各地の重賞、2025年度の主な変更点
2025年03月31日
地方競馬は4月からが新年度。今回は2025年の各地の重賞を中心に、日程や条件など変更があった主なものを紹介する。
ネクストスター北日本は、昨年は門別で行われたため開幕2日目の4月18日という日程で、3歳スプリントシリーズではあるものの4月29日の兵庫チャンピオンシップJpnIIにはつながらなかった。今年は岩手の水沢1400メートルが舞台となり4月6日。これにより5月1日の兵庫チャンピオンシップJpnIIへは中3週弱という日程となった。
また岩手ではこれまで4月上旬に行われていた3歳重賞・スプリングカップが、ネクストスター北日本の実施にともない、今年は冬期休催明け初日の3月9日に繰り上げて実施。そしてこれまで三冠の前哨戦として1600メートルで行われていたが、ネクストスター北日本の前哨戦の位置づけとなって1400メートルに距離短縮となった。
そのスプリングカップを勝ったのは、1番人気に支持されたポマイカイ。昨年10月に行われたネクストスター盛岡(盛岡1400メートル)以来の実戦ながら重賞連勝とした。次走に予定されているネクストスター北日本では、北海道からの遠征馬を相手にどんなレースを見せるか。
岩手では昨年、夏の時期に大雨に祟られることが多く、走路状況の悪化によって7月30日以降、芝のレースがすべてダート変更で行われた。果たして今年夏の天候や馬場状況はどうか。なお、2011年から行われていたOROターフスプリント(盛岡芝1000メートル、3歳以上)が今年は休止となった。OROターフスプリントは過去2年ともダート変更で行われ、川崎のマッドシェリーが連覇していた。
笠松競馬場は今年、走路改修のため6月中旬から8月上旬まで開催休止となる。これにより、6月(もしくは7月)に行われていた、クイーンカップ(1600メートル、3歳牝馬)、7月に行われていたサマーカップ(1400メートル、3歳以上)が休止となる。
また2023年度まで2月(または1月)に行われていたウインター争覇(3歳以上)が24年度から11月の実施となり、東海ゴールドカップのトライアルとして距離も1800メートルから1900メートルに延長。今年度からは『レジェントハンター記念』に改称された。
名古屋では、トリトン争覇(3歳以上)が今年から1500メートルに短縮。旧競馬場時代には1600メートルで行われていたが、新競馬場に移転した2022年から昨年まで1700メートルで行われていた。名港盃(3歳以上)も今年から1700メートルに短縮。旧競馬場では1900メートルで行われていたが、新競馬場では昨年まで2000メートルで行われていた。
兵庫(園田・姫路)では、これまで2歳重賞として行われていた兵庫若駒賞(園田1400メートル)を今年から年明けに3歳重賞として実施。3月6日で、姫路1800メートルに距離延長となった。2月20日に行われた兵庫ユースカップ(姫路1400メートル、3歳)の短距離路線に対し、兵庫若駒賞は中距離の兵庫三冠の前哨戦となる。
そしてリニューアルされた兵庫若駒賞を大差で圧勝したオケマルはデビューから5連勝。4月2日の菊水賞(園田1700メートル)でも断然人気となりそうだ。
佐賀では、3歳馬の栄城賞が、『九州優駿栄城賞』と改称された。2001年以降、九州ダービー栄城賞として行われていたが、地方競馬では昨年から大井の東京ダービーJpnI以外で"ダービー"の名称を使用しないことになり、2000年までと同様、栄城賞に戻っていた。そして佐賀の"ダービー"としての位置づけを明確にするため、今年から"九州優駿"が冠されることになった。
文/斎藤修
レディスジョッキーズシリーズ園田レポート 「疲れない体の使い方ができているのかな」充実表情の木之前葵騎手(愛知)が優勝!
