NARグランプリ2023レポート第一弾!

2024年02月27日

2月22日、都内でNARグランプリ授賞式が行われました。
昨年の地方競馬を彩った人馬が一堂に会した日のレポートを、3回に分けて競馬リポーターの大恵陽子がお届けします。


NARグランプリ年度代表馬に輝いたイグナイター(兵庫)の関係者

北海道から九州まで、全国各地で開催されている地方競馬。その中から昨年、活躍した人馬を表彰するNARグランプリ授賞式では取材する側も全国から集結しました。
プレス受付の列で私の前に並んでいたのは、ばんえい競馬を中心に活動する小久保巌義カメラマン。そして記者会見場に入ると、高知競馬の広報職員さんとは「来月の黒船賞って...」と話が弾むなど、この会場だけで全国のあらゆる情報がゲットできる環境でした。


そうした中、「先週の取材、お互いにお疲れ様でした」「地方馬が3頭も参戦すると、興奮しましたよね」と最も盛り上がった話題が、2月18日にJRA東京競馬場で行われたフェブラリーステークス(以下、フェブラリーS)GI。


ミックファイア(大井)、スピーディキック(浦和)とともに参戦したイグナイター(兵庫)は、2年連続のNARグランプリ年度代表馬です。


結果は11着と残念ではありましたが、前半600m33秒9のハイペースを2番手で追走しながら、直線では残り200mまで先頭に立つという見せ場たっぷりの内容。レース直後にはドバイ遠征が発表され、さらに注目を集めています。
野田善己オーナーは2年連続の年度代表馬受賞に際し
「本当に嬉しい、という思いしかありません。特に昨年はGI/JpnIを勝つ馬が複数頭出るハイレベルな年。2年連続で年度代表馬になれて選定委員の皆様には感謝しかありません」
と喜びました。

喜びを口にするイグナイターの野田善己オーナー

そう、昨年はジャパンダートダービーJpnIを含む南関東三冠を無敗で制したミックファイアがいて、例年であればこちらも年度代表馬に堂々と選ばれる活躍。
しかしながら、JBCスプリントJpnIとさきたま杯JpnIIを制し、前年のJpnIII 2勝(黒船賞、かきつばた記念)を上回る成績を挙げたことが評価されて、イグナイターが年度代表馬に輝いたのでした。


受賞の決め手となったJBCスプリント制覇について、野田オーナーと新子雅司調教師はこう振り返ります。


野田オーナー「変な競馬はしないという自信はありましたけど、当時は1200mは『若干短いのかな?』と思っていました。残り100mくらいで『差されない』と感じてからは感無量で、何十秒にも感じてこれまでのことが走馬灯のように巡ってきました。彼をGI馬にするのを目標に、新子先生には無理と負担をかけながら遠征を繰り返していたので、やっとGIを勝てたと思いました」

新子調教師「状態も良かったですし、勝つ気満々で行っていました。直線で抜け出してからはすごく長くて、私は思いが駆け巡る余裕もなかったです(苦笑)」


念願のGI/JpnI制覇をイグナイターと果たした新子雅司調教師

この言葉に表れている通り、レース直後の様子もお二人それぞれの背景を映したもの。


野田オーナーは笑顔満開で、これまでずっと応援してくれた人たちに囲まれて何度も喜びと感謝を口にしていました。


対して、ポーカーフェイスだった新子調教師は、時間が経つにつれてじわじわと感動が込み上げてきた様子。TVインタビューのラストで「最後はタガノジンガロがあと押ししてくれたと思います」と、2015年JBCスプリントのゴール直後に急逝した管理馬の名を挙げると、溢れ出す涙を止めることができませんでした。


こうしてGI/JpnI馬になったからこそ待っていたのが冒頭のフェブラリーSへの挑戦。


野田オーナー「前半3ハロンのラップを聞いた時点でダメだと思いましたけど、勝ちに行く競馬をしてのもの。ものすごーく悔しいですけど、最内枠でやりたい競馬はしてくれました」


