NARグランプリ2023レポート第二弾!~騎手編~
2024年03月05日
2月22日に都内で行われたNARグランプリ授賞式のレポート第2弾は、騎手部門の各賞を受賞したみなさんの声を、競馬リポーターの大恵陽子がお伝えします。
各賞を受賞したジョッキーたち
まずは2年連続で地方競馬全国リーディングに輝いた吉村智洋騎手(兵庫)。全国リーディングにあたる最優秀勝利回数騎手賞の受賞は2年連続3回目です。
「2年連続で獲らないと意味がないんじゃないかなと思っていたので、2023年の年初めから獲りに行っていました。だから、昨年は精神的にも結構キツくて、正直、馬に乗っていて楽しいことなんか一つもなかったです」
普段の取材を通しても、吉村騎手は自分自身に厳しい印象があります。それだけに、高い目標を掲げて、自身にプレッシャーをかけ続けた一年だったのでしょう。
その中で、JRA東京競馬場で行われたジャパンカップ(GI、芝2400m)にクリノメガミエースと挑戦する貴重な機会もありました。
JRAのGI騎乗はこれが初めて。世界ナンバーワンホース・イクイノックスの出走で大注目を浴びる中、18着でのゴールではありましたが、こう振り返ります。
「世間では賛否両論がありましたけど、挑戦しないことには成功はありません。周りの人や後輩騎手たちに挑戦する大事さを見せられたんじゃないかなと思います。あの場に行けたことは僕にとってもすごくプラスで、いい経験をさせてもらえて感謝しています」
2年連続で全国リーディングを」と自身にプレッシャーをかけて23年を駆け抜けた吉村智洋騎手(兵庫)
そして、プライベートでは長男・誠之助くんがJRAで3月2日に騎手デビュー。
「息子のデビューは嬉しいです。でも、僕も一人の親。怪我が付き物なので、嬉しい反面、不安も大きくて、怪我なく頑張ってくれればいいなと思います。親子で一緒のレースに乗ることも近々あると思いますけど、負けないように頑張りたいです」
お父ちゃんの意地で、誠之助騎手は「2年連続地方競馬全国リーディングの息子」として注目を集める中、デビューを果たしました。親子共々、注目したいですね。
その吉村騎手と並んでの記者会見だったのは赤岡修次騎手(高知)。7年半先輩にあたるのですが、彼について笑ってこう話しました。
「引退した橋本忠男先生の下で吉村君がやっている時、木村健くん(引退、現調教師)のようなすごく追う子やなと思っていました。がむしゃらだけでやっていたのが、まさか2年連続最多勝になるなんて、不思議な感じです。園田は騎手も多くて厳しい環境だったと思うんですけど、すごく頑張ったんでしょうね。本人が思っている以上にレースでは印がつきすぎることも多いと思います。確実に勝たせるのはかなり神経をすり減らすので、『乗っていて楽しくない』っていうのは、すごく分かります」
1番人気の期待を背負うゆえ、「神経をすり減らすから乗っていて楽しくない」と、トップジョッキーならではの心中を共感し合う吉村智洋騎手(左)と赤岡修次騎手
そう、赤岡騎手も昨年は全騎乗の半数近くが1番人気に推され、「想像を絶するプレッシャーがあった」と言います。そうした中で、勝率38.5%を挙げて最優秀勝率騎手賞(3年ぶり6回目)に輝きました。
同賞が設立されて以降、2番目に高い数値で、トップは10年に自身がマークした38.9%。
「あの時は南関東や全国で乗っていて、『たくさん乗って、全部勝ってやろう』という気持ちでやっていました。今はほとんど自厩舎の馬への騎乗で、レース数もあんまり乗っていません。勝率は狙っていたわけでも何でもないんですけど、所属の田中守先生がいい馬にたくさん乗せてくれて、たくさん勝てたのでありがたいです。
田中守先生とは10年にも一緒に授賞式に来ていて、『久しぶりやね』と話しながら今日も来ました。
色んな記者に毎年、目標を尋ねられるんですけど、答えは一緒で『いま目標はないです』と。目の前の一つ一つを大事に乗って、無事に勝たせられればいいかなと思っています」