2025年03月27日
3月12日、園田競馬場で初めてレディスジョッキーズシリーズ(LJS)が行われました。平成の時代、インターナショナルクイーンジョッキーシリーズといって、海外から招待した女性騎手と地方競馬の女性騎手の交流レースがこの地で行われたことはありましたが、地方競馬の女性騎手のみで覇を競うLJSは初めて。園田・姫路競馬では2021年4月に佐々木世麗騎手がデビューするまで女性騎手がいませんでしたから、それも当然と言えます。しかし、近年は装鞍所の改築工事に合わせて女性用控室を作るなど少しずつ時代に合わせて進化。
今年のLJSは佐賀ラウンド2戦、園田ラウンド2戦で行われることとなりました。
園田でのLJS開催はファンにとっても待望だったようで、ウイナーズサークルには紹介式が始まる数レース前から人だかり。中島良美騎手(浦和)がエキストラ騎乗で4レースを勝つと、「おめでとう」「サインください」という声がたくさん聞こえてきました。
その4レースは中島騎手にとって今年初勝利ながら、見ていた地元記者は「昨日からの馬場傾向で一番いい位置につけてたね」と評価。本人は「掛かってるー、と思っていました」と言いますが、大山寿文調教師は「それくらいでこの馬はいいねん」と笑顔。先輩女性騎手からも祝福を受けていました。
和やかな紹介式を終えて、第1戦を勝ったのは地元の佐々木世麗騎手(兵庫)。ゲートが直線に入ったところに置かれる1230m戦で、最初のコーナーまでの距離が短くポジション争いが激しくなりやすいコースです。それでも、ゴール板の辺りで隊列はほぼ決まることが多いのですが、この時は違いました。
木之前騎手が逃げるかと思われたところ、1コーナーを回りながら外から並びかけたのが佐々木騎手。このタイミングで強気に位置を取りに行くのが彼女の武器でもあり、逃げ有利なこの日の馬場傾向を味方に押し切り勝ちを収めました。
「この馬に乗っていた大柿騎手から『流していっていいよ』とアドバイスをいただいていたので、馬の気持ちに任せて行ったら、勝てました」
と佐々木騎手。
2着は深澤杏花騎手(笠松)。
1コーナーまでハナ争いがもつれ込んだことでペースが少し速くなっていたため、差し馬に乗っていた彼女向きの展開となりました。
本人も「展開がハマったと思ったんですけど。あそこまでいったら勝ちたかったです」と悔しさを滲ませました。
ちなみに、騎乗馬の厩務員さんも女性で、LJSらしいコンビでした。
3着に塩津璃菜騎手(兵庫)。Bグループの騎乗馬ながら好ポイントを獲得しました。
検量室で泥を落としながら「ヤバい。表彰台にも残れないかも」と嘆いていたのは関本玲花騎手(岩手)。
4日前に行われた佐賀ラウンドでは写真のように和やかなムードで、佐賀第2戦も勝って暫定2位で園田ラウンドを迎えていましたが、ここは7着。
残す園田第2戦はAグループの騎乗馬が当たってはいるのですが、「次のレースは(木之前)葵さんで決まりでしょ。騎乗馬は時計が2秒も速いもん」とやや諦めムード。木之前騎手は佐賀第1戦を勝ち、最終戦を前にしても暫定1位ですから強力なライバルですが、それでもやっぱり表彰台には上りたい思いが伝わってきました。
そうして迎えた最終戦は、やはり木之前騎手が圧倒的に強い競馬を見せて勝利。騎乗馬は3カ月半の休み明けでしたが何のその。逃げ馬直後、園田では「ハコ」と呼ばれる絶好位につけると、4コーナーで外に出して抜け出す当地の王道競馬でした。
「LJSは騎乗馬の成績が順位を左右する部分があって、運が良かったです」
そう笑顔が弾けました。
そういえば、今年のLJSでは明るいキャラクターの木之前騎手の表情がいつも以上に生き生きしていたように思います。写真は佐賀ラウンド第1戦を勝った直後。
さらに振り返ると、ここ1~2年は充実した表情に感じることも多いかもしれません。
それについて聞いてみると、こう返ってきました。