新子調教師「勝ちに行った結果の11着。攻める競馬もできましたし、見せ場もあったので今のところ納得しています」


次走は中東へと渡り、ドバイゴールデンシャヒーン(3月30日、GI、メイダン競馬場ダート1200m)が予定されています。


野田オーナー「検疫馬房が確保されているわけでもないですし、海外も初めてで宇宙旅行に行く感覚なので2月のサウジは断念しました。しかし、フェブラリーSの負け方が悔しすぎたので、あれを帳消しにするにはそれ以上の価値のあるゴールデンシャヒーンを勝てばいいのではないかと思いました。また、フェブラリーSはあのハイペースの中で楽々ついて行っていたので、やはり1200mがいいのかなと思いました。ドバイ遠征にはまだまだ解決しないといけない問題があるので簡単ではないですけど、新子先生に『ドバイに行きたい』と伝えると、『行きましょうか』と言っていただいたので決めました」


新子調教師「元々行きたいとは思っていましたし、今の園田でイグナイターが行かなければ、他の馬では到底行くことがないので、チャレンジしてみたいと思いました。フェブラリーSの借りをドバイで返したいですし、"兵庫のイグナイター"から"世界のイグナイター"にしたいと思います」


そのドバイでコンビを組むのは笹川翼騎手(大井)。園田・姫路競馬の馬に、大井の騎手というのは異例ですが、昨年はJBCスプリントやさきたま杯でコンビを組み勝利した黄金コンビでもあるのです。


笹川騎手「会場のみなさま、そして中継映像を見ていただいている園田・姫路競馬場のみなさま、このたびはこのような賞をいただき本当にありがとうございます。イグナイターが年度代表馬を獲れたのも、オーナーや先生のおかげはもちろんなのですが、普段向き合っている武田厩務員のおかげだと思うので、みなさん拍手してください。ドバイでも頑張ってくるので、みなさん応援してください」


イグナイターの地元である園田・姫路競馬の人々へも感謝を述べた笹川翼騎手(大井)

イグナイターを担当する武田裕次厩務員

年度代表馬のさらなる挑戦はまだまだ続きます。


そして、ばんえい最優秀馬に選ばれたのはメムロボブサップ。


ばんえい最優秀馬メムロボブサップの関係者(写真提供:地方競馬全国協会)

昨年はばんえい競馬の最高峰・ばんえい記念を含む重賞4勝を挙げる活躍を見せました。
そのばんえい記念で曳いた重量は1t。3分34秒4をかけて障害2つを越えて200mの道のりをゴールする様は、ばんえいのルーツである北海道開拓時代を思い起こさせます。


一方で、メムロボブサップは水分が含まれスピードの生きやすい馬場でも勝利。
パワーもスピードも兼ね備えていると言えます。
また、父ナリタボブサップも2008年に同賞を受賞しており、親子での受賞でもありました。

地方競馬全国協会の吉田誠副理事長からのトロフィーの贈呈では
「今年もばんえい記念で期待しております」
との言葉をかけられたメムロボブサップ陣営。

トロフィーを手にするメムロボブサップの竹澤一彦オーナー(写真提供:地方競馬全国協会)

メムロボブサップ陣営の記者会見は残念ながら時間の関係等で行われませんでしたが、3月17日のばんえい記念が楽しみです。


ちなみに、今回のNARグランプリでは22年12月にデビューした今井千尋騎手が優秀女性騎手賞を受賞。
ばんえいから複数の人馬が受賞とあって、メムロボブサップ陣営と今井千尋騎手など"ばんえいチーム"での記念撮影も行われました。


メムロボブサップ陣営と振り袖姿の今井千尋騎手

今井騎手の会見の様子については改めて別レポートにまとめます。


文/大恵 陽子

 

岩手競馬の調教がいよいよ始まりました!

