師匠はつらいよ
2025年08月15日
弟子を取ってからの心境を師匠数人に聞いてきました。指導方法などは人それぞれで、言葉で伝えるだけではなく態度でも示すようになるようです。
ある師匠は「前よりも整備するようになりましたね。何もしてないよりかは、手を動かして『お前もやれよ』みたいな感じで。言うだけじゃなくて、自分もやならいと示しがつかないですからね」と、マイペースで取り組んでいた整備に再び熱が入った模様。ただ、弟子からの問いかけに対し、指導している側は全て応じられるわけでもない。「初めはそんなこと言わなかったんですけど、今年に入って3月くらいからドドドが来る」との弟子からの相談に「自分は年に数回しかドドドは来ないので、対処の仕方が分からないです」と師匠。知っている限りの対策を伝えても良くならなければ「他にドドドがよく来る選手にアドバイスを聞いてやっています」と柔軟な対応。師匠と弟子は一対一だけれど、師匠には整備グループの後押しがあります。整備仲間が一丸となって弟子の成長を手助けするケースも多いようです。
↑選手観覧所にて練習走行を眺めている様子(今回の記事とは関係ありません)
また、ある師匠は別のことに頭を悩ます。
「責任感がのしかかるので大変ですね。(弟子を)見ておかないといけないですからね。練習もそうですし、後はロッカーの事とか、人間関係の事とか。グループでやっている限りは、その辺の順番とか作法とか細かいことがいっぱいあるんですけど、人としてそこをやならいといけないですから」と、まずはこれまでのオートレース界のしきたりを教える。弟子の練習走行の後に関しては「今はあまり言わないようにしているんですよ。最初はめちゃくちゃ言ってたんですけど、半べそかいちゃうので。もう言いすぎるのは止めました。同じグループの他の人が自分の弟子の走りに関しての指導をしてくれるんで、自分は遠目で眺めているだけにしています。弟子に合った指導法っていうんですかね。弟子が男だったら、ガンガン言うんですけどね。女の子なので自分も手探りです」。そう、オートレース界は31期から女子レーサーが加入し、その後もどんどん増えていったが、弟子が女性となると指導の仕方も以前と同じようにはいかない場合があるようです。個人差はあるだろうけれど、性別が異なるだけで感性の差などが生じ、以前のような指導が通用しないケースもあります。しかし、そこも整備グループというものの存在を生かし、解消へ向けタッグを組みます。
別のある師匠はジェネレーションギャップの問題に直面している。
「やっぱり今どきの子なので、非常に悪い意味で言うと世間知らずで入ってくる子が多いですね。ここに入ってきたらもうちょっとここに従って欲しいな、みたいな。昔ほどキツくないんですけどね。どんどん緩くなってるけど、どんどん自己主張が強くなっているというか、もうちょっとピシッとしてくれないかなと」。恐らく自分が弟子だった時代との差を大きく感じているのでしょう。さらに「時代が時代なので手を出したりはしてないですけど、言葉では厳しく言ってます。優しく言っていても、どうにも変わらないから、どんどん口調もキツくなっていますね」。コンプライアンスが叫ばれる昨今。悪しき慣例は排除されて当然だが、独特な世界で絶妙に思いを伝えることは難しいようです。これには「グループの皆も頭かかえています」とのことですが、それでも「1級になるまでに何とかなってくれるといいですね」と暖かい眼差しも忘れていません。
師匠になるというのは自分のことだけではなく、もう一人の選手のことにまで気を回さなければならないので大変な状況です。しかし、オートレース界全体のレベルを底支えし、さらには日々アップデートするために欠かせない存在。師匠の心労を推し量ると、本当に頭が下がる思いです。
文/高橋