「昔は体力がついてきていなかったのか、体が疲れていました。いまは調教頭数が2~3頭減ったにしても、余裕があります。色々とトレーニングをしたり、ホットヨガに最近通い始めました。体のバランスが持久力に関係していると思っていて、疲れない体の使い方ができているのかな、と思います。馬が好きだし、いま馬乗りが楽しくて仕方ないです」
この時の表情ったら、目を輝かせてキラキラ眩しかったくらい。
以前からトレーニングには取り組んでいて、ジムへの行き帰りも筋トレになれば、とロードバイクを漕いで行くなどしていました。そうしたことが少しずつ実を結んでいるんですね。
そう考えると、LJS優勝は騎乗馬のクジ運に恵まれただけでなく、木之前騎手自身のスキルアップもあるのでしょう。レースぶりを見ていても、安定感がありました。
2位は佐々木騎手。
地元開催とあって声援も多く、表彰式の合間にそれに地声で応える場面を見ると、優勝できずとも表彰台に上れたことは嬉しかったのでしょう。
一旦は諦めかけていた関本騎手は最終戦を3着にまとめて総合3位。なんとか表彰台を死守しました。
「ゴール前は内に(佐々木)世麗と(深澤)杏花がいて、この二人を抜かさないと表彰台はないぞと思っていました」
と胸中を話すと、すかさず深澤騎手が「私も3位ほしかったです」と悔しそうにツッコミ。深澤騎手は総合5位でした。
デビュー1年目でLJS初参戦だった塩津騎手は総合4位。
「第2戦はいけるかと思ったんですけど、勝ち馬が強かったです。2戦とも掛かり気味だったので、悔しいです」
ようやくデビューから丸1年を迎えようかというところで、まだまだ課題はたくさんあるのでしょうが、9番人気3着と6番人気2着は地元で存在感を示しました。
宮下瞳騎手(愛知)は不思議と女性騎手戦に縁がなく総合6位でしたが、昨年は自身2度目となる年間100勝達成など、その実力は誰もが知るところ。
総合7位は神尾香澄騎手(川崎)。
佐賀第1戦ではいい手応えで迎えた直線で進路が狭くなる不利がありながらも、しっかり切り替えて第2戦も騎乗しており、さすが激戦区の南関東でそれなりの数の騎乗を得ているだけあると感じました。
総合8位は中島騎手、9位に入籍したばかりの濱尚美騎手(高知)でした。
ちなみに濱騎手、3月3日に入籍を発表し、結婚後初勝利となったのがLJS佐賀翌日の高知7レース・ヴァンケドミンゴ。それがネットニュースになっていたよ、とレース前に伝えると、「え!そうなんですか。ヴァンケドミンゴ自身もJRA時代からファンの多い馬みたいですね。この馬はコンスタントに使えていたら、状態のいい証だと思っていただけたら」とのこと。LJSは残念でしたが、また地元・高知での活躍を期待しましょう。
文/大恵陽子
目覚ましい新人騎手のレベルアップ
2025年02月27日
JRAではまもなく新人騎手がデビューを迎え、地方競馬でも3月下旬には騎手免許試験合格が発表され、4月1日以降に新人騎手が順次デビューとなる。
それで思うのは、近年デビューしてくる新人騎手のレベルアップが目覚ましい、ということ。
NARグランプリ2024で最優秀新人騎手賞に輝いた加藤翔馬騎手(金沢)は、デビュー2年目で112勝を挙げた。ちなみにこの2024年は4月にデビューした望月洵輝騎手(愛知)も実質9カ月で95勝を挙げていたが、受賞は加藤騎手ということになった。
NARグランプリ最優秀新人騎手賞(2022年までは優秀新人騎手賞)の規定は、「前々年の3月31日以降に新規に免許を取得し、前年の地方競馬、中央競馬及び地方競馬登録馬による外国の競走で30勝以上をあげた地方競馬の騎手を対象に、勝利回数、収得賞金額、勝率、重賞競走成績等を総合的に評価して最も成績が優秀であった者」となっている。
大雑把に言うと、デビュー2年以内の騎手から成績優秀者が選ばれる。
そして、2019年以降の受賞者の当該年の勝利数を一覧にすると...