所属厩舎の田中守調教師とともにNARグランプリを受賞した赤岡修次騎手(高知)
最優秀賞金収得騎手賞は笹川翼騎手(大井)が初の受賞。
笹川騎手は初の南関東リーディングにも輝き、今年2月には中東・カタールへの遠征も敢行。デビュー時から期待の高かった29歳は進化し続けています。
「南関東リーディングはお正月に森泰斗騎手が怪我で休まれた時から意識しはじめました。賞金はあとからついてくるものだと思っていて、イグナイターでJBCスプリントJpnIとさきたま杯JpnIIと、大きいところを2つ勝てたことが一番の要因だと思います。
騎乗技術にまだまだ満足できていなくて、勉強のためカタールに行きました。トップジョッキーが集まる開催で乗って、レースの質がすごく高くて、『やっぱり自分はまだまだだな』と感じたことが一番の収穫です。馬や競馬に乗るのが上手くなりたい気持ちが一番です。カタールでゼロから厩舎関係者に声をかけるところからスタートしたように、チャレンジする心は忘れたくないです」
イグナイター(兵庫)でのJBCスプリントJpnI制覇などがあと押しし、最優秀賞金収得騎手賞を受賞した笹川翼騎手(大井)
そして、最優秀新人騎手賞と優秀女性騎手賞はともにフレッシュな顔ぶれとなりました。
まずは最優秀新人騎手賞を受賞した山田義貴騎手(佐賀)。祖父と父は佐賀競馬の現役調教師という競馬一家の出身で、22年4月にデビューすると、23年3月の九州クラウンを父・徹調教師が管理するリュウノシンゲンで勝って重賞初制覇のほか、昨年は118勝を挙げました。
「最初の頃は新人賞はそんなに意識していなかったんですけど、後半は周りから『獲れるかも』と言われていたので、受賞できて嬉しいです。周りの若手より騎乗数やいい馬に乗せてもらうチャンスも多かったので、もうちょっと勝てたかなと思います。デビューした時よりは周りが少しは見えるようにはなってきましたけど、焦ってしまうことが多いので、できるだけ冷静に乗ることを心がけています。前年の勝利数を超えられるよう、毎年、頑張りたいです」
最優秀新人騎手賞を受賞した山田義貴騎手(佐賀)は昨年、リュウノシンゲンとのコンビで重賞制覇も果たしました
優秀女性騎手賞は22年12月にデビューした今井千尋騎手(ばんえい)。
通年で騎乗する最初の年となった23年は103勝を挙げ、ばんえいが帯広市単独開催となって以降では最速で地方通算100勝を挙げました。
父・茂雅調教師の下で厩務員をしながら騎手を目指す姿をテレビなどで見かけたことがある人もいるのではないでしょうか。
念願叶って騎手デビューし、どんどん成績を残しています。
「昔から知っている馬主さん、調教師さん、厩務員さんなどいろんな人が素質馬にたくさん乗せていただき、昨年の成績を残すことができました。受賞はすごく嬉しいです。
少しハイペースになっただけで焦っちゃって、酷いレースばかりしてしまうんですけど、冷静に周りを見られるようになりたいです。具体的な数字の目標はないですけど、乗せていただけた馬で全て勝てるように頑張っていきたいです」
優秀女性騎手賞を受賞した今井千尋騎手(ばんえい)は、最速で地方通算100勝を達成。(帯広市単独開催以降)
20代たちはフレッシュさと向上心に溢れ、30~40代の二人は「トップジョッキーしか見ることができない」と言われる景色やプレッシャーを背負いながら、地元の競馬を盛り上げています。
文/大恵 陽子
カウントダウン、再開岩手競馬。2023岩手競馬アワード報告
2024年03月01日
2月28日、盛岡競馬場で行われた能力検査
岩手競馬がいよいよ始まる。3月10日(日)が再開初日だが、各きゅう舎も春競馬に向けて着々と準備が進められている。まずは馬体検査からスタートし、2月28日(水)には盛岡・水沢競馬場で能力検査が行われた。
