「ユタカさんが乗ると、別馬みたい」武豊騎手のアレンパに盛り上がった園田・ゴールデンジョッキーカップ

2024年10月01日

今年もゴールデンジョッキーカップ(GJC)がやってきた。通算2000勝以上の名手による戦いで、昨年覇者の武豊騎手(JRA)のほか、地方復帰した小牧太騎手が兵庫所属としては21年ぶりの出場。検量室付近はあちらこちらで名手を中心に輪ができ、話に花を咲かせた。





今年の初出場は笹川翼騎手(大井)。まだ30歳で、今年7月の地方通算2000勝達成は大井所属騎手として史上最速だった。


「同期で"ゴールデンジョッキー"って、勝ちすぎでしょ」と笑ったのは、兵庫の井上幹太騎手。彼らはともにデビュー12年目。単純計算でも年間150勝以上を毎年続けなければ到達できない。ましてやそれが激戦区の南関東なのだから、同期の井上騎手がそう言うのも無理はない。





また、元気な姿を見られて嬉しかったのは、2年ぶり2回目の出場の山本聡哉騎手(岩手)。昨年、中指に悪性肉腫が見つかり、手術を受けた。騎手は手綱を通して馬とコンタクトを取る。指の手術では腱や神経、毛細血管などにも影響が及ぶため、繊細な感覚が損なわれないか、不安も大きかったことだろう。


「リハビリを始めたばかりの頃は力が上手く伝わらなくて、自分の指なのに棒みたいでした。『どうやって動かすんだ?』と思いました」


そこから復帰の過程では体全体のトレーニングも強化し、筋肉量は手術前よりアップ。小柄な体型を生かして以前から騎手の中ではマッチョだったのだが、腕や胸がさらにパンプアップした印象を受けた。


もう一つ、思わぬ効果もあった。それはいい意味で息抜きができたこと。高いレベルで結果を求め続けられるトップジョッキーゆえ、気づかぬうちに精神的に追い詰められていたようで「休んでみて『あ、神経がすり減っていたんだ。しんどかったんだ』と気づきました」とスッキリした顔で振り返った。





その横でひときわ人だかりができていたのはレジェンド・武豊騎手。昨年は12年ぶりの出場で優勝を決めると、夜は甲子園球場に行き、阪神タイガースの18年ぶりリーグ優勝を見届けた。当時流行った優勝を意味する隠語「ARE(アレ)」にちなみ「今年は"アレンパ"を目指します」と笑った。


そこに小牧騎手がそこに加わると、大撮影会がスタート。古巣・兵庫に復帰した小牧騎手と、というのがまたたまらない。





小牧騎手とすれ違った森泰斗騎手(船橋)がふと「小牧さん、シュッとしました?」と驚いたように、古巣への復帰直前から週中はお酒を抜き、「3キロ痩せて、体が軽いわ」と本人も違いを実感。


第1戦はその小牧騎手が単勝1.6倍の1番人気に支持された。騎乗するリケアヴェールは兵庫移籍後2連勝中。強いて不安点を挙げるとすれば、最初のコーナーまでが短い1230mで最内枠が当たったため、万が一にも出遅れて内で包まれることだった。しかし、ロケットスタートを決めて僅かな不安をも吹き飛ばすと、直線はグングン後続を引き離して6馬身差で完勝。





「これってヤラせですか?ってみんなに言われたくらい強かったです(笑)」
と小牧騎手は多くのファンを前に"フトシ節"を炸裂させた。


第2戦は中団からグイグイと脚を伸ばしたベラジオサキと吉村智洋騎手(兵庫)が勝利。





第1戦も3着で暫定1位に立ち、「ここまでは順調かなと思います。隙がないレースで、楽しいですね」と、この日、年間200勝を達成し地元リーディングをひた走る39歳は、大先輩たちとの戦いに刺激を受けていた。





名手たちの騎乗は、負けても「さすが」と唸るレースも多かった。
その一つが第2戦で2着のエイユーマックス。元ジョッキーでもある永島太郎調教師は目を丸めながらこう話す。