2024 加藤翔馬(金沢) 112勝
2023 山田義貴(佐賀) 118勝
2022 塚本征吾(愛知) 84勝
2021 飛田愛斗(佐賀) 145勝
2020 小野楓馬(北海道) 68勝
2019 岩本 怜(岩手) 87勝
これ以前の優秀新人騎手賞受賞者の当該年の勝利数は、おおむね50〜60勝台が多く、年によっては30勝台で受賞している騎手もいる。そう考えると、近年の新人騎手賞争いのハードルがいかに高くなっているかがわかるだろう。
なお、これ以前に80勝以上を挙げて受賞したのは以下。
2011 島津新(ばんえい) 86勝
2001 吉原寛人(金沢) 95勝
2000 御神本訓史(益田)152勝
1997 岡田 大(益田) 110勝
御神本騎手の152勝というのが目を引くが、デビュー年が80勝で、これは2年目の数字。2年目でいきなり益田リーディングのトップに立った。一方、吉原騎手の95勝はデビュー年のもので、4月デビューから約9カ月でこの数字をマークした。
なお、NARグランプリの表彰は1990年から行われているが、1994年までは表彰者はわかるものの、手持ちの資料では勝利数がわからなかったので、1990〜94年の記録は含まれていない。
そして近年では新人騎手だけでなく、女性騎手のレベルアップも著しい。
優秀女性騎手賞も、かつては50勝程度かそれ以下で選ばれることが多かった。また「最優秀」ではないので複数名が受賞することもめずらしくなく、2006年に3名が同時受賞ということもあった。
この賞のハードルを上げてきたのが、2024年に、じつに14度目の受賞となった宮下瞳騎手(愛知)といえる。2020年には国内の女性騎手として初めて年間100勝を超える105勝をマーク。そして2024年は116勝として自身の記録をさらに更新した。
一方で、新人騎手、女性騎手の成績が上がったことによって、ここ2年、不運にも受賞を逃したといえるのが、ばんえいの今井千尋騎手だ。
今井騎手は2022年12月にデビューし、2023年にはいきなり103勝をマーク。ばんえい競馬の騎手として、デビューから通算100勝達成の最短記録を更新した。その2023年には優秀女性騎手賞を受賞。年間3桁の勝利は、年が違っていれば優秀新人騎手賞とのダブル受賞にもなっただろうが、この年は冒頭の表のとおり、山田義貴騎手(佐賀)が118勝で上回った。勝利数だけでなく、勝率でも、重賞勝ちがあったことでも山田騎手が上回っていたので、残念なが今井騎手は新人騎手賞のほうは逃すという、レベルの高い争いだった。
そして今井騎手は、2024年にはさらに自身の記録を伸ばして105勝。新人騎手賞の対象からはすでに外れていて、優秀女性騎手賞ならと思われたが、前述のとおりさらに上をいく116勝の宮下瞳騎手がいた。3桁勝利であれば、かつてのように優秀女性騎手賞2名でもよかったように思うが、残念ながらそうはならなかった。
今井騎手には次年度以降、幸運が訪れることを期待したい。
文/斎藤修
「2024 IWATE KEIBA AWARDS」授賞式報告~3/9開幕へ
2025年02月27日
岩手競馬は2ヵ月あまりの冬休みが明け、3月9日(日)から再開する。それに先立ち2月7日(金)、盛岡・水沢両競馬場で「調教始め式」を実施。"安全祈願祭"、"馬場清め"を行った。
例年は同日に馬場を開放していたが、折からの寒波襲来による影響で水沢競馬場は2月10日(月)、盛岡競馬場は2月12日(水)まで馬場入れがずれ込んだものの、以降は3月競馬へ向けて着々とトレーニングが進んでいる。
競馬再開へ弾みをつける行事が毎年恒例の「2024 IWATE KEIBA AWARDS」授賞式。今年もホテルメトロポリタン盛岡NEW WING」を会場に2月14日(金)、来賓、競馬関係者、ファンなど約200名が出席。授賞式および交流会が盛大に行われた。