水沢は2R、盛岡は3R。在きゅう馬は水沢が盛岡より1・5倍強ほど在きゅう馬が多く、能力検査のレース数は意外だったが、単なる巡り会わせ。2023年度の年度代表馬、各最優秀馬もすべて水沢所属馬。ある意味で今の力関係を示す結果ともいえる。
その各優秀馬、騎手、厩舎関係者等の栄誉を讃える『2023 IWATE KEIBA AWARDS』授賞式が2月16日(金)、盛岡市内ホテルで開催された。今年度は4年ぶりに一般ファンも参加。2019年以降、コロナの影響で授賞式は関係者のみで行われていたが、復活した交流会では各テーブルで会話の花が咲いていた。
映像提供:岩手県競馬組合
年度代表馬および4歳以上最優秀馬に選ばれたノーブルサターン(牡10歳 父カジノドライヴ)の関係者が、授賞式壇上であいさつした。
オーナーの吉木伸彦さん。「栄えある賞をいただいて大変光栄に思います。ノーブルサターンは勝つときは豪快ですが、負けるときはあっさり。気難しいタイプですが、岩手にきて見違えるように変わりました。ひとえに板垣調教師、きゅう舎スタッフ、高松騎手のおかげです。来シーズンも(年度代表馬の)賞に恥じないよう、岩手競馬を盛り上げたいと思っています」
板垣吉則調教師。「2010年にきゅう舎を開業しましたが、年度代表馬に選ばれたのは初めて。9歳馬でしたが、担当の浅間きゅう務員を始め、スタッフがしっかり体調を管理してくれた結果。本当に感謝しています」
高松亮騎手「ノーブルサターンには感謝しかない。この馬は非常に賢いので、返し馬でボクを落ち着かせてくれます。改めて関係者の皆さんに、おめとうございますと言いたいです。来シーズンもいい競馬を期待しています」
3歳最優秀馬および最優秀牝馬はミニアチュール(牝4歳 父ラブリーデイ)。オーナー・平賀敏男さん「2部門に選ばれて、みなさんに感謝です。印象に残っているレースは東北優駿(岩手ダービー)。これほど頑張ってくれると思わなかったので、すごくうれしいです」
佐藤祐司調教師「目標とするレースは決めていませんが、これから強い古馬が相手にチャレンジしていきたいと思っています」
2歳最優秀馬はフジユージーン(牡3歳 父ゴールデンバローズ)。瀬戸幸一調教師「2年連続で2歳最優秀馬に選ばれるのは滅多にないこと(昨年度はフジラプンツェル)。今シーズンは状態第一に考えてレースを選びたいと思っています」。すでに強さは全国に知れ渡っており、どのレースから始動するか注目が集まる。
最優秀短距離馬はキラットダイヤ(今年7歳・現役引退 父サウスヴィグラス)。板垣吉則調教師「3年連続ですばらしい賞を取れて光栄に思います。3年間、うちのきゅう舎にいましたが、アクシデントがほとんどない。本当に丈夫な馬だなと思いました。今後はいいお母さんになってほしいと思います」
最優秀ターフホースはゴールドギア(牡9歳 父ロードカナロア)。伊藤和忍調教師「1勝のみ(準重賞・かきつばた賞)のみでしたが、年間を通して活躍。交流でも上位を確保(せきれい賞2着、OROカップ3着)して頑張ってくれました。今年こそは紫(重賞)を取らしてやりたいと思っています」
以上の最優秀馬はキラットダイヤを除いて、現役を続行。来シーズンも各路線での主役を演じる可能性が高く、動向に注意を払ってほしい。ちなみに年度代表馬ノーブルサターンは仕上がり次第だが、赤松杯が有望。ただ、大型馬ゆえなのか叩き良化型なので、頭の片隅に記憶しておいてほしい。
文/松尾康司
2024年は変化の年
2024年02月28日
地方競馬は4月からの新年度を前に順次、日程や重賞の予定が発表されているが、今年から本格始動するダート競馬の体系整備よって、各地の重賞にもかなり変化が生じている。
体系整備の柱となっているのはダート三冠だが、これにともなって各地の3歳戦にも変更が多い。
地方競馬の各地の"ダービー"は、昨年までほぼ1カ月間に実施し、そこからJpnIのジャパンダートダービーを目指す"ダービーシリーズ"として盛り上がってきたが、今年はシリーズとしての体系づけがなくなった。またダービーグランプリの消滅によって"3歳秋のチャンピオンシップ"も役目を終えている。