「この馬は人を乗せるとチャカチャカしてしまって常歩ができないんですけど、今日は別馬みたいでした。返し馬もいい意味で力が抜けてゆったりと行けていました。これがユタカさんの天才たる所以なんでしょうね」


レース前まで着けていたメンコは武豊騎手がGJC限定で着用したスペシャルウィークの勝負服(臼田浩義オーナー)の柄に合わせたもの。実はコレ、同勝負服をGJCで初めて着ることになった昨年に制作をしていたもののわずかに間に合わず、今年が初お披露目になったのだ。そうした中で馬を一変させての2着は、敗れた中にも収穫があっただろう。





最終戦の第3戦もレジェンド・武豊騎手が魅せた。
1周目スタンド前で徐々にポジションを上げると、直線で差し切り勝ち。その瞬間、園田競馬場は割れんばかりの歓声に包まれた。





勝ったコンドリュールを管理する松浦聡志調教師もこの笑顔。





GJCが始まる前、調教師室がある2階テラスから 「隣の二人とも元ゴールデンジョッキーや。僕は400勝ジョッキーやけど(泣)」と自虐を口にしていたが、調教師としてGJC勝利を収めた。


ちなみにその二人のゴールデンジョッキーは、4100勝ジョッキーでGJC優勝経験もある有馬澄男調教師と、3500勝ジョッキーの木村健調教師だった。


また、ここでも敗れながらも名手ならではのセンスを発揮したのは岩田康誠騎手(JRA)。シフノスに騎乗し、後続を10馬身以上離す大逃げを見せて4着だったのだが、この騎乗に感嘆したのは南関東時代に騎乗経験のあった笹川騎手。


「乗り味がすごくいい馬で、『大井で3連勝できるのでは』と思っていたんですけど、結局勝たせることができませんでした。追うと反抗する面があったり、乗り難しいんです。こういう風に馬の気分に任せて行く形が合っていたんですね」


管理する新子雅司調教師とそう言葉を交わすと、「また東京で」と、2週後に迫った東京盃JpnIIでイグナイターとのレースを楽しみにしながら帰っていった。


3戦の結果、総合優勝は武豊騎手。
戦前の予告通り「アレンパ」達成となり、「タイガースもしてほしいですね」とニコッと笑った。


「今年も全国から素晴らしいジョッキーが集まって、今年は何といっても小牧さんが園田に移籍して、久しぶりに一緒に乗れて嬉しい一日でした」





総合2位は吉村騎手。
「やっぱりユタカさんとは役者が違いましたね。僕の庭まで取っていっちゃうと、さすがに出る幕がなくなっちゃって、完敗です」


総合3位はこの日の主役の一人だった小牧騎手。
「一つ勝ててよかったです。川原(正一)さん以外は若いジョッキーとずっと乗ってきたけど、今日はユタカくんが来てくれて、ホッとしました。たくさんのファンが来てくれて、園田もいいなと思いながら乗っていました。園田では毎週3日、競馬をやっているのでぜひみなさん来てください」





最後に、ゴールデンジョッキーを支える人たちの話も。
サポートの一つにバレットという仕事があり、騎乗に向けて必要な物を準備したり、レース後は次の騎乗へスムーズに向かえるよう道具を綺麗にするほか、時にはジョッキーがメンタルを整えられる環境も作っている。
森騎手とこの日、園田競馬場に来たバレットもその道のプロで、ともに戦ってきた。その彼がこの日、着ていたポロシャツには「V2300」の文字が。





「通算2300勝を達成した時の記念品で、森さんから『いつの着てるの(笑)』と言われました。これ以降の記念品がたまたま冬仕様で、暑い日に着られるのがこれしかなかったんです。」


調べてみると、2018年7月の達成。約6年であっという間に2000勝を積み上げたことに驚くとともに、その活躍を彼がサポートしてきた証でもあるのだろう。



文/大恵陽子