司会はテレビ岩手アナウンサー・中島あすかさん(年度代表馬選考委員会にも出席)、IBC岩手放送・徳岡伶美アナウンサーが務め、式冒頭に岩手県競馬管理者・達増拓也岩手県知事があいさつをした。
「昨年岩手県競馬組合が設立されて節目の60周年を迎え、ダートグレード競走を4ヵ月連続で実施。年度当初の売り上げ計画を上回り、岩手競馬を支持してくれるファンの皆さん、競馬関係者の努力に感謝します」
続いてきゅう舎関係者等表彰(別掲)、岩手県競馬組合創設60周年感謝状贈呈、岩手競馬アワード授与式が行われた。 まず壇上に立ったのは最優秀牝馬ミニアチュール、最優秀短距離馬ゴールデンヒーラーの関係者。2頭ともオーナー・平賀敏男さん、佐藤祐司調教師、渡辺正彦きゅう務員のゴールデントリオで二部門を授賞した。
平賀敏男さん「ゴールデンヒーラーが無事、生まれ故郷の下河辺牧場さんへ移動。繁殖生活に入ったことを報告します。現役時代の5年間はあっと言う間でした。佐藤祐司調教師、渡辺くんが一生懸命に手をかけてくださったおかげです。思い出に残るレースはマイルチャンピオンシップ南部杯5着(2022年)。JBCレディスクラシックは脚部不安のため出走取り消しをしましたが、重賞11勝もしてくれました。今後はいいお母さんになってほしいと思っています。ミニアチュールは小柄な牝馬ですが、シーズン最後の桐花賞でクビ差2着。2000mでも頑張りを見せてくれて私も感動しました。今年5歳になりますが、これからも岩手競馬を盛り上げていってほしいと思っています」
佐藤祐司調教師「ゴールデンヒーラーは2歳で華々しい活躍をしてくれましたから3歳牡馬クラシックに挑戦させましたが、近年にないハイレベル。今振り返ると申し訳なかったと思いますが、引退式まで行っていただき、多くのファンに見送られました。ミニアチュールは門別から転入時、まっすぐ走らないから気をつけてくれと言われましたが、実習時代の(佐々木)志音に乗せたら問題なかった。ですから移籍2戦目以降は重賞路線を歩ませました。桐花賞でもあれだけ走ることを証明しましたからね。牝馬で難しい面がありますから、じっくり使うレースを考えたいと思っています」
2歳最優秀馬ポマイカイは菅原勲調教師、ガンガ・シンきゅう務員が出席した。アワード最優秀馬の担当きゅう務員では初めてインド人の授賞となった。会場にはサリーを身にまとった奥さんとお子さんも来場。岩手競馬も国際色が出てきたなと思ったのは自分だけではないはず。
菅原勲調教師「明日(15日)福島県の、テンコートレセンから帰厩します。今後のローテーションについては白紙です。まずは現時点での成長度合い、状態を把握したいと思っています。新馬戦は思った以上に走ったが、その後は折り合い面で難しいところを出していました。ひと冬を越して距離延長にも対応できるか、見極めたいと思っています。姉(ダイセンメイト)はうちのきゅう舎で年間11勝もした上、昨年は早池峰スーパースプリントを勝ってくれた。その弟でしたし、体も良かったので馬主さんにすすめましたが、1000万レース(ネクストスター盛岡)を勝ってくれてホッとしました」
4歳以上最優秀馬はヒロシクン。壇上に佐藤雅彦調教師、佐藤航紀きゅう務員、そして主戦の高松亮騎手が壇上に上がった。
高松亮騎手「最初、騎乗した印象は子供っぽいけどかわいらしい馬―でした。最初はB級スタートでしたが、重賞3勝するまで成長してくれて本当にうれしいです。自分は首を骨折しましたが、しっかり治して今年もヒロシクンといっしょに成長していけたらと思っています」
佐藤雅彦調教師「B級で3連勝をした後、当時入院中だったオーナーの瀬谷隆雄さんを元気づけたいと思い、一條記念みちのく大賞典へ挑戦しました。桐花賞まで地元同士の戦いでは負けなし。オーナーも非常に喜んでくれました。ヒロシクンは常にマイペースの馬ですからね。どの距離がベストなのか分からないのが正直なところ。今年はいろいろ試しながらローテーションを決めたいと思っています」
