので複数名が受賞することもめずらしくなく、2006年に3名が同時受賞ということもあった。
この賞のハードルを上げてきたのが、2024年に、じつに14度目の受賞となった宮下瞳騎手(愛知)といえる。2020年には国内の女性騎手として初めて年間100勝を超える105勝をマーク。そして2024年は116勝として自身の記録をさらに更新した。
一方で、新人騎手、女性騎手の成績が上がったことによって、ここ2年、不運にも受賞を逃したといえるのが、ばんえいの今井千尋騎手だ。
今井騎手は2022年12月にデビューし、2023年にはいきなり103勝をマーク。ばんえい競馬の騎手として、デビューから通算100勝達成の最短記録を更新した。その2023年には優秀女性騎手賞を受賞。年間3桁の勝利は、年が違っていれば優秀新人騎手賞とのダブル受賞にもなっただろうが、この年は冒頭の表のとおり、山田義貴騎手(佐賀)が118勝で上回った。勝利数だけでなく、勝率でも、重賞勝ちがあったことでも山田騎手が上回っていたので、残念なが今井騎手は新人騎手賞のほうは逃すという、レベルの高い争いだった。
そして今井騎手は、2024年にはさらに自身の記録を伸ばして105勝。新人騎手賞の対象からはすでに外れていて、優秀女性騎手賞ならと思われたが、前述のとおりさらに上をいく116勝の宮下瞳騎手がいた。3桁勝利であれば、かつてのように優秀女性騎手賞2名でもよかったように思うが、残念ながらそうはならなかった。
今井騎手には次年度以降、幸運が訪れることを期待したい。
文/斎藤修
「2024 IWATE KEIBA AWARDS」授賞式報告~3/9開幕へ
2025年02月27日
岩手競馬は2ヵ月あまりの冬休みが明け、3月9日(日)から再開する。それに先立ち2月7日(金)、盛岡・水沢両競馬場で「調教始め式」を実施。"安全祈願祭"、"馬場清め"を行った。
例年は同日に馬場を開放していたが、折からの寒波襲来による影響で水沢競馬場は2月10日(月)、盛岡競馬場は2月12日(水)まで馬場入れがずれ込んだものの、以降は3月競馬へ向けて着々とトレーニングが進んでいる。
競馬再開へ弾みをつける行事が毎年恒例の「2024 IWATE KEIBA AWARDS」授賞式。今年もホテルメトロポリタン盛岡NEW WING」を会場に2月14日(金)、来賓、競馬関係者、ファンなど約200名が出席。授賞式および交流会が盛大に行われた。
司会はテレビ岩手アナウンサー・中島あすかさん(年度代表馬選考委員会にも出席)、IBC岩手放送・徳岡伶美アナウンサーが務め、式冒頭に岩手県競馬管理者・達増拓也岩手県知事があいさつをした。
「昨年岩手県競馬組合が設立されて節目の60周年を迎え、ダートグレード競走を4ヵ月連続で実施。年度当初の売り上げ計画を上回り、岩手競馬を支持してくれるファンの皆さん、競馬関係者の努力に感謝します」
続いてきゅう舎関係者等表彰(別掲)、岩手県競馬組合創設60周年感謝状贈呈、岩手競馬アワード授与式が行われた。 まず壇上に立ったのは最優秀牝馬ミニアチュール、最優秀短距離馬ゴールデンヒーラーの関係者。2頭ともオーナー・平賀敏男さん、佐藤祐司調教師、渡辺正彦きゅう務員のゴールデントリオで二部門を授賞した。
平賀敏男さん「ゴールデンヒーラーが無事、生まれ故郷の下河辺牧場さんへ移動。繁殖生活に入ったことを報告します。現役時代の5年間はあっと言う間でした。佐藤祐司調教師、渡辺くんが一生懸命に手をかけてくださったおかげです。思い出に残るレースはマイルチャンピオンシップ南部杯5着(2022年)。JBCレディスクラシックは脚部不安のため出走取り消しをしましたが、重賞11勝もしてくれました。今後はいいお母さんになってほしいと思っています。ミニアチュールは小柄な牝馬ですが、シーズン最後の桐花賞でクビ差2着。2000mでも頑張りを見せてくれて私も感動しました。今年5歳になりますが、これからも岩手競馬を盛り上げていってほしいと思っています」