昨年から噂になっていたことだが、大井の東京ダービーを中央も含めた全日本的なダートのダービーとすることから、地方競馬の"ダービー"はそれが唯一であるとして、東京ダービー以外で"ダービー"というレース名は使えなくなった(ばんえいは除く)。これにより、石川ダービー→石川優駿、東海ダービー→東海優駿、兵庫ダービー→兵庫優駿、九州ダービー栄城賞→栄城賞と名称変更された。また西日本ダービーも西日本3歳優駿(今年は金沢で実施)となった。
年間を通してかなり変化があったのは、兵庫(園田・姫路)だ。
ダートグレード競走では、これまで大井競馬場で行われていたTCK女王盃JpnIIIが園田に移設され兵庫女王盃JpnIII(4月4日、園田1870m)として実施されること、兵庫チャンピオンシップJpnII(4月29日)が3歳短距離路線の一環として1870m→1400mに距離短縮となることは、以前より発表されていた。
兵庫チャンピオンシップJpnIIが距離短縮となった代わりに西日本クラシック(5月1日、園田1870m)を新設。これによって、菊水賞(4月3日、園田1700m)、西日本クラシック、兵庫優駿(7月4日、園田1870m)が新たに兵庫3歳の三冠となるようだ。なお西日本クラシックは西日本地区の交流で、東京ダービーの指定競走となっている。
古馬重賞では、兵庫大賞典(5月2日)が1870m→1400m、六甲盃(6月6日)が2400m→1870mにそれぞれ距離短縮となった。六甲盃はアラブの時代から2300mで行われた長距離戦で、兵庫にサラブレッドが導入された直後の2000年から一時期1870mで行われていた時期もあったが(2004年まで、05・06年は姫路2000m)、2007年からは園田2400mで行われ、近年はダート長距離を得意とする他地区からの遠征馬の活躍も目立った。この六甲盃の距離短縮によって、兵庫の最長距離重賞は姫路2000mの白鷺賞となる。
距離短縮ということでは、笠松のオグリキャップ記念(5月23日)が1400mとなった。一時期(2005〜07年)1900mで行われたこともあったが、1992年の第1回から2500mの長距離重賞として親しまれていただけに、この一気の距離短縮には驚かされた。引き続き地方全国交流として行われる。
一方で、大晦日の東海ゴールドカップが1900m→2500mに距離延長となった。1970年代から2500mで争われていたものが2005年から1900mとなっていたが、こちらは伝統の距離復活という印象だ。
全国的に距離短縮という重賞が目につくなかで、シリーズ競走では「ワンターン1000m以下の超短距離戦で新たな能力を発掘する」として2011年から実施されてきた"スーパースプリントシリーズ"も、シリーズ競走としての連携はなくなるようだ。
しかしながら対象となっていたレースは多くがそのまま実施されるが、佐賀がばいダッシュは佐賀がばいスプリントに名称変更、日本海スプリント(6月15日)は900m→1400mに距離延長となった。
なお金沢では、3歳馬による兼六園スプリント(7月7日、1500m、東海北陸交流)が新設された。
グランダム・ジャパンでは、古馬シーズンが春・秋に分かれての実施となった。
古馬春シーズンでは、高知に新設されたレジーナディンベルノ賞(2月25日、1900m)、笠松に新設されたブルーリボンマイル(3月5日、1600m)が対象レースとなり、昨年まで3歳シーズンだった名古屋の若草賞土古記念(3月14日、1500m)が4歳以上牝馬という条件になり、古馬春シーズンの対象レースとなった。
そして昨年まで古馬シーズンの最終戦はレディスプレリュードJpnII(大井)だったが、新たな古馬秋シーズンの最終戦はJBCレディスクラシックJpnI(今年は佐賀1860m)となる。
文/斎藤修
NARグランプリ2023レポート第一弾!