馬事文化賞は『持続可能は馬資源の活用を目指す』ジオファーム八幡平 企業組合八幡平地熱活用プロジェクト代表理事・船橋慶延さん、全日本総合馬術・内国産総合馬術初代王者・菅原権太郎さん(日本大学職員)のお二人。
授賞式が終わり、交流会が始まる約15分の間、とある方が声をかけてきた。2006年当時、水沢青年会議所理事長の石川悦也さんだった。ご記憶の方もいるかもしれないが、同年6月、福永祐一元騎手(現調教師)が水沢競馬場の一日場長を務めてくださったが、実現に向けて尽力した中心人物が石川さんだった。
久々の再会に加え、場所がアワード受賞式だったので、思わず「なんで今日いるんですか?」と失礼な質問をしてしまった。
「実は菅原権太郎は長男。そして次男は現在、ジオファーム八幡平に従事していますから家族でダブル授賞です」と石川悦也さん。驚きを越して二人で大笑いしてしまった。これもかつて馬産地、馬の育成で名を馳せた岩手ならではだと思った。
すかさず隣にいた菅原健太郎さんに話を聞いた。「今後の乗馬を考えたとき、内国産部門の創設は意義あることですよね」。明確な返答だった。
「馬術競技で主流はヨーロッパ産ですが、日本のサラブレッドは現在、世界レベル。競馬で一流レベルの成績を残したサラブレッドが、乗馬へ転向しても活躍するケースは数多くあります。引退後、選択肢の一つとして積極的にお誘いしていきたいと取り組んでいます」
3月競馬が再開したら石川さんが経営するジャマイカ料理店「ROYALジャマイ館」に行こうと思っている。水沢駅(東北本線)東口から徒歩10分、水沢競馬場にも2キロ圏内。興味がある方は是非、訪れてみてください。
トリはもちろん満場一致で選ばれた年度代表馬および3歳最優秀馬フジユージーンの関係者。
有限会社富士ファーム代表・川口巌さん。「一昨年はフジラプンツェルで2歳最優秀馬。昨年はフジユージーンで2歳最優秀馬。今年は年度代表馬、3歳最優秀馬に選んでくださり、みなさんに感謝しております。印象に残っているのはジャパンダートクラシック挑戦。負けはしましたが、馬が育った気がします。楠賞ではスタートがうまくいかなくてひやひやしましたが、村上騎手が落ち着いて乗ってくれました。びっくりするくらい全国にファンが多くて、注目度がすごく高い馬だなと思っています。私自身が鞍つけから始まり、馴致しましたからより思い入れが強い馬。来シーズンの活躍も期待しています」
瀬戸幸一調教師「使う度にプレッシャーは大きかったですけど、その中でも調教などをきっちりやってくれたので、自信を持って出走させることができました。状態づくりがすごく難しく、スタッフのみんなが真剣に考えてくれていました。今年は昨年と同じくらいのペ-スで出走させたいと思っています」
フジユージーンの最大目標はJpnI・マイルチャンピオンシップ南部杯だと公言済み。そこへ向けてどのようなステップを踏んでいくのか、みなさんも注視してほしい。
岩手県競馬組合厩舎関係者等表彰
調教師部門
最優秀勝利回数 佐藤雅彦
最優秀賞金獲得 菅原勲
最優秀賞率 菅原勲
騎手部門
最優秀勝利回数 山本聡哉
最優秀賞金獲得 山本聡哉
最優秀勝率 山本聡哉
ベストフェアプレイ賞 村上忍
通算勝利2500勝 山本聡哉
通算勝利2000勝 阿部英俊
新人騎手 坂井瑛音
写真提供:岩手県競馬組合
文:松尾康司
NARグランプリレポート VOL2
2025年02月14日
2月3日に都内で行われたNARグランプリ授賞式のリポート第2弾。
今回は各賞を受賞した競走馬と調教師について、競馬リポーターの大恵陽子がリポートをお届けします。
【年度代表馬】ライトウォーリア
2024年の年度代表馬に輝いたのはライトウォーリア。JRA時代はその気性からレース展開一つで能力を発揮できる時とそうでない時があったのですが、22年夏に地方競馬の川崎に移籍すると、逃げるレースで強さを発揮していきました。そして昨年2月、川崎記念JpnIを逃げ切り勝ち。