佐藤祐司調教師「ゴールデンヒーラーは2歳で華々しい活躍をしてくれましたから3歳牡馬クラシックに挑戦させましたが、近年にないハイレベル。今振り返ると申し訳なかったと思いますが、引退式まで行っていただき、多くのファンに見送られました。ミニアチュールは門別から転入時、まっすぐ走らないから気をつけてくれと言われましたが、実習時代の(佐々木)志音に乗せたら問題なかった。ですから移籍2戦目以降は重賞路線を歩ませました。桐花賞でもあれだけ走ることを証明しましたからね。牝馬で難しい面がありますから、じっくり使うレースを考えたいと思っています」
2歳最優秀馬ポマイカイは菅原勲調教師、ガンガ・シンきゅう務員が出席した。アワード最優秀馬の担当きゅう務員では初めてインド人の授賞となった。会場にはサリーを身にまとった奥さんとお子さんも来場。岩手競馬も国際色が出てきたなと思ったのは自分だけではないはず。
菅原勲調教師「明日(15日)福島県の、テンコートレセンから帰厩します。今後のローテーションについては白紙です。まずは現時点での成長度合い、状態を把握したいと思っています。新馬戦は思った以上に走ったが、その後は折り合い面で難しいところを出していました。ひと冬を越して距離延長にも対応できるか、見極めたいと思っています。姉(ダイセンメイト)はうちのきゅう舎で年間11勝もした上、昨年は早池峰スーパースプリントを勝ってくれた。その弟でしたし、体も良かったので馬主さんにすすめましたが、1000万レース(ネクストスター盛岡)を勝ってくれてホッとしました」
4歳以上最優秀馬はヒロシクン。壇上に佐藤雅彦調教師、佐藤航紀きゅう務員、そして主戦の高松亮騎手が壇上に上がった。
高松亮騎手「最初、騎乗した印象は子供っぽいけどかわいらしい馬―でした。最初はB級スタートでしたが、重賞3勝するまで成長してくれて本当にうれしいです。自分は首を骨折しましたが、しっかり治して今年もヒロシクンといっしょに成長していけたらと思っています」
佐藤雅彦調教師「B級で3連勝をした後、当時入院中だったオーナーの瀬谷隆雄さんを元気づけたいと思い、一條記念みちのく大賞典へ挑戦しました。桐花賞まで地元同士の戦いでは負けなし。オーナーも非常に喜んでくれました。ヒロシクンは常にマイペースの馬ですからね。どの距離がベストなのか分からないのが正直なところ。今年はいろいろ試しながらローテーションを決めたいと思っています」
馬事文化賞は『持続可能は馬資源の活用を目指す』ジオファーム八幡平 企業組合八幡平地熱活用プロジェクト代表理事・船橋慶延さん、全日本総合馬術・内国産総合馬術初代王者・菅原権太郎さん(日本大学職員)のお二人。
授賞式が終わり、交流会が始まる約15分の間、とある方が声をかけてきた。2006年当時、水沢青年会議所理事長の石川悦也さんだった。ご記憶の方もいるかもしれないが、同年6月、福永祐一元騎手(現調教師)が水沢競馬場の一日場長を務めてくださったが、実現に向けて尽力した中心人物が石川さんだった。
久々の再会に加え、場所がアワード受賞式だったので、思わず「なんで今日いるんですか?」と失礼な質問をしてしまった。
「実は菅原権太郎は長男。そして次男は現在、ジオファーム八幡平に従事していますから家族でダブル授賞です」と石川悦也さん。驚きを越して二人で大笑いしてしまった。これもかつて馬産地、馬の育成で名を馳せた岩手ならではだと思った。
すかさず隣にいた菅原健太郎さんに話を聞いた。「今後の乗馬を考えたとき、内国産部門の創設は意義あることですよね」。明確な返答だった。
「馬術競技で主流はヨーロッパ産ですが、日本のサラブレッドは現在、世界レベル。競馬で一流レベルの成績を残したサラブレッドが、乗馬へ転向しても活躍するケースは数多くあります。引退後、選択肢の一つとして積極的にお誘いしていきたいと取り組んでいます」
3月競馬が再開したら石川さんが経営するジャマイカ料理店「ROYALジャマイ館」に行こうと思っている。水沢駅(東北本線)東口から徒歩10分、水沢競馬場にも2キロ圏内。興味がある方は是非、訪れてみてください。
トリはもちろん満場一致で選ばれた年度代表馬および3歳最優秀馬フジユージーンの関係者。
有限会社富士ファーム代表・川口巌さん。「一昨年はフジラプンツェルで2歳最優秀馬。昨年はフジユージーンで2歳最優秀馬。今年は年度代表馬、3歳最優秀馬に選んでくださり、みなさんに感謝しております。印象に残っているのはジャパンダートクラシック挑戦。負けはしましたが、馬が育った気がします。楠賞ではスタートがうまくいかなくてひやひやしましたが、村上騎手が落ち着いて乗ってくれました。びっくりするくらい全国にファンが多くて、注目度がすごく高い馬だなと思っています。私自身が鞍つけから始まり、馴致しましたからより思い入れが強い馬。来シーズンの活躍も期待しています」