2024年02月27日
2月22日、都内でNARグランプリ授賞式が行われました。
昨年の地方競馬を彩った人馬が一堂に会した日のレポートを、3回に分けて競馬リポーターの大恵陽子がお届けします。
NARグランプリ年度代表馬に輝いたイグナイター(兵庫)の関係者
北海道から九州まで、全国各地で開催されている地方競馬。その中から昨年、活躍した人馬を表彰するNARグランプリ授賞式では取材する側も全国から集結しました。
プレス受付の列で私の前に並んでいたのは、ばんえい競馬を中心に活動する小久保巌義カメラマン。そして記者会見場に入ると、高知競馬の広報職員さんとは「来月の黒船賞って...」と話が弾むなど、この会場だけで全国のあらゆる情報がゲットできる環境でした。
そうした中、「先週の取材、お互いにお疲れ様でした」「地方馬が3頭も参戦すると、興奮しましたよね」と最も盛り上がった話題が、2月18日にJRA東京競馬場で行われたフェブラリーステークス(以下、フェブラリーS)GI。
ミックファイア(大井)、スピーディキック(浦和)とともに参戦したイグナイター(兵庫)は、2年連続のNARグランプリ年度代表馬です。
結果は11着と残念ではありましたが、前半600m33秒9のハイペースを2番手で追走しながら、直線では残り200mまで先頭に立つという見せ場たっぷりの内容。レース直後にはドバイ遠征が発表され、さらに注目を集めています。
野田善己オーナーは2年連続の年度代表馬受賞に際し
「本当に嬉しい、という思いしかありません。特に昨年はGI/JpnIを勝つ馬が複数頭出るハイレベルな年。2年連続で年度代表馬になれて選定委員の皆様には感謝しかありません」
と喜びました。
喜びを口にするイグナイターの野田善己オーナー
そう、昨年はジャパンダートダービーJpnIを含む南関東三冠を無敗で制したミックファイアがいて、例年であればこちらも年度代表馬に堂々と選ばれる活躍。
しかしながら、JBCスプリントJpnIとさきたま杯JpnIIを制し、前年のJpnIII 2勝(黒船賞、かきつばた記念)を上回る成績を挙げたことが評価されて、イグナイターが年度代表馬に輝いたのでした。
受賞の決め手となったJBCスプリント制覇について、野田オーナーと新子雅司調教師はこう振り返ります。
野田オーナー「変な競馬はしないという自信はありましたけど、当時は1200mは『若干短いのかな?』と思っていました。残り100mくらいで『差されない』と感じてからは感無量で、何十秒にも感じてこれまでのことが走馬灯のように巡ってきました。彼をGI馬にするのを目標に、新子先生には無理と負担をかけながら遠征を繰り返していたので、やっとGIを勝てたと思いました」
新子調教師「状態も良かったですし、勝つ気満々で行っていました。直線で抜け出してからはすごく長くて、私は思いが駆け巡る余裕もなかったです(苦笑)」
念願のGI/JpnI制覇をイグナイターと果たした新子雅司調教師
この言葉に表れている通り、レース直後の様子もお二人それぞれの背景を映したもの。
野田オーナーは笑顔満開で、これまでずっと応援してくれた人たちに囲まれて何度も喜びと感謝を口にしていました。
対して、ポーカーフェイスだった新子調教師は、時間が経つにつれてじわじわと感動が込み上げてきた様子。TVインタビューのラストで「最後はタガノジンガロがあと押ししてくれたと思います」と、2015年JBCスプリントのゴール直後に急逝した管理馬の名を挙げると、溢れ出す涙を止めることができませんでした。
こうしてGI/JpnI馬になったからこそ待っていたのが冒頭のフェブラリーSへの挑戦。
野田オーナー「前半3ハロンのラップを聞いた時点でダメだと思いましたけど、勝ちに行く競馬をしてのもの。ものすごーく悔しいですけど、最内枠でやりたい競馬はしてくれました」