秋には韓国・コリアカップに遠征して4着など、地方競馬を代表する活躍を見せました。
吉原寛人騎手
「年度代表馬の背に乗れたことをすごく誇りに思いますし、感謝しています。年明け初戦の報知オールスターカップでは状態が良くて掛かりすぎて、気を付けないといけないなと思っていましたが、川崎記念の返し馬ではさらに前向きになっていて、もっと気を付けないといけないなと思っていました。そこがピークなくらい、一番いい状態でした。
レースは4コーナーでもひと踏ん張りしてくれて、会心の勝利でした。ゴールでは大きなガッツポーズが出てしまいました」
なお、吉原騎手は特別賞も受賞。
地方通算3000勝達成、地方競馬全場(現存する平地)での重賞制覇などメモリアルな一年でもありました。
内田勝義調教師
「このような大きな賞をいただき、感謝しかありません。これもひとえに、川崎記念で激走してくれたおかげです。
秋のコリアカップは初めての海外遠征でしたが、そのわりにはいい雰囲気で出走できたと思います。ゲートボーイを見てスタートで遅れた分、前に行けませんでしたが、3コーナーからの脚を見て『おぉ!もしかしたら』と感じました。JRA時代はそういうレースをすると全然ダメだったので、この形で競馬ができたことはプラスでした。
今年も報知オールスターカップから川崎記念というローテーションを予定しています」
【最優秀勝利回数調教師賞】【最優秀勝率調教師賞】打越勇児調教師
「馬主やスタッフ、ジョッキー、ファンの皆様に恵まれての結果で、嬉しく思います。昨年はできすぎなくらいでしたが、人と馬との縁や運に恵まれました」
地元ではプリフロオールインで高知三冠を達成し、シンメデージーではダート三冠のうち東京ダービーとジャパンダートクラシックに出走し、4着、5着でいずれも地方最先着を果たしました。
「新しいレース体系もあり、チャレンジできてよかったです」
地方全国リーディングは5回目の受賞で、24年に挙げた232勝はキャリアハイ。そして最優秀勝率調教師賞は初の受賞となりました。
収得賞金も全国2位。賞金トップは例年、賞金の高い南関東所属の調教師ということを考えると、高知からのランクインは素晴らしいことです。
高知競馬が売り上げ増に伴い、賞金もアップしたことに加え、前述のダート三冠をはじめ他地区へ遠征して結果を残したこともあと押ししたことでしょう。"準三冠"となりました。
【最優秀賞金収得調教師賞】小久保智調教師
「こればっかりは自分一人でできるものではないので、オーナー、スタッフのみんなに感謝しています」
昨年挙げた160勝はキャリアハイでしたが、小久保調教師は少し悩みながらこう話しました。
「数字は出るけど、代表馬を出していません。どっちを重視したらいいのかなというのが悩みです。目指しているのは、目の前の馬にいかに最大のパフォーマンスを出し切らせるかなので、そういうところでは納得できる部分があります」
さて、ここからはオッズパークともゆかりの深い競馬場所属の馬を中心に、各部門の受賞馬を見ていきましょう。
【最優秀短距離馬】アラジンバローズ
昨年の短距離界ではスマイルウィがテレ玉杯オーバルスプリントJpnIIIを勝つなど、地方馬によるダートグレード制覇が複数見られました。
そうした中、サマーチャンピオンJpnIIIを勝ち、JBCスプリントJpnIで地方馬最先着の3着に入ったアラジンバローズが最優秀短距離馬を受賞しました。
JRA時代、ダート1700m~1800mで3連勝してオープン入りした同馬は23年秋の兵庫移籍後も中距離を主戦場としていました。しかし、移籍初戦の鳥栖大賞(2000m)こそ勝ったものの、道中は掛かって力を発揮しきれないレースが続いていました。
転機が訪れたのは昨夏のマーキュリーカップJpnIII。
地方移籍後初のコーナー4回の競馬は陣営の予想以上に折り合えていい雰囲気で運ぶことができました。
