【私的名馬録】美しく、強く サダエリコ
2024年09月03日
日本競馬界の歴史に名を刻んだ名馬・競馬ファンの記憶に残る名馬の活躍を競馬ライターたちが振り返る私的名馬録。
今回のテーマは─
競馬を始めたころの馬というのは印象が深いものだ。
中央競馬ファンだった私はそのうち地方競馬の魅力にハマり、ばんえいでアンローズとサダエリコという牝馬が活躍していることを知る。
競馬場で初めて2頭の姿を見たのは2005年だったか。
かわいい良血馬アンローズと、美しいサダエリコ。
私はすっかりサダエリコの美しさに取り憑かれていた。
とはいえ、好きになった理由は細い顔と切れ長の目が"サラブレッドみたい"だから。当時の私はまだ"サラの人"だった。
美しい顔にムキムキとした馬体がくっついているのもたまらない。
障害を力強く越え、末脚が切れる。
美しく、強く。こうありたい、とサダエリコの姿を見ながら、若かった私は心の支えにしていた。
『今年はばんえいを勉強しよう』と思ったのが2006年。
その年の旭王冠賞(旭川)が初めて見たサダエリコの重賞制覇だった。
表彰を受ける金山明彦調教師の姿を『この人がミスターばんえい......』と、まじまじと見つめていた。
ばん馬については何も知らない。あとになって"気性が激しい""背がまっすぐ"と教えてもらう。
鈴木恵介騎手が若い時期に厩務作業を担当していたこと、父ダイヤテンリユウの母トツカワが名繁殖牝馬であることなどの知識が増えていく。
ばんえい存続が危ぶまれていた11月、北見記念のパドックを見ながら考えていた。
サダエリコにアンローズ、シンエイキンカイ......。ばんえいが廃止になれば"馬名"がなくなってただの馬になる。
目の前のサダエリコが、"サダエリコ"ではなくなる----。
当時は競馬場の馬券には馬名が入らなかったので、友人に「場外で全頭の馬名入り単勝馬券を買って」と頼んだ。
今、当たり前のように馬名、騎手名入り馬券を買えることに感謝しなくては、とこの時の馬券を見るたびに思う。
サダエリコは追い込んで3着。
勝ったのはアンローズだった。
引退後は3頭の産駒を残したが、2012年に牧場でハチに刺されて生涯を終えた。
アナフィラキシー・ショックだと思われる。
その時横にいた仔馬がセンゴクエースだ。
1頭のみの牝馬が仔を残せず、サダエリコの血はつながらないのかと思っていたところ、ブラックシシとセンゴクエースの2頭が種牡馬入りした。
センゴクエースの活躍ぶりは言うまでもない。
好きな馬の仔どもが、ここまで結果を残してきたことに驚いている。
サラブレッドのファン時代、何度産駒の活躍を夢見てきたことか。
重賞13勝はばんえいの牝馬最多記録。
センゴクエースは14勝で母を一つ上回った。
最後に個人的な話を一つ。帯広単独開催が始まったころファンとして取材を受け「サダエリコのファンです」と言ったところ「女性に人気のサダエリコ」という話が広がった。
ファンは少なくはなかったが、私の周りはみなアンローズのファンだったし、正直違和感があった。
その時のファンの感覚を正しく感じ取り、伝えていきたいと思う理由の一つである。
文/小久保 友香
OddsParkClub vol.66より転載