NARグランプリ2023レポート第二弾!~騎手編~
2024年03月05日
2月22日に都内で行われたNARグランプリ授賞式のレポート第2弾は、騎手部門の各賞を受賞したみなさんの声を、競馬リポーターの大恵陽子がお伝えします。
各賞を受賞したジョッキーたち
まずは2年連続で地方競馬全国リーディングに輝いた吉村智洋騎手(兵庫)。全国リーディングにあたる最優秀勝利回数騎手賞の受賞は2年連続3回目です。
「2年連続で獲らないと意味がないんじゃないかなと思っていたので、2023年の年初めから獲りに行っていました。だから、昨年は精神的にも結構キツくて、正直、馬に乗っていて楽しいことなんか一つもなかったです」
普段の取材を通しても、吉村騎手は自分自身に厳しい印象があります。それだけに、高い目標を掲げて、自身にプレッシャーをかけ続けた一年だったのでしょう。
その中で、JRA東京競馬場で行われたジャパンカップ(GI、芝2400m)にクリノメガミエースと挑戦する貴重な機会もありました。
JRAのGI騎乗はこれが初めて。世界ナンバーワンホース・イクイノックスの出走で大注目を浴びる中、18着でのゴールではありましたが、こう振り返ります。
「世間では賛否両論がありましたけど、挑戦しないことには成功はありません。周りの人や後輩騎手たちに挑戦する大事さを見せられたんじゃないかなと思います。あの場に行けたことは僕にとってもすごくプラスで、いい経験をさせてもらえて感謝しています」
2年連続で全国リーディングを」と自身にプレッシャーをかけて23年を駆け抜けた吉村智洋騎手(兵庫)
そして、プライベートでは長男・誠之助くんがJRAで3月2日に騎手デビュー。
「息子のデビューは嬉しいです。でも、僕も一人の親。怪我が付き物なので、嬉しい反面、不安も大きくて、怪我なく頑張ってくれればいいなと思います。親子で一緒のレースに乗ることも近々あると思いますけど、負けないように頑張りたいです」
お父ちゃんの意地で、誠之助騎手は「2年連続地方競馬全国リーディングの息子」として注目を集める中、デビューを果たしました。親子共々、注目したいですね。
その吉村騎手と並んでの記者会見だったのは赤岡修次騎手(高知)。7年半先輩にあたるのですが、彼について笑ってこう話しました。
「引退した橋本忠男先生の下で吉村君がやっている時、木村健くん(引退、現調教師)のようなすごく追う子やなと思っていました。がむしゃらだけでやっていたのが、まさか2年連続最多勝になるなんて、不思議な感じです。園田は騎手も多くて厳しい環境だったと思うんですけど、すごく頑張ったんでしょうね。本人が思っている以上にレースでは印がつきすぎることも多いと思います。確実に勝たせるのはかなり神経をすり減らすので、『乗っていて楽しくない』っていうのは、すごく分かります」
1番人気の期待を背負うゆえ、「神経をすり減らすから乗っていて楽しくない」と、トップジョッキーならではの心中を共感し合う吉村智洋騎手(左)と赤岡修次騎手
そう、赤岡騎手も昨年は全騎乗の半数近くが1番人気に推され、「想像を絶するプレッシャーがあった」と言います。そうした中で、勝率38.5%を挙げて最優秀勝率騎手賞(3年ぶり6回目)に輝きました。
同賞が設立されて以降、2番目に高い数値で、トップは10年に自身がマークした38.9%。
「あの時は南関東や全国で乗っていて、『たくさん乗って、全部勝ってやろう』という気持ちでやっていました。今はほとんど自厩舎の馬への騎乗で、レース数もあんまり乗っていません。勝率は狙っていたわけでも何でもないんですけど、所属の田中守先生がいい馬にたくさん乗せてくれて、たくさん勝てたのでありがたいです。