2024年02月15日

2月12日(月祝)、盛岡・水沢競馬場の馬場が開放。3月10日(日)から再開する水沢競馬へ向け、コースを使った調教がスタートした。


冬休み間、岩手競馬の競走馬はどうしているか。基本は競馬期間中に溜まった歴戦の疲れを取るため、きゅう舎内で完全休養。開いた窓から外をボーッと眺めていたり、時に横になったり、飼い葉を食んだりしている。また牧場へ移動する馬がいるし、在きゅう馬でもサンシャインパドック、丸馬場などで放牧するきゅう舎もある。


きゅう舎スタッフも同様。競馬シーズンが終わるとローテーションを決め、各スタッフは1週間から10日ほどの休暇が取ることができる。かつては県内出身者が多かったが、今は県外から岩手競馬へ来たスタッフも多い。

さらに現在はウズベキスタン、インド、フィリピンなど海外からの"出稼ぎ"も年々増加。国内外を問わず、冬休みを利して故郷へ里帰りする(戻らないスタッフもいます)。これが通年開催ではない岩手競馬の強みとも言える。


永田幸弘きゅう舎(盛岡)の東江(あがりえ)くんの実家は東京。"冬休みは何をしてたの?"と聞いたら、東江くん「中山競馬場へ行きました。メインはアメリカジョッキーズクラブカップでしたが、京都の東海ステークスを勝ったウィリアムバローズ、強かったですね!」。つくづく競馬が好きだと思った。こんな会話ができるのも楽しみの一つだ。

調教後、愛馬にバンテージを巻く永田幸宏トレーナー


調教が再開する特にこの時期、きゅう舎スタッフはケガなどに注意を払わなければならない。元気が有り余っているからだ。競走馬の頭脳は人間に例えると2、3歳時ぐらいだが、体的には8倍以上。

外に出ることによる解放感、また広いコースに入ってテンションが上がったり、はしゃいだりするのだが、担当者が持て余すほどのパワー。いきなり走ったり、制御できないほど暴れることも少なくない(あくまでも競走馬に悪意がある訳ではありません)。


余談だが、かつての岩手競馬は11月中旬には開催が終わった上、当時は特別開催もなく4月から新シーズンがスタート。4ヵ月以上の冬休みがあった。自分が競馬の世界に入った当時がそうだった。


その長期間、きゅう舎仕事がなかったかと言えば、そうではない。競馬シーズンが終わると競走馬が総入れ替えされる。冬期間も走らせたい場合は紀三井寺競馬、中津競馬などへ移動。より高いステージを求める場合は南関東だったが、空いた馬房にはデビュー前の1歳馬(当時表記では2歳馬)が入った。


今は北海道などに多くのトレーニングセンターがあるため、馴致されてきゅう舎へ入るが、当時は完全な野生馬。鞍をつける前段階として毛布を背中につけて慣れさせることから始まり、競走馬になるための数々のコミュニケーションを"0(ゼロ)"から教えていった。現在のホッカイドウ競馬と似ていると思う。


コースに雪が積もる冬も格好だった。仮に馬から落とされても雪がクッション代わりにもなった。もちろん初期段階でも走るか、走らないかはある程度分かり、その上位ランク馬は馴致を進めると岩手デビューではなく、南関東へ入る馬も多かった。そう、かつての岩手競馬の盛岡・水沢競馬場はトレーニングセンターでもあった。


今年の特別開催は3月10日にスタートするが、今回、馬場開放した2月12日(月祝)はおよそ1ヵ月前。競走馬は言うまでもなくアスリート。調教再開後、徐々に負荷をかけてレース仕様に仕上げていくが、疲れのピークは調教再開から約2、3週間後ぐらい。レース再開時に仕上がりの差が出る要因の大きな一つとなる。まだ1ヵ月先の話だが、岩手競馬の検討材料に入れてくだされば幸いだ。


文/松尾康司

 

2023年度リーディングトレーナー・菅原勲調教師に聞く

2024年02月05日

 現在、岩手競馬は冬休み中ですが、2月9日(金)に『調教始め式』が行われ、安全祈願祭と馬場清めを盛岡・水沢両競馬場で実施。12日(月)から馬場を開放。3月10日から再開する春競馬に向け、もうすぐに両コースで調教が始まります。

