各地のリーディング 後編(兵庫、高知、佐賀、ばんえい)

2024年08月22日

※成績等は8月19日現在。通算成績は地方競馬全体での数字。それ以外は特に明記のない限り所属場(地区)での数字を示す。
 
■兵庫
 
 近年、兵庫で不動のリーディングとなっているのは吉村智洋騎手。今年も179勝で、2位の下原理騎手(122勝)に50勝以上の差をつけて独走となっている。
 兵庫リーディングでは、2015年に244勝を挙げた川原正一騎手が56歳でトップに立った。その後、16、17年は下原騎手が2年連続でトップ。そして18年に初めてトップに立った吉村騎手が、それ以降ダントツのリーディングを続けている。この間、2位、3位は下原騎手と田中学騎手が争っていたが、田中騎手は23年11月23日を最後に騎乗を休んでいる。
 吉村騎手は、18年は289勝で2位の田中騎手に48勝差、19年は330勝で同じく2位の田中騎手に76勝差、そして20年以降は毎年2位の騎手に100勝以上の差をつけているように、兵庫での吉村騎手の牙城はますますゆるぎないものとなっている。
 吉村騎手は、18、22、23年には全国リーディングにもなって、同時にNARグランプリで最優秀勝利回数騎手賞を受賞している。
 そして近年、急激に成績を伸ばしてきたのが廣瀬航騎手。2001年にデビューし、15年までは年間の勝利数が30に届かなかったものの、16年以降徐々に勝ち星を伸ばすと、21年には初めて100勝を超える103勝を挙げ、兵庫リーディングの5位まで躍進。この年、兵庫若駒賞をガリバーストームで制し、デビュー21年目にして重賞初制覇も果たした。廣瀬騎手はその後も年間100勝超を続け、22、23年は下原、田中騎手に続く4位で、今年は前述のとおり田中騎手の戦線離脱によって3位。デビュー20年を過ぎて完全に上位に定着。今年タイガーインディでは、黒船賞JpnIIIで7番人気ながら3着に好走し、その後、兵庫大賞典、オグリキャップ記念を連勝するなど、重賞での活躍も目立っている。
 吉村騎手は現在39歳。田中騎手50歳、下原騎手46歳、廣瀬騎手40歳で、いずれも吉村騎手より年長だ。若手から吉村騎手の座を脅かすような存在はまだまだ見えてこない。
 ただ今年、小牧太騎手が20年ぶりに兵庫に復帰したことはご存知のとおり。小牧騎手は今年9月7日には57歳となり、川原騎手が最後に兵庫リーディングを獲った年齢よりひとつ上になるが、人気馬への騎乗も多く、吉村騎手のダントツリーディングに影響を与えるほどの存在となるかどうか。同時に、世代交代が期待されるような若手の台頭にも期待したい。
 
■高知
 
 高知では赤岡修次騎手が14年連続年間200勝という、とてつもない記録を2020年に達成した。それ以前の記録は、川崎の佐々木竹見さんによる1964〜76年まで13年連続というもので、じつに44年ぶりの記録更新だった。
 その間、赤岡騎手は高知で不動のリーディング......だったわけではない。2015年以降は南関東での期間限定騎乗など他地区での騎乗で勝ち星を稼いだぶん、地元高知での勝ち星が減ることになり、高知でのリーディングは同年から19年まで永森大智騎手に譲っている。しかしコロナ禍に見舞われた20年は他地区での騎乗が制限されたため赤岡騎手は高知で245勝を挙げ、再び高知リーディングとなった。その年、2位の永森騎手が115勝だから、高知ではいかに赤岡騎手が圧倒的な存在だったかがわかる。
 14年連続200勝という記録を達成した赤岡騎手だが、「記録を意識してからは精神的にもキツかった。数字を気にして乗るのはもういいです、これで最後です」と語り、その後は数字にこだわることはなくなった。
 しかしながら、21年は200勝には達しなかったとはいえ174勝でトップ。22年には宮川実騎手が136勝で初めて高知のトップに立ち、2位赤岡騎手、3位永森騎手。そして23年は赤岡騎手が170勝でトップに返り咲き、2位宮川実騎手、3位永森騎手。今年はここまで宮川騎手が87勝で、赤岡騎手、永森騎手という順位。ここ3年はこの3名がトップ3を占めている。
 一方で近年、若手で急成長してきたのが、19年デビューで現在26歳の多田羅誠也騎手だ。昨年は、高知リーディングでは76勝で5位だったが、他地区での勝利数も合わせると自己最多の93勝。今年はここまで61勝(うち高知59勝)で、このペースであれば単純計算で年間100勝に届く勢いだ。重賞での活躍も目立っており、多田羅騎手がトップ3の牙城に割って入る日もそう遠くはなさそうだ。
 