瀬戸幸一調教師「使う度にプレッシャーは大きかったですけど、その中でも調教などをきっちりやってくれたので、自信を持って出走させることができました。状態づくりがすごく難しく、スタッフのみんなが真剣に考えてくれていました。今年は昨年と同じくらいのペ-スで出走させたいと思っています」
フジユージーンの最大目標はJpnI・マイルチャンピオンシップ南部杯だと公言済み。そこへ向けてどのようなステップを踏んでいくのか、みなさんも注視してほしい。
岩手県競馬組合厩舎関係者等表彰
調教師部門
最優秀勝利回数 佐藤雅彦
最優秀賞金獲得 菅原勲
最優秀賞率 菅原勲
騎手部門
最優秀勝利回数 山本聡哉
最優秀賞金獲得 山本聡哉
最優秀勝率 山本聡哉
ベストフェアプレイ賞 村上忍
通算勝利2500勝 山本聡哉
通算勝利2000勝 阿部英俊
新人騎手 坂井瑛音
写真提供:岩手県競馬組合
文:松尾康司
NARグランプリレポート VOL2
2025年02月14日
2月3日に都内で行われたNARグランプリ授賞式のリポート第2弾。
今回は各賞を受賞した競走馬と調教師について、競馬リポーターの大恵陽子がリポートをお届けします。
【年度代表馬】ライトウォーリア
2024年の年度代表馬に輝いたのはライトウォーリア。JRA時代はその気性からレース展開一つで能力を発揮できる時とそうでない時があったのですが、22年夏に地方競馬の川崎に移籍すると、逃げるレースで強さを発揮していきました。そして昨年2月、川崎記念JpnIを逃げ切り勝ち。
秋には韓国・コリアカップに遠征して4着など、地方競馬を代表する活躍を見せました。
吉原寛人騎手
「年度代表馬の背に乗れたことをすごく誇りに思いますし、感謝しています。年明け初戦の報知オールスターカップでは状態が良くて掛かりすぎて、気を付けないといけないなと思っていましたが、川崎記念の返し馬ではさらに前向きになっていて、もっと気を付けないといけないなと思っていました。そこがピークなくらい、一番いい状態でした。
レースは4コーナーでもひと踏ん張りしてくれて、会心の勝利でした。ゴールでは大きなガッツポーズが出てしまいました」
なお、吉原騎手は特別賞も受賞。
地方通算3000勝達成、地方競馬全場(現存する平地)での重賞制覇などメモリアルな一年でもありました。
内田勝義調教師
「このような大きな賞をいただき、感謝しかありません。これもひとえに、川崎記念で激走してくれたおかげです。
秋のコリアカップは初めての海外遠征でしたが、そのわりにはいい雰囲気で出走できたと思います。ゲートボーイを見てスタートで遅れた分、前に行けませんでしたが、3コーナーからの脚を見て『おぉ!もしかしたら』と感じました。JRA時代はそういうレースをすると全然ダメだったので、この形で競馬ができたことはプラスでした。
今年も報知オールスターカップから川崎記念というローテーションを予定しています」
【最優秀勝利回数調教師賞】【最優秀勝率調教師賞】打越勇児調教師
「馬主やスタッフ、ジョッキー、ファンの皆様に恵まれての結果で、嬉しく思います。昨年はできすぎなくらいでしたが、人と馬との縁や運に恵まれました」
地元ではプリフロオールインで高知三冠を達成し、シンメデージーではダート三冠のうち東京ダービーとジャパンダートクラシックに出走し、4着、5着でいずれも地方最先着を果たしました。
「新しいレース体系もあり、チャレンジできてよかったです」
地方全国リーディングは5回目の受賞で、24年に挙げた232勝はキャリアハイ。そして最優秀勝率調教師賞は初の受賞となりました。
収得賞金も全国2位。賞金トップは例年、賞金の高い南関東所属の調教師ということを考えると、高知からのランクインは素晴らしいことです。
高知競馬が売り上げ増に伴い、賞金もアップしたことに加え、前述のダート三冠をはじめ他地区へ遠征して結果を残したこともあと押ししたことでしょう。"準三冠"となりました。
【最優秀賞金収得調教師賞】小久保智調教師
「こればっかりは自分一人でできるものではないので、オーナー、スタッフのみんなに感謝しています」