 1月16日(火)、2023年度の年度代表馬、各最優秀馬は選考委員会で決定。2月16日(金)に『2023 IWATE KEIBA AWARDS』がホテルメトロポリタン盛岡NEW WINGで開催されますが、年度代表馬等の報告は授賞式、交流会の様子と併せてお伝えする予定。今回は2023年度リーディングトレーナー、次回はリーディングジョッキー・インタビューを掲載します。


 今年度のリーディングトレーナーは大接戦。昨年12月12日(火)終了時点では菅原勲調教師、板垣吉則調教師は同数で並び88勝。12月26日(火)で菅原勲調教師92勝、板垣吉則調教師90勝。12月30日(土)、12月31日(日)と残す2日間までもつれ込みましが、最終的に菅原勲調教師95勝、板垣吉則調教師92勝。菅原勲調教師が初めてリーディングトレーナーの座につきました。

―リーディングトレーナー、おめでとうございます。リーディングジョッキーは10度以上ありますが、調教師では初のリーディングでした

菅原勲調教師(以下・略)「リーディングは無理に取れるものではないので、焦ったことはありませんでした。たまたまポコポコ勝てただけです(笑)。でも、いつかは取れると思っていました」


―驚いたのは寒菊賞(2歳重賞)を完勝したレッドオパールが、金杯をスキップしたこと。リーディング確定させるため、最も計算できる馬と思っていました

「寒菊賞後にコメントしたとおりです。転入戦を勝ったとき、年内は寒菊賞、金杯のどちらかを使うかの一択のみ。両方を使う気はありませんでした。目先の1勝で馬に負担はかけられない。無理をすれば後々まで尾を引きますからね。ただ、リーディング争いがずっと接戦続きだったので、周囲は面白かったと思いますよ(笑)」


―東日本大震災の翌年、2012年4月が調教師スタートですから、開業12年目の首位でした

「もちろん1位と2位では全然違います。トップはなかなか取れるものではないので、素直にうれしいです」


―ダイセンメイトが短距離にシフト後、大活躍して11勝。最下級からオープンでも勝ち負けするまで出世しました

「金沢で2勝しましたが、転入2戦とも大敗。馬主さんから預かった大事な馬ですが、さすがに厳しいかなと思いました。それでも試しに短距離を使ってみたら、大化けをしてくれた。正直、自分もびっくりしました。どこに才能があるか分からないものですね」


―来シーズンもリーディングを目指したいところですよね

「それも目標ですが、全国で通用する2歳馬を育てたい。コロナの影響もありましたが、ここ数年、遠征がなかった。今年は久々に遠征でも勝負してみたいと思っています。やっぱり外に出ていかなければーと考えています」

―ラブバレットを思い出します。残念ながらダートグレードを手にすることはできませんでしたが、毎回のように好勝負を演じました

「出会ったのは開業1年目の冬。いい経験をさせてもらいました。やはり自分の目で見つけ、育てていくことが目指すところです」


―毎年、あらゆるセリに行っていますよね

「そこに原石がいる訳ですから。元々、若駒を見るのが好きなんです。ミヤギヴァリアントも"買ってください"とチラ見したので、馬主さんに購入をお願いしました(笑)」

―ミヤギヴァリアントは現在休養中ですが、復帰予定は?

「軽い剥離骨折をしたので宮城県の牧場にいます。5月ごろをメドにきゅう舎へ戻る予定です」


―今年、『全日本的なダート体系整備』が本格的にスタートします

「大変な時代になりましたが、それが競馬。望みを持って取り組んでいきたい。騎手でもGI、調教師でもGIを目指したい」


―話は変わりますが、高知の打越(勇児)調教師と非常に仲がいいですよね

「同期の調教師です。今年度は奪われましたが、全国1位はすごい。励みになりますし、自分も頑張れる。この冬も高知へ行きました」


文/松尾康司

 

【コラム】NARグランプリ受賞者で見えてくるもの

2024年01月16日

 NARグランプリ2023の受賞馬・受賞者が発表された。
 年度代表馬は2年連続で兵庫のイグナイター。無敗のまま南関東三冠を制した大井のミックファイアと、どちらだろうと言われていたが、ミックファイアは最後の東京大賞典GIで着外に敗れたことがマイナスポイントになったと思われる。
 どちらもJpnIを勝っているのだから年度代表馬にふさわしい実績だが、イグナイターは2年越しのJBCスプリントJpnI挑戦での制覇は掛け値なしで素晴らしい。ほかにJpnIIのさきたま杯のタイトルもあり、仮にミックファイアが東京大賞典GIで好走していても、勝つでもない限りダートグレードでの実績はイグナイターのほうが上だったということもできる。
 
