地方競馬の格付け
2024年09月28日
今年の夏、高知競馬では8月上旬から9月上旬まで、馬場改修と暑熱対策のため約1カ月の休催があった。
明けて競馬が再開されたのは9月7日だが、普段は4月と10月に実施される、格付けの再編成がこのタイミングで行われた。
中央競馬でもかつては4歳夏に収得賞金(番組賞金)を半分することによる、いわゆる"降級"があり、さらにもっと以前には4歳夏、5歳夏と、2度の降級があった(年齢はいずれも現在の表記)。しかし2019年からはその降級制度がなくなり、中央競馬ではクラスが下がることがなくなった。
一方で地方競馬では、競走馬資源を安定的に確保するため、どの主催者にも番組賞金の見直しによる"降級"がある。
わかりやすく言うと、能力の衰えた馬にも勝つ(もしくは上位入着)機会が得られるよう、クラスを下げるというもの。
これによって、能力の衰えた馬でも長く現役を続けることができる。
これはファンにとってみれば、予想の際にとても重要なポイントになる。上級クラスから下級クラスに降級した馬は勝つ可能性が高く、馬券の狙い目となるからだ。
高知競馬では過去2年の収得賞金でクラス編成が行われ、前述のとおり(今年のような例外を除いて)年に2回、4月と10月に再編成が実施される。
今年はそうした特殊事情があったため、昨年度の例で具体的に説明すると、2023年4月1日から9月30日の開催では、2021年4月から番組編成日(出馬登録する日)までの収得賞金によって格付けが行われる。そして10月1日から翌年3月31日までの開催では2021年10月1日以降の賞金で格付けが行われるので、2021年9月30日以前の賞金はカットとなる。
極端な例では、中央で過去に重賞をいくつも勝ったような馬でも、2年間掲示板外の成績が続いたあとに高知に転入すると、収得賞金はゼロで最下級条件のC3からのスタートとなり、そういう馬は連戦連勝という可能性が高い。
中央の重賞勝ち馬ともなると、さすがにまれな例だが、賞金が高くなった今の高知では2勝クラスや3勝クラスで頭打ちとなった馬の転入はめずらしくない。
高知では年に2回、そうしたクラス編成によって一気に格付けが下がる馬がいるので、そうしたところが馬券の狙い目になることがある。
ばんえい競馬も過去2年の収得賞金によって格付けされるが、再編成は年に1度。
ばんえい競馬は格付けだけでなく、4月から翌年3月の年度単位で番組が組まれていて、開催が進むごとに格付けごとの基礎重量(ソリの重量)が重くなっていき、4月の年度替わりでリセットされる。
わかりやすいところでは、古馬の主要重賞ではシーズン当初のばんえい十勝オッズパーク杯が720kgから始まって徐々に基礎重量が重くなり、1月の帯広記念の基礎重量が890kg、そしてクライマックスのばんえい記念は定量1000kgとなる。
収得賞金では、5歳4月の開幕を迎えた時点で2歳シーズン(2歳4月から3歳3月まで)の賞金がカットとなり、6歳4月には4歳3月以前の賞金がカットとなる。
それゆえ5歳以上の馬では4月の開幕時に格付けが下がる馬がいるので、そのあたりが馬券の狙い目になる。4月から5月あたりのシーズン当初は格付けの下がった馬には注意しておきたい。
これらの格付けルールは主催者ごとにさまざまで、多くが収得賞金によって格付けが行われているが、やや特殊なパターンとしては、兵庫(園田・姫路)のように5着以内の着順に応じたポイントによって昇級/降級を行っている主催者もある。
兵庫の着順ポイントによる格付け修正は、奇数月(2カ月ごと)に行われるため、急激な昇級/降級はあまりないものの、頻繁にクラスの移動が生じるので、馬券検討の際には注意しておきたいところ。
なお兵庫の格付けについて説明すると、たいへんなスペースを要するので、興味のある方は公式サイトの番組要項をご覧いただきたい。
文/斎藤修
飛田愛斗騎手の始球式に密着!オッズパークドキドキスペシャルJBC2024佐賀
2024年09月12日
9月6日(金)に「みずほPayPayドーム」(福岡ドーム)で実施された、福岡ソフトバンクホークス対埼玉西武ライオンズの試合は、オッズ・パーク株式会社が協賛する「オッズパークドキドキスペシャル」として実施。
外野席の上に広がる巨大な電光掲示板には「OddsPark」のロゴ、そして11月4日に佐賀競馬場で行われる「JBC」の広告がたくさん表示されました。
「協賛試合」におけるメインイベントのひとつが「始球式」。
今回は佐賀競馬所属の飛田愛斗(ひだ・まなと)騎手がその役を担うことになりました。
当日は試合開始の3時間以上前に到着。
さっそく、この日のために作られた「オッズパーク」のロゴ入りの勝負服に着替えて、15時30分に移動を開始。
佐賀競馬から誕生したアイドルグループ「UMATENA」、佐賀競馬のキャラクター「パッカルくん」、そしておなじみの「マキバオー」と一緒にドームの前で集合写真を撮りました。
球場は開門前。
写真の撮影場所に近いところから外に出ると、すかさず開門待ちの人たちのなかから「あっ、飛田ジョッキーだ」という声が聞こえてきました。
そしてこどもたちからは「マキバオ~~~」と呼びかけが。
UMATENAは今年の春に活動を開始したばかりですが、UMATENAのユニフォームを着ているファンが来ていました。
帰り道もマキバオーは大人気。
こどもたちと"ロータッチ"しながら球場内に戻り、しばらく休憩となりました。
この日は"晴れ・良馬場"で、湿度が高いコンディション。まだ試合開始まで2時間以上ありますからね。
体力は温存しておかなくちゃ。
飛田騎手もしばらく休憩。
「なんかちょっと体調がイマイチ」と言っていたのは、今にして思えば、普段とは違う場所で勝手がわからなかったことによるアウェー感のためかもしれません。それでも少しの時間を使って、週末に備えてレース映像を確認。
研究熱心なところを見せていました(調整ルーム入室前なので、スマートフォンを使用してOKです)。
「同じレースに出る、僕が乗らない馬の走りを確認しました。佐賀だけではなく、ほかの競馬場のレースも見ますよ。そのときは主に、ジョッキーがどういう乗りかたをしているかという視点で見ます。あと、この時期はJRAから移ってくる馬が多いので、それも確認しますね。移籍馬はレースのことをよく分かっていなかったりするので、そういうタイプは佐賀でしっかり乗れば化けることもあります。そういう意味で、楽しみがある時期といえますね」
ただ、いつもの"明るい飛田騎手"の表情にはまだ遠い感じ。
控室にお弁当が届きましたが「食欲ないです」と言って、目を閉じて休むことに......
しかし30分後。
筆者が「そろそろ肩慣らしの時間ですよ」と言うと、エンジンに火が入った様子。
筆者が持参したグローブをはめて、投球練習会場であるライトポール際の倉庫に向かうときにはヤル気十分!
「中学では野球を3年間やっていて、ポジションはセカンド。投手の経験はないですね。球場でボールを触るのは7年ぶりですよ」
という飛田騎手の球筋は、なかなかシャープ。
さすが野球経験者。
「体が覚えているもんですね」
まずは立ち投げでキャッチボールを10球ほど。そして筆者が座って"本気投げ"を5球ほど。
1回だけショートバウンドがありましたが、そのほかの球はストライク。
おそらく100㎞/h前後は出ていたと思います。
さらに硬球ですからね。キャッチャーミットを持ってきておいてよかった(笑)。
飛田騎手の後ろで見守っていた球場関係者も「おおっ」と唸っていました。
この投球練習を写真や動画におさめていなかったのが残念。
ウォーミングアップを終えた飛田騎手は、「これでズバッといけると思います」と、テンションが上がってきた様子。
「やばい、緊張してきた」という冗談(?)も。さあ、その勢いでいざグラウンドへ!
17時35分に3塁側ベンチ横の扉が開き、UMATENA、パッカルくん、マキバオーとともに、人工芝の上を歩いてセカンド後方に整列。
スタジアムDJから紹介を受けてマイクを渡されると「佐賀競馬の飛田愛斗です。地方競馬のことをもっと知ってもらえたらうれしいです。今日はよろしくお願いします」
と力強くあいさつ。
その後はいったんホームベースの後方に戻って、登板まで待機です。
飛田騎手の至近距離にはホークスのベンチ。
「兄と姉が大分の明豊高校に行っていたので、(明豊出身の)今宮健太騎手に注目しています」と話していましたが、その姿は見えたかな?
フィールド内ではオープニングセレモニーがスタート。
ハニーズのダンスのあと、佐賀競馬場とオッズ・パークから、ホークスの小久保裕紀監督、ライオンズの渡辺久信監督代行に花束が贈呈されました。
続いてホークスのベンチからスタメンの選手が続々とフィールドに登場。飛田騎手の登場の時も近づいてきました。
そして試合開始2分前。
担当者に誘導されて、ゆっくりとマウンドへ。
DJに再び紹介されたところで投球OKの合図。
セットポジションからゆったりとしたフォームでのファーストピッチは......
なんとまさかの、ホームベースのはるか手前でワンバウンド!!!
でもキャッチャーの甲斐拓也選手のミットには、そのワンバウンドだけでおさまった形。
だからボール自体の勢いは十分にあったと思います。しかし飛田騎手は微妙な表情。
「甲斐選手の目ヂカラが強くて、それにちょっとビビってしまいました。足を上げたところでコントロール重視にしようと切り替えたんですけど、まさかワンバウンドとは。これ、テレビ中継されているんですか?」
ハイ、残念ながら場内のテレビではバッチリと放映されていました。
でも地上波とネット中継は放映時間が「18時00分~」なので、もしかしたら???
マウンドから降りると、投げたボールを甲斐選手から受け取って、一礼をしてグランドから退場。
その奥の通路でスポーツ紙の記者さんの囲み取材を受けました。
「投げさせていただいたことに感謝しています。競馬とは違った緊張感がありました。マウンドにはビシッといくつもりで行ったんですけど、ストライクを狙って少し力を抜いたら、力の加減を失敗してしまって......。もっと思い切り投げればよかったです。でも、今回の始球式が佐賀競馬を知ってもらえるきっかけになったと思いますし、11月4日のJBCにも来ていただければうれしいです」 とコメントしていました。
その後はいったん控室に。
「いや~、ワンバウンドか~~~」
と話す姿は悔しそう。
ピッチャーズプレートからホームベースまでの18.44mって、意外と遠いんですよね。
そして球場だと距離感がつかみにくい。このことは(筆者が7月に東京ドームで草野球をした経験から)飛田騎手に話しておいたのですが......。
でも今の気分は良好という雰囲気。
すっかり調子が戻った様子で、控室のお弁当に手が伸びました。
その後は3塁側の通路で、全員そろってのグリーティングに参加。
佐賀競馬場で見たことがある顔もありました。
飛田騎手はUMATENAに負けないくらい写真を撮られていましたよ!
「今日はこのようなイベントに出させていただいて、とても感謝しています。これを機に、地方競馬を知ってくれる人が1人でも増えたらと思います。JBCのレースに乗せてもらえたら、ひとつでも上の着順を目指して頑張りたいですね。当日は佐賀競馬場がどのくらいの人で埋まるのか、それも楽しみにしています」
この日はキャッチャーの後方に「11月4