昨年挙げた160勝はキャリアハイでしたが、小久保調教師は少し悩みながらこう話しました。
「数字は出るけど、代表馬を出していません。どっちを重視したらいいのかなというのが悩みです。目指しているのは、目の前の馬にいかに最大のパフォーマンスを出し切らせるかなので、そういうところでは納得できる部分があります」
さて、ここからはオッズパークともゆかりの深い競馬場所属の馬を中心に、各部門の受賞馬を見ていきましょう。
【最優秀短距離馬】アラジンバローズ
昨年の短距離界ではスマイルウィがテレ玉杯オーバルスプリントJpnIIIを勝つなど、地方馬によるダートグレード制覇が複数見られました。
そうした中、サマーチャンピオンJpnIIIを勝ち、JBCスプリントJpnIで地方馬最先着の3着に入ったアラジンバローズが最優秀短距離馬を受賞しました。
JRA時代、ダート1700m~1800mで3連勝してオープン入りした同馬は23年秋の兵庫移籍後も中距離を主戦場としていました。しかし、移籍初戦の鳥栖大賞(2000m)こそ勝ったものの、道中は掛かって力を発揮しきれないレースが続いていました。
転機が訪れたのは昨夏のマーキュリーカップJpnIII。
地方移籍後初のコーナー4回の競馬は陣営の予想以上に折り合えていい雰囲気で運ぶことができました。
そこでレース後、下原理騎手は「1400mがいいかもしれません」と、新子雅司調教師に提案。なぜ1400mかと言うと、拠点とする西日本では小回りコースとなるため、コーナー4回のレースはこの距離になるのです。
そこで矛先を向けたのが佐賀のサマーチャンピオン。台風の影響で3日順延となり、佐賀県へ輸送途中だった同馬は山口県内で引き返して地元に一旦戻り、再輸送となりましたが、それを跳ね除けての優勝でした。
さらに、追い切りから抜群の雰囲気を見せていたJBCスプリントでは同厩舎で22年、23年のNARグランプリ年度代表馬のイグナイターを退けての地方最先着。
今年はさらなる活躍が期待されます。
【特別表彰馬】ラブミーチャン
昨年8月31日に亡くなったラブミーチャン。
現役時代は笠松所属で全国のダートグレード競走で活躍し、引退後は地元ではその功績を称え、2歳牝馬による重賞が「ラブミーチャン記念」と名付けられました。
無敗のまま全日本2歳優駿JpnIを制し、2歳ながらNARグランプリ年度代表馬を受賞。
3歳春にJRA阪神競馬場で行われたフィリーズレビューGIIに出走時には大応援団も駆け付けていました。
【2歳最優秀牡馬】ソルジャーフィルド
JBC2歳優駿JpnIIIの勝利は地方馬としては4年だったソルジャーフィルド。その後の全日本2歳優駿JpnIでも地方馬最先着の3着に入りました。
【2歳最優秀牝馬】プラウドフレール
プラウドフレールは大晦日の東京2歳優駿牝馬を勝利。年末に南関東で行われる2歳女王決定戦を制しました。
【3歳最優秀牡馬】サントノーレ
3歳最優秀牡馬はダート三冠で地方最先着を2回果たしたシンメデージーとサントノーレが同数票を獲得しましたが、委員会規定に基づき、委員長によりサントノーレが選定されました。
春に京浜盃JpnIIを7馬身差をつけて圧勝し、ダート三冠初年度からサントノーレが地方代表として活躍するのでは、と期待が寄せられていましたが、直後に骨折が判明。春は休養を余儀なくされましたが、復帰初戦の戸塚記念を勝ち、ダート三冠最終戦のジャパンダートクラシックに間に合いました。そこでは7着でしたが、昨年ダートグレード制覇を果たしたことが受賞の大きな決め手となったことでしょう
【3歳最優秀牝馬】ローリエフレイバー
前年の東京2歳優駿牝馬を勝ったローリエフレイバー。24年はロジータ記念のみの勝利でしたが、地方全国交流重賞を勝ったことが評価されました。
【4歳以上最優秀牝馬】キャリックアリード
昨年、ダートグレード競走で地方最先着を果たすこと4回。グランダム・ジャパン古馬の春・秋シーズンを連覇しました。
【ダートグレード競走特別賞馬】フォーエバーヤング