田中守先生とは10年にも一緒に授賞式に来ていて、『久しぶりやね』と話しながら今日も来ました。
色んな記者に毎年、目標を尋ねられるんですけど、答えは一緒で『いま目標はないです』と。目の前の一つ一つを大事に乗って、無事に勝たせられればいいかなと思っています」
所属厩舎の田中守調教師とともにNARグランプリを受賞した赤岡修次騎手(高知)
最優秀賞金収得騎手賞は笹川翼騎手(大井)が初の受賞。
笹川騎手は初の南関東リーディングにも輝き、今年2月には中東・カタールへの遠征も敢行。デビュー時から期待の高かった29歳は進化し続けています。
「南関東リーディングはお正月に森泰斗騎手が怪我で休まれた時から意識しはじめました。賞金はあとからついてくるものだと思っていて、イグナイターでJBCスプリントJpnIとさきたま杯JpnIIと、大きいところを2つ勝てたことが一番の要因だと思います。
騎乗技術にまだまだ満足できていなくて、勉強のためカタールに行きました。トップジョッキーが集まる開催で乗って、レースの質がすごく高くて、『やっぱり自分はまだまだだな』と感じたことが一番の収穫です。馬や競馬に乗るのが上手くなりたい気持ちが一番です。カタールでゼロから厩舎関係者に声をかけるところからスタートしたように、チャレンジする心は忘れたくないです」
イグナイター(兵庫)でのJBCスプリントJpnI制覇などがあと押しし、最優秀賞金収得騎手賞を受賞した笹川翼騎手(大井)
そして、最優秀新人騎手賞と優秀女性騎手賞はともにフレッシュな顔ぶれとなりました。
まずは最優秀新人騎手賞を受賞した山田義貴騎手(佐賀)。祖父と父は佐賀競馬の現役調教師という競馬一家の出身で、22年4月にデビューすると、23年3月の九州クラウンを父・徹調教師が管理するリュウノシンゲンで勝って重賞初制覇のほか、昨年は118勝を挙げました。
「最初の頃は新人賞はそんなに意識していなかったんですけど、後半は周りから『獲れるかも』と言われていたので、受賞できて嬉しいです。周りの若手より騎乗数やいい馬に乗せてもらうチャンスも多かったので、もうちょっと勝てたかなと思います。デビューした時よりは周りが少しは見えるようにはなってきましたけど、焦ってしまうことが多いので、できるだけ冷静に乗ることを心がけています。前年の勝利数を超えられるよう、毎年、頑張りたいです」
最優秀新人騎手賞を受賞した山田義貴騎手(佐賀)は昨年、リュウノシンゲンとのコンビで重賞制覇も果たしました
優秀女性騎手賞は22年12月にデビューした今井千尋騎手(ばんえい)。
通年で騎乗する最初の年となった23年は103勝を挙げ、ばんえいが帯広市単独開催となって以降では最速で地方通算100勝を挙げました。
父・茂雅調教師の下で厩務員をしながら騎手を目指す姿をテレビなどで見かけたことがある人もいるのではないでしょうか。
念願叶って騎手デビューし、どんどん成績を残しています。
「昔から知っている馬主さん、調教師さん、厩務員さんなどいろんな人が素質馬にたくさん乗せていただき、昨年の成績を残すことができました。受賞はすごく嬉しいです。
少しハイペースになっただけで焦っちゃって、酷いレースばかりしてしまうんですけど、冷静に周りを見られるようになりたいです。具体的な数字の目標はないですけど、乗せていただけた馬で全て勝てるように頑張っていきたいです」
優秀女性騎手賞を受賞した今井千尋騎手(ばんえい)は、最速で地方通算100勝を達成。(帯広市単独開催以降)
20代たちはフレッシュさと向上心に溢れ、30~40代の二人は「トップジョッキーしか見ることができない」と言われる景色やプレッシャーを背負いながら、地元の競馬を盛り上げています。
文/大恵 陽子