 受賞者では、最優秀賞金収得が調教師、騎手とも南関東なのは当然だが、最優秀勝利回数は高知・田中守調教師、兵庫・吉村智洋騎手、最優秀勝率は、兵庫・柏原誠路調教師、高知・赤岡修次騎手と、兵庫、高知の調教師と騎手がそれぞれ分け合った。
 
 なかでも大接戦だったのが調教師の勝率。柏原誠路、田中守、愛知・川西毅の3名が30%を上回るラインで競り合い、3名とも大晦日まで出走があったため、まさに最後の最後までそのタイトルの行方が注目となった。
 結果、NARのデータベースでは柏原31.0%、田中31.0%、川西30.2%(NARグランプリでは中央や海外での成績も加味されるが、3名とも2023年は地方競馬のみの出走)。小数2位以下での勝負となって、柏原:290戦90勝で31.034%、田中:665戦206勝で30.977%という僅差。1勝するかしないかではなく、負けた馬を1、2頭、出走させたかさせないかというレベルの差だった。
 田中調教師にとっては、勝利回数とのダブル受賞を惜しくも逃したという結果だった。
 
 しかしながら田中調教師で注目すべきは、勝利回数でも勝率でもなく、賞金。
 最優秀賞金収得調教師賞は、ダントツの数字(6億6737万円、千円以下略、以下同)で浦和・小久保智調教師が5年連続9回目の受賞となったが、なんと、4億4444万円で2位が高知・田中調教師。4億231万円で3位が兵庫・新子雅司調教師、3億9050万円で4位が大井・渡邉和雄調教師と続いている。
 冒頭でも触れたとおり、新子調教師はJBCスプリントJpnIをイグナイターで制したのを含め重賞12勝、渡邉調教師はミックファイアでの南関東三冠を含め重賞7勝。一方で田中調教師は地元高知のほか、佐賀、園田も含め重賞13勝を挙げているがグレード勝ちはない。それでいて収得賞金がJpnI勝ちのある調教師を上回るというのは、いかに今の高知競馬の賞金が高いかということを示している。
 ちなみに田中調教師の代表馬には高知三冠に加えて高知県知事賞まで制したユメノホノオがいるが、昨年同馬は8000万円を稼いだ。JBCスプリントJpnIの1着賞金と同じ額だ。
 
 高知競馬が売上不振で廃止寸前のどん底から、近年大きく売上を伸ばしV字回復を遂げたことは、おそらくご存知のとおり。もっとも落ち込んだ2008年度の高知の年間売上は38億8千万円余りだったのが、2022年度は946億円余り。約24倍もの売上を記録するようになった。
 田中調教師の最優秀勝利回数調教師賞受賞は2010年以来2度目のこと。前回の受賞は高知の売上がどん底に近い時期で、田中調教師の収得賞金は3600万円余り。賞金のリーディングでは全国で100位にも入っていなかった。そして13年ぶりに勝利数の全国リーディングを獲得した昨年、収得賞金は12倍以上になった。
 年間での売上だけでなく、そうした個人の収得賞金を見ても、ここ十数年でいかに高知競馬の売上と賞金が上昇したのかがわかる。

文/斎藤修


 

【コラム】2023年に達成された記録

2023年12月29日

 2023年もいよいよ残りわずかとなったところで、今年達成された印象的な記録を振り返ってみたい。
 
 まずはなんといっても、兵庫のイグナイターがJBCスプリントを制したことだろう。JBCは2001年にクラシック、スプリントの2レースで始まり、今年で23年目。2歳戦のJBC2歳優駿を除けば、昨年まで地方馬はクラシックで1勝、スプリントで3勝、レディスクラシックで1勝を挙げていたが、いずれも南関東所属馬。南関東以外の馬がJBCを制したのは初めて(2歳戦を除く)のこと。また兵庫所属馬によるGI/JpnI制覇も初の快挙となった。
 イグナイターは昨年からJBCスプリントを最大目標と掲げ、盛岡開催だった昨年は見せ場をつくるも5着。そして今年は、昨年同様盛岡のマイルチャンピオンシップ南部杯JpnI(2着)をステップに臨み、直線の追い比べから抜け出した。
 JBC開催は昨年盛岡、そして今年大井と、イグナイターにとっては必ずしもベストとはいえない2年連続でワンターンの1200メートル、しかもアウェーの舞台で勝ちきったことは素晴らしい。
 
 もうひとつ兵庫で達成された記録に、川原正一騎手による、地方競馬最年長重賞勝利記録がある。
 これまでの記録は、2018年9月19日に大井の的場文男騎手が東京記念をシュテルングランツで制した際の62歳12日だったが、川原騎手は8月10日の兵庫ジュベナイルカップをマミエミモモタローで制し、64歳4カ月27日と、記録を一気に2年以上も更新。さらに同馬では8月31日の兵庫若駒賞、10月12日のネクストスター園田も制し、その記録を64歳6カ月28日まで伸ばしている。
 1976年に笠松でデビューし、2005年6月に兵庫に移籍した川原騎手には他にもさまざまな記録がある。
 12月25日現在、地方競馬通算5794勝は、的場騎手に次ぐ現役2位で、歴代では4位。そして川原騎手ですごいのは、笠松、兵庫それぞれの所属で各2000勝以上を達成していること。
 また笠松所属時の1997年には地方代表としてワールドスパージョッキーズシリーズに出場して優勝。さらに兵庫所属時の2013年にも同シリーズに2度目の出場を果たした(7位)。
 その2013年には地方競馬で年間267勝を挙げ、54歳で全国リーディングとなっている。
 
 通算勝利数の記録では、愛知の角田輝也調教師が4月13日に地方競馬史上初の通算4000勝を達成。12月25日現在4126勝で、まだ60歳という年齢だけに、その記録はまだまだ伸ばしていきそうだ。
 
 ばんえい競馬では、今井千尋騎手が11月6日に通算100勝を達成。2022年12月10日のデビューから332日目での100勝は、金田利貴騎手が22年1月10日に達成した395日を短縮する、ばんえい競馬での通算100勝最速記録となった(07年度の帯広単独開催以降)。
 なお今井騎手は今年、12月25日現在で102勝。国内の女性騎手による年間最多勝記録は20年に宮下瞳騎手(愛知)が達成した105勝。ばんえい競馬は、28〜30日の3日間開催を残しており、今井騎手はその記録を更新するかどうか注目となる。
 
 今年は各地で三冠馬が誕生するなど、傑出した3歳馬の活躍が目立った。
 大井ではミックファイアが中央馬相手のジャパンダートダービーJpnIを制し、2001年のトーシンブリザード以来無敗のまま南関東三冠を制覇。そしてダート競馬の体系変更によって今年が最後となったダービーグランプリ(盛岡)の最後の勝ち馬としても名を刻んだ。
 ほかには、北海道でベルピット、高知でユメノホノオが三冠を達成した。
 岩手では牝馬のミニアチュールが三冠目の不来方賞を取りこぼしたものの、牝馬によるひまわり賞、OROオータムティアラを併せると変則四冠制覇。
 名古屋では牝馬のセブンカラーズがデビューから無敗のまま東海ダービーを制した。ただその後は脚部不安で長期休養となっている。
 また金沢では石川ダービーを制した牝馬のショウガタップリが、今年佐賀で行われた西日本ダービーを6馬身差で圧勝した。
 
 そして12月27日、金沢で行われた今年限りの重賞・移転50周年記念金沢ファンセレクトカップをハクサンアマゾネスが単勝1.1倍の断然人気にこたえて勝利。重賞通算21勝とし、カツゲキキトキト(愛知)が保持していた国内の平地重賞最多勝記録を更新した。

文/斎藤修


 

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