この賞はもうこの馬しかいないでしょう。アメリカ・ケンタッキーダービーで僅差の3着で、世界の頂に手が届きかけた興奮と悔しさを日本の競馬ファンに味わわせてくれたダート馬が、秋初戦に大井競馬場で行われたジャパンダートクラシックJpnIに登場。管理する矢作芳人調教師、鞍上の坂井瑠星騎手ともに父が大井競馬場の元調教師と元騎手で、彼らにとってはルーツとなる地で力強い走りを見せると、ブリーダーズカップクラシック3着を挟み、年末には東京大賞典GIも勝利。JRA馬が、所属の垣根を越えて地方競馬を大いに盛り上げてくれました。
【3歳ダート主要競走出走馬主への記念楯贈呈】
昨年は新競走体系が始まり、ダート三冠や3歳短距離路線の整備など改革年でした。そこに積極的にチャレンジした地方馬からは上位入着を果たす活躍も多く見られ、今回のNARグランプリ授賞式では、3歳ダート主要競走(羽田盃・東京ダービー・ジャパンダートクラシック・兵庫チャンピオンシップ・関東オークス)で5着以内に入った地方馬の馬主に記念楯の贈呈が行われました。
【ばんえい最優秀馬】メジロゴーリキ
帯広記念、ばんえい記念と高重量戦を制し、ばんえい記念をもって現役を引退したメジロゴーリキが受賞しました。
あいにく関係者の出席はありませんでしたが、力強いレースを見せてくれました。
文/大恵陽子
NARグランプリレポート VOL1
2025年02月07日
NARグランプリ授賞式が2月3日、都内ホテルで行われました。
2024年の地方競馬を彩った人たちが一堂に会した華やかな授賞式のリポートを、競馬リポーターの大恵陽子が今年もお届けします。
まずは騎手部門から。
昨年の最優秀勝利回数騎手賞は森泰斗騎手(船橋)でした。いわゆる地方全国リーディングで、昨年11月末をもって騎手を引退して1カ月の空白期間がありながらも2位吉村智洋騎手(兵庫)に9勝差をつけての獲得。それだけ11カ月間の勝利数が抜けていて素晴らしいということなのですが、ご本人は複雑な思いを抱いていたようです。
「12月はレースに乗っていなくて、引退発表した人間が獲ってしまっていいのかな、と複雑な思いでいます。
昨年は体も不調な部分があり、到底、納得できる騎乗はできませんでした。数字の面でも一番勝っていた年で400勝近くだったので、昨年の295勝はだいぶ落としていて、不本意なシーズンでした」
自分自身に納得がいかない中でも、後輩騎手の台頭がなかったことなどが影響しての森騎手の受賞となったのでした。
引退後の現在の生活は「不摂生をしてみたんですけど、体にしみついた習慣はあまり抜けなくて、今は寝る時間も食事も騎手の頃と変わらない生活に戻りました」と規則正しい生活。そうした中で、現在は調教師を目指しています。
「少し離れて色々考えてみて、やっぱり近くで馬に関わりたいと思いました。叶うのであれば、培ってきた知見を生かしていい馬を育てたいですし、自分の経験や足りなかった部分を伝えながら騎手も育てたいです。スタージョッキーは地方競馬の発展に必須だと思います」
調教師試験への合格が待たれます。
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その森騎手の隣で「(森)泰斗さんの壁は大きくて、泰斗さんが1カ月休んだにもかかわらず勝利数を大きく引き離されたのは情けないです」と話したのは笹川翼騎手(大井)。最優秀賞金収得騎手賞を受賞しました。
「昨年は不甲斐ないシーズンで、賞金も地方競馬だけなら矢野貴之さんに負けていました。馬が頑張ってくれたから獲れた賞です」
そう厳しいジャッジを下しますが、昨年はカタール遠征、そしてイグナイターとのドバイ遠征と貴重な経験をしました。ドバイでは勝ちを意識できる走りを感じられた一方、直線の進路取りで制裁を受けるなど正と負の感情をどちらも抱いたのでは、と思います。
今年も2月22日、サウジアラビアで行われるリヤドダートスプリントにイグナイターと参戦予定。
「昨年のドバイでは悔しい思いもしましたし、今後のジョッキー人生で感じさせられるものもありました。サウジに行くのは初めてですが、昨年、2カ国に行ったことは自分の中では大きなアドバンテージになっています。自信を持って、悔いの内容一生懸命乗りたいです。
また、今年は自分に発破をかけて、厳しくレースに向き合って全国リーディングを獲りたいです。あえて、この場で言います」
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最優秀勝率騎手賞は渡邊竜也騎手(笠松)が初の受賞となりました。