新子調教師「勝ちに行った結果の11着。攻める競馬もできましたし、見せ場もあったので今のところ納得しています」
次走は中東へと渡り、ドバイゴールデンシャヒーン(3月30日、GI、メイダン競馬場ダート1200m)が予定されています。
野田オーナー「検疫馬房が確保されているわけでもないですし、海外も初めてで宇宙旅行に行く感覚なので2月のサウジは断念しました。しかし、フェブラリーSの負け方が悔しすぎたので、あれを帳消しにするにはそれ以上の価値のあるゴールデンシャヒーンを勝てばいいのではないかと思いました。また、フェブラリーSはあのハイペースの中で楽々ついて行っていたので、やはり1200mがいいのかなと思いました。ドバイ遠征にはまだまだ解決しないといけない問題があるので簡単ではないですけど、新子先生に『ドバイに行きたい』と伝えると、『行きましょうか』と言っていただいたので決めました」
新子調教師「元々行きたいとは思っていましたし、今の園田でイグナイターが行かなければ、他の馬では到底行くことがないので、チャレンジしてみたいと思いました。フェブラリーSの借りをドバイで返したいですし、"兵庫のイグナイター"から"世界のイグナイター"にしたいと思います」
そのドバイでコンビを組むのは笹川翼騎手(大井)。園田・姫路競馬の馬に、大井の騎手というのは異例ですが、昨年はJBCスプリントやさきたま杯でコンビを組み勝利した黄金コンビでもあるのです。
笹川騎手「会場のみなさま、そして中継映像を見ていただいている園田・姫路競馬場のみなさま、このたびはこのような賞をいただき本当にありがとうございます。イグナイターが年度代表馬を獲れたのも、オーナーや先生のおかげはもちろんなのですが、普段向き合っている武田厩務員のおかげだと思うので、みなさん拍手してください。ドバイでも頑張ってくるので、みなさん応援してください」
イグナイターの地元である園田・姫路競馬の人々へも感謝を述べた笹川翼騎手(大井)
イグナイターを担当する武田裕次厩務員
年度代表馬のさらなる挑戦はまだまだ続きます。
そして、ばんえい最優秀馬に選ばれたのはメムロボブサップ。
ばんえい最優秀馬メムロボブサップの関係者(写真提供:地方競馬全国協会)
昨年はばんえい競馬の最高峰・ばんえい記念を含む重賞4勝を挙げる活躍を見せました。
そのばんえい記念で曳いた重量は1t。3分34秒4をかけて障害2つを越えて200mの道のりをゴールする様は、ばんえいのルーツである北海道開拓時代を思い起こさせます。
一方で、メムロボブサップは水分が含まれスピードの生きやすい馬場でも勝利。
パワーもスピードも兼ね備えていると言えます。
また、父ナリタボブサップも2008年に同賞を受賞しており、親子での受賞でもありました。
地方競馬全国協会の吉田誠副理事長からのトロフィーの贈呈では
「今年もばんえい記念で期待しております」
との言葉をかけられたメムロボブサップ陣営。
トロフィーを手にするメムロボブサップの竹澤一彦オーナー(写真提供:地方競馬全国協会)
メムロボブサップ陣営の記者会見は残念ながら時間の関係等で行われませんでしたが、3月17日のばんえい記念が楽しみです。
ちなみに、今回のNARグランプリでは22年12月にデビューした今井千尋騎手が優秀女性騎手賞を受賞。
ばんえいから複数の人馬が受賞とあって、メムロボブサップ陣営と今井千尋騎手など"ばんえいチーム"での記念撮影も行われました。
メムロボブサップ陣営と振り袖姿の今井千尋騎手
今井騎手の会見の様子については改めて別レポートにまとめます。
文/大恵 陽子
岩手競馬の調教がいよいよ始まりました!