そこでレース後、下原理騎手は「1400mがいいかもしれません」と、新子雅司調教師に提案。なぜ1400mかと言うと、拠点とする西日本では小回りコースとなるため、コーナー4回のレースはこの距離になるのです。
そこで矛先を向けたのが佐賀のサマーチャンピオン。台風の影響で3日順延となり、佐賀県へ輸送途中だった同馬は山口県内で引き返して地元に一旦戻り、再輸送となりましたが、それを跳ね除けての優勝でした。
さらに、追い切りから抜群の雰囲気を見せていたJBCスプリントでは同厩舎で22年、23年のNARグランプリ年度代表馬のイグナイターを退けての地方最先着。
今年はさらなる活躍が期待されます。
【特別表彰馬】ラブミーチャン
昨年8月31日に亡くなったラブミーチャン。
現役時代は笠松所属で全国のダートグレード競走で活躍し、引退後は地元ではその功績を称え、2歳牝馬による重賞が「ラブミーチャン記念」と名付けられました。
無敗のまま全日本2歳優駿JpnIを制し、2歳ながらNARグランプリ年度代表馬を受賞。
3歳春にJRA阪神競馬場で行われたフィリーズレビューGIIに出走時には大応援団も駆け付けていました。
【2歳最優秀牡馬】ソルジャーフィルド
JBC2歳優駿JpnIIIの勝利は地方馬としては4年だったソルジャーフィルド。その後の全日本2歳優駿JpnIでも地方馬最先着の3着に入りました。
【2歳最優秀牝馬】プラウドフレール
プラウドフレールは大晦日の東京2歳優駿牝馬を勝利。年末に南関東で行われる2歳女王決定戦を制しました。
【3歳最優秀牡馬】サントノーレ
3歳最優秀牡馬はダート三冠で地方最先着を2回果たしたシンメデージーとサントノーレが同数票を獲得しましたが、委員会規定に基づき、委員長によりサントノーレが選定されました。
春に京浜盃JpnIIを7馬身差をつけて圧勝し、ダート三冠初年度からサントノーレが地方代表として活躍するのでは、と期待が寄せられていましたが、直後に骨折が判明。春は休養を余儀なくされましたが、復帰初戦の戸塚記念を勝ち、ダート三冠最終戦のジャパンダートクラシックに間に合いました。そこでは7着でしたが、昨年ダートグレード制覇を果たしたことが受賞の大きな決め手となったことでしょう
【3歳最優秀牝馬】ローリエフレイバー
前年の東京2歳優駿牝馬を勝ったローリエフレイバー。24年はロジータ記念のみの勝利でしたが、地方全国交流重賞を勝ったことが評価されました。
【4歳以上最優秀牝馬】キャリックアリード
昨年、ダートグレード競走で地方最先着を果たすこと4回。グランダム・ジャパン古馬の春・秋シーズンを連覇しました。
【ダートグレード競走特別賞馬】フォーエバーヤング
この賞はもうこの馬しかいないでしょう。アメリカ・ケンタッキーダービーで僅差の3着で、世界の頂に手が届きかけた興奮と悔しさを日本の競馬ファンに味わわせてくれたダート馬が、秋初戦に大井競馬場で行われたジャパンダートクラシックJpnIに登場。管理する矢作芳人調教師、鞍上の坂井瑠星騎手ともに父が大井競馬場の元調教師と元騎手で、彼らにとってはルーツとなる地で力強い走りを見せると、ブリーダーズカップクラシック3着を挟み、年末には東京大賞典GIも勝利。JRA馬が、所属の垣根を越えて地方競馬を大いに盛り上げてくれました。
【3歳ダート主要競走出走馬主への記念楯贈呈】
昨年は新競走体系が始まり、ダート三冠や3歳短距離路線の整備など改革年でした。そこに積極的にチャレンジした地方馬からは上位入着を果たす活躍も多く見られ、今回のNARグランプリ授賞式では、3歳ダート主要競走(羽田盃・東京ダービー・ジャパンダートクラシック・兵庫チャンピオンシップ・関東オークス)で5着以内に入った地方馬の馬主に記念楯の贈呈が行われました。
【ばんえい最優秀馬】メジロゴーリキ
帯広記念、ばんえい記念と高重量戦を制し、ばんえい記念をもって現役を引退したメジロゴーリキが受賞しました。
あいにく関係者の出席はありませんでしたが、力強いレースを見せてくれました。
文/大恵陽子