東海地区からは初めてどころか、同賞は2009年の創設以降、赤岡修次騎手(高知)と山口勲騎手(佐賀)、宮川実騎手(高知)の3名しか受賞したことがありませんでした。それだけ毎年、受賞者が固定されがちな部門。
そこを目標に掲げたのは、地元紙の記者から「勝率が高いよ」と教えてもらった3月頃でした。そこからは毎週、競馬が終わるたびに勝率をチェック。
「1年間、目標に頑張ってきたので嬉しいです」と喜びました。
また、昨年は12月に地方通算1000勝を達成。
「笹川騎手を目標に頑張ったんですが及ばなかったので、2000勝は笹川騎手より最短で達成できるように頑張ります」
※笹川騎手はTCK史上最速のデビューから2784日目で地方通算1000勝を達成。
JRA初勝利や自身の持つ笠松の年間最多勝更新もあり、とにかく濃い一年でした。
「昨年は目標が多く、いろいろ達成できましたが、今年はまだコレという目標は立っていません。目の前の一つ一つを追いかけながら、新しい目標を立てられたらと思います」
同じ東海からは宮下瞳騎手(愛知)が優秀女性騎手賞と特別賞を受賞。
昨年は自身2度目の年間100勝を達成し、116勝は国内女性騎手最多でした。これまでは地元・名古屋競馬場での騎乗が中心で、常時交流のある笠松競馬場での騎乗は少なかったのですが、昨年は281鞍で、一昨年の60鞍から一気に増加。これにはご家族の支えもあってのものでした。
「主人をはじめ、子供たちの応援もあってこのような結果を残すことができました。特に主人にはたくさん協力してもらって、助かっています。
関係者のみなさまのおかげでいただけた賞だと思うので嬉しく思います。
毎年ケガをしてしまうんですが、昨年は大きなケガなく、いい馬に乗せていただいた結果だと思います。笠松への遠征も増えて、騎乗数も多くなったと思います」
元騎手の小山信行さんは騎手引退後、韓国で攻馬手をしていましたが、現在は帰国して名古屋競馬で厩務員をしています。
「受章を聞いた時は正直ビックリしました。私なんかがもらっていいのかな、と思いましたが、すごく嬉しかったです。今まで頑張ってきてよかったなと思いましたし、それらが報われたので、これからもっと努力したいです。ケガが多いので、ケガなく一鞍一鞍、大事に乗って1勝ずつ自分の記録を積み重ねたいです」
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フェアプレイ賞は村上忍騎手(岩手)。
「30年以上ジョッキーをしていますが、こういう賞は縁がなかったので光栄です」と、意外にも初受賞。
「いま思えば、若い頃は勝ちたい思いが強かったですが、年齢を重ねるごとに馬を御しながら、周りを見ながら少しだけ冷静に騎乗しようという気持ちが強くなったことが、今回の受賞に繋がったのかなと思います」
昨年は東北優駿や園田・楠賞を勝ったフジユージーンとの活躍も目立った年でした。
「デビュー前から期待が高くて、今年も楽しみな馬です。プレッシャーもある程度ありますが、それよりも『今日はどんな走りをしてくれるんだろう』と僕自身も楽しみが強い馬です」
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最優秀新人騎手賞は加藤翔馬騎手(金沢)。
23年にデビューし、昨年は112勝を挙げる活躍で、ヤングジョッキーズシリーズではファイナルラウンドに進出も果たしました。
「新人賞は師匠でもある父(加藤和義調教師)も受賞していて、新人の間の限られた枠なので、受賞したいとデビュー前から思っていたので嬉しいです。前目の位置で競馬をすることが自分の持ち味だと思っていて、それをより磨きながら、そうじゃない競馬ももっと上手く乗れるように頑張りたいです」
次回のコラムでは各部門を受賞した競走馬や調教師についてリポートします。
文/大恵陽子
2025・M&Kジョッキーズカップが実施されました
2025年01月30日
1月19日(日)に佐賀競馬場にて、M&Kジョッキーズカップが開催されました。
2つのレースに騎乗するのは、岩手所属騎手4名と、佐賀の前年のリーディング上位8名。レース名の「M」は"みちのく"で、「K」は九州。以前は岩手の騎手と佐賀&荒尾の騎手との対抗戦でしたが、2011年に荒尾競馬が廃止されたことで岩手と佐賀の対抗戦に。それでも名称は以前のまま、引き継がれています。