■佐賀
 
 佐賀では『ミスターほとんどパーフェクト』というキャッチフレーズでも知られる山口勲騎手が2008年以降、不動のリーディングとなっている。23年こそわずかの差で飛田愛斗騎手にトップを譲ったものの、この年は7月から9月上旬にかけて約2カ月、騎乗していなかったため。今年ここまで山口騎手は102勝。2位の飛田騎手(62勝)に40勝もの差をつけて再びトップに立っている。
 近年は、39歳の石川慎将騎手、45歳の倉富隆一郎騎手が年間100勝前後で2位、3位を争っていたが、若手の台頭も目覚ましい。その急先鋒が、2020年10月にデビューした22歳の飛田愛斗騎手だ。
 飛田騎手は、翌21年6月27日に通算100勝を達成。デビューから268日での100勝は、地方競馬における通算100勝の最速記録を更新。またデビューから1年となる21年10月2日までにマークした127勝も、地方競馬の新人騎手によるデビュー1年間の最多記録となった。
 その21年の佐賀リーディングでは、1位山口騎手の196勝に対して、飛田騎手は143勝でいきなり2位。22年は115勝で、山口騎手、石川騎手に次ぐ3位だったが、23年は前述のとおり山口騎手が1年間フルに乗れなかったこともあり、飛田騎手が129勝で佐賀リーディングとなった。
 さらに飛田騎手に続く若手の注目株が、22年4月にデビューした山田義貴騎手だ。そのデビュー年は9カ月で62勝を挙げ、2年目の23年は118勝(うち佐賀では117勝)で、飛田騎手、山口騎手に次ぐリーディング3位となった。
 飛田騎手は21年のNARグランプリで優秀新人騎手賞を受賞し、山田騎手は23年に同賞(この年から最優秀新人騎手賞となった)を受賞。両騎手は佐賀だけにとどまらず全国的に注目となっている。
 なお8月19日現在の佐賀リーディングでは再び山口騎手が102勝でトップ。飛田騎手62勝、石川騎手61勝で、6位の山田騎手58勝まで、2位争いは拮抗している。山口勲騎手は現在54歳だが、今季の数字を見る限り、世代交代はもう少し先かもしれない。地方競馬通算5379勝は、歴代5位、現役3位となっている。
 
■ばんえい
 
 ばんえい競馬は4月から翌年3月までの"年度"で番組が組まれており、またリーディング表彰も年度で行われているので、ここでも年度ごとの数字で比較する。
 ばんえい競馬は2007年度から帯広での単独開催となったが、翌08年度からトップを堅持しているのが鈴木恵介騎手だ。
 2位、3位はほぼ毎年のように入れ替わっていたが、近年鈴木騎手を脅かす存在になったのが阿部武臣騎手。15、16年度に連続で5位に入ると、17年度には鈴木騎手167勝、阿部騎手164勝と、わずか3勝差まで迫って2位に躍進した。この年以降はほぼ2人の一騎打ち。18年度は鈴木騎手195勝、阿部騎手193勝、19年度は鈴木騎手194勝、阿部騎手184勝と、僅差の争いが続いた。
 このあたりの僅差の争いになると、シーズン終盤にはそれぞれの騎手に近い厩舎や馬主などが、なんとかリーディングを獲れるようにと勝てそうな馬をまわしてくるようになるので、トップ争いはますます激しくなる。
 そして20年度、180勝を挙げた阿部騎手が、12年続いた鈴木騎手の牙城を崩して初めてトップに立った。鈴木騎手は年間を通してほぼ休むことなく騎乗していたのが、例年ほど勝ち星が伸びず156勝で2位だった。
 21年度は鈴木騎手がシーズン開始から2カ月ほど休んだため、阿部騎手が155勝で2年連続でトップ。132勝の渡来心路騎手が前年度の7位から一気に2位に躍進。鈴木騎手は129勝で3位だった。
 22年度は203勝というダントツの数字で鈴木騎手がトップに返り咲き、23年度も196勝でトップを守った。その2年間は鈴木騎手の数字が突出したぶん2位争いは混戦。22年度は2位菊池一樹騎手133勝、3位島津新騎手132勝。23年度は2位西将太騎手135勝、3位島津新騎手134勝と、ともに1勝差の2位争いだった。
 8月19日現在、今年度は大混戦。鈴木騎手58勝、西将太騎手58勝、西健一騎手53勝、阿部騎手52勝、渡来騎手51勝と、1〜5位が50勝台で拮抗している。果たしてここから誰が抜け出すのか、注目となりそうだ。
 若手騎手では20年12月にデビューした金田利貴騎手がデビューから395日目で通算100勝を達成し、ばんえい競馬での100勝最短記録を更新(それまでの記録は島津騎手の442日)。さらに22年12月にデビューした今井千尋騎手がその記録を332日に更新した。とはいえ23年度のリーディングでは、金田騎手が112勝で9位、今井騎手が91勝で11位と、上位を脅かすまでには至っていない。
 
文/斎藤修