2024年02月15日
2月12日(月祝)、盛岡・水沢競馬場の馬場が開放。3月10日(日)から再開する水沢競馬へ向け、コースを使った調教がスタートした。
冬休み間、岩手競馬の競走馬はどうしているか。基本は競馬期間中に溜まった歴戦の疲れを取るため、きゅう舎内で完全休養。開いた窓から外をボーッと眺めていたり、時に横になったり、飼い葉を食んだりしている。また牧場へ移動する馬がいるし、在きゅう馬でもサンシャインパドック、丸馬場などで放牧するきゅう舎もある。
きゅう舎スタッフも同様。競馬シーズンが終わるとローテーションを決め、各スタッフは1週間から10日ほどの休暇が取ることができる。かつては県内出身者が多かったが、今は県外から岩手競馬へ来たスタッフも多い。
さらに現在はウズベキスタン、インド、フィリピンなど海外からの"出稼ぎ"も年々増加。国内外を問わず、冬休みを利して故郷へ里帰りする(戻らないスタッフもいます)。これが通年開催ではない岩手競馬の強みとも言える。
永田幸弘きゅう舎(盛岡)の東江(あがりえ)くんの実家は東京。"冬休みは何をしてたの?"と聞いたら、東江くん「中山競馬場へ行きました。メインはアメリカジョッキーズクラブカップでしたが、京都の東海ステークスを勝ったウィリアムバローズ、強かったですね!」。つくづく競馬が好きだと思った。こんな会話ができるのも楽しみの一つだ。
調教後、愛馬にバンテージを巻く永田幸宏トレーナー
調教が再開する特にこの時期、きゅう舎スタッフはケガなどに注意を払わなければならない。元気が有り余っているからだ。競走馬の頭脳は人間に例えると2、3歳時ぐらいだが、体的には8倍以上。
外に出ることによる解放感、また広いコースに入ってテンションが上がったり、はしゃいだりするのだが、担当者が持て余すほどのパワー。いきなり走ったり、制御できないほど暴れることも少なくない(あくまでも競走馬に悪意がある訳ではありません)。
余談だが、かつての岩手競馬は11月中旬には開催が終わった上、当時は特別開催もなく4月から新シーズンがスタート。4ヵ月以上の冬休みがあった。自分が競馬の世界に入った当時がそうだった。
その長期間、きゅう舎仕事がなかったかと言えば、そうではない。競馬シーズンが終わると競走馬が総入れ替えされる。冬期間も走らせたい場合は紀三井寺競馬、中津競馬などへ移動。より高いステージを求める場合は南関東だったが、空いた馬房にはデビュー前の1歳馬(当時表記では2歳馬)が入った。
今は北海道などに多くのトレーニングセンターがあるため、馴致されてきゅう舎へ入るが、当時は完全な野生馬。鞍をつける前段階として毛布を背中につけて慣れさせることから始まり、競走馬になるための数々のコミュニケーションを"0(ゼロ)"から教えていった。現在のホッカイドウ競馬と似ていると思う。
コースに雪が積もる冬も格好だった。仮に馬から落とされても雪がクッション代わりにもなった。もちろん初期段階でも走るか、走らないかはある程度分かり、その上位ランク馬は馴致を進めると岩手デビューではなく、南関東へ入る馬も多かった。そう、かつての岩手競馬の盛岡・水沢競馬場はトレーニングセンターでもあった。
今年の特別開催は3月10日にスタートするが、今回、馬場開放した2月12日(月祝)はおよそ1ヵ月前。競走馬は言うまでもなくアスリート。調教再開後、徐々に負荷をかけてレース仕様に仕上げていくが、疲れのピークは調教再開から約2、3週間後ぐらい。レース再開時に仕上がりの差が出る要因の大きな一つとなる。まだ1ヵ月先の話だが、岩手競馬の検討材料に入れてくだされば幸いだ。
文/松尾康司