新型コロナウイルスの影響で実施されない時期がありましたが、昨年の1月に復活。そして昨年の8月4日に盛岡競馬場で佐賀所属騎手4名、岩手リーディング上位8名(その時点における当年の成績)による「M&Kジョッキーズカップ」が実施されることになりました
そのときは、山口勲騎手、竹吉徹騎手、田中純騎手、田中直人騎手が遠征。しかし......
ゲリラ豪雨による馬場状態の悪化でレースが取り止めに。佐賀の4名は1泊2日の盛岡旅行をしただけになってしまいました。
というわけで「M&K」の開催は1年ぶり。今回は岩手から大坪慎(おおつぼ・まこと)、鈴木祐(すずき・ゆう)、関本玲花(せきもと・れいか)、高橋悠里(たかはし・ゆうり)の4名が佐賀に来ました。
このうち、初めての佐賀となるのが鈴木騎手で、
「騎手会長に行けと言われたので」
と、苦笑い。ほかの3名は佐賀経験があって、大坪騎手は「たしか4回目かな。行きの飛行機はジャンボ焼き鳥のお店の人と同じ」とのことでした。
関本騎手はレディースヴィクトリーラウンドで来たことがあって、高橋騎手は2020年の「M&K」に出場するなどで佐賀コースの経験があります。
ただ、佐賀競馬場は2023年の夏を境に、以前とは砂の質が違っているんですよね。岩手の騎手はそれを知っているのかな?
と思ったので、冬は佐賀での期間限定騎乗が恒例になっている小林凌騎手に聞いてみました。佐賀コースの特徴とか、誰かに教えました?
「いや、誰も聞きにきていないので......」
そうなの?
するとそこに、本日の騎乗を終えた小松丈二騎手が登場。小松騎手は騎乗できる騎手が足りなくなった昨年末の水沢競馬で、応援騎乗をしてきました。
「水曜日くらいに言われて、金曜日に移動して土曜日から乗りました」
ちなみに小松騎手はデビューの地が岩手。盛岡競馬場の所属で2年少々騎乗して、2005年に佐賀へ移籍しました。
「岩手から離れたのは昔のことですが、けっこう覚えてもらっていましたし、こちらも知っている人が多かったですね。でも、4日間で勝てなかったのは残念だったなあ」
せっかくなので、元・岩手の騎手と現・岩手の騎手で並んでもらいました。
では改めて、お二人に現在の佐賀競馬場の特徴を聞いてみましょう。
「砂が変わってからは、外があまり伸びなくなりました。前は、後方から大外を回って差し切れることがありましたが、今はかなりペースが速くならないとムリですね。逆に、わりと早めに仕掛けても意外と粘り込める感じがあります」
と、小松騎手。小林騎手も同意見で、
「今は、力量的にちょっと、という馬でも乗りかたひとつでチャンスがある感じになっています。ただ、インコースから積極的に行きすぎると最後に止まることが多いです」
その話を聞いたのは第1戦(第6レース)の前。岩手所属騎手の紹介式は、第4レースのあとに行われました。
高橋悠里騎手「佐賀競馬を盛り上げられるように頑張ります」
鈴木祐騎手「初めての競馬場ですが、全力で頑張ります」
関本玲花騎手「さっきのレースに乗せていただけて、なんとなく雰囲気はつかめたかなと思うので、ひとつでも上の着順を狙います」
大坪慎騎手「佐賀のジョッキーに負けないように頑張ります」
この騎手紹介式を見守っていたのが、盛岡競馬場名物のジャンボ焼き鳥「とりっきー」のスタッフ。紹介式のあと、スタンドを通り抜けて正面入口に向かうと、ものすごい煙が出迎えてくれました。
「ここではナマから焼き始めるので時間がかかりますね」
と店主。ただ、佐賀競馬場に来るのは2回目で、出張販売に慣れてきた様子です。
さて「2025M&Kジョッキーズカップ」の第1戦は1400m。C2クラスの18組なので、佐賀では最下級に近い条件です。しかし出走馬の間には実力差がある印象で、先行した3頭が3着以内を独占しました。単勝人気順では1→3→2番人気。
各騎手の騎乗馬は抽選で決まりますが、このレースに関してはクジ運がすべてでしたね。岩手の最先着は大坪騎手で、7着。関本騎手が9着、高橋騎手が10着、鈴木騎手は11着。その着順と単勝人気は、ほとんど同じでした。
それはともかく、レースを終えての感想を聞いてみましょう。鈴木騎手、ラチが近くにない競馬はどうでした?
「よくわからないまま終わりました。流れに乗っていこうと思ったんですが、なんか不思議な感じでしたね。この経験をいかせればと思いますが、次はコーナーが6回あるんですよね......」
一方、高橋騎手は「年末の水沢競馬は馬場がドロドロ。だから佐賀の馬場は乗りやすかった(笑)。内ラチから離れていても、馬群がギュッと固まっているので、それほど違和感はなかったです」
最先着の大坪騎手は「うまくインコースをさばければと思っていたんですが、後ろのままでしたね。砂の感じが以前とは違って、外を回ると厳しいという感じは受けました」
とのことでした。なお、関本騎手は、第1戦と第2戦の間にある第7レースにも騎乗したので、早々に待機所に向かいました。
第2戦はC1クラスで、1750mが舞台。しかしJRAから佐賀に移って6連勝中のホーハイトが断然人気。せっかくのジョッキー戦なのになあ......
しかしホーハイトは2周目の向正面あたりからの動きがちょっとヘンで、3コーナーで競走中止(左前肢跛行とのこと)。このレースはスタートから流れが速く、小松騎手が言っていた「かなりハイペースにならないと」という展開になっていました。ところが2番手を進んだ断然人気馬がいきなり不在に。逃げていた飛田愛斗騎手はプレッシャーがなくなったことで粘りが効いて2着に残る一方で、後ろで脚を溜めていた馬が続々と台頭!
ひときわ目立つ脚で伸びてきたのは、道中で後方2番手にいたイツモハラペコ&関本騎手。ゴール直前で差し切りを決めました。
粘った飛田騎手の後ろは半馬身差で追い込んだ2頭が並ぶ形。大外を回った大坪騎手か、間を割ってきた田中直人騎手か。写真判定の結果は「同着」で、3連単と3連複は、2通りが的中となりました。
その配当は、3連単が【234万8030円】と【156万5370円】で、3連複が【12万720円】と【14万4850円】という恐ろしい高配当!
単勝人気順では5→8→4&6。ジョッキー戦らしい結果といえば、そういうことになるのかも......
「引っかかるタイプだと聞いていたので、後ろから外を回っていきました。最後は飛田くんが前に見えて1着か2着かなと思いましたが、ペースが速めだった分、間に合ってくれました」
と関本騎手。この経験は佐賀競馬場で3月8日(土)に実施されるレディースジョッキーズシリーズにつながりそうですね。
2戦の結果での総合優勝は、1着と3着と結果を残した田中直人騎手。2位は関本騎手で、3位は飛田騎手となりました。
ところで、岩手競馬では2月初旬に「調教始め式」が行われます。多くの騎手は大晦日からそこまでが「冬休み」。
ただ、高橋騎手は「僕はこれが"仕事納め"。水沢の最終日のあとも体を動かしていました」とのこと。大坪騎手は盛岡に戻って冬休みを取るそうですが、逆に鈴木騎手は「前日までが冬休みで、このあとは茨城の牧場に行く」そうです。
2025年の岩手競馬は、3月9日(日)の水沢で開幕。岩手も佐賀も引き続き熱い戦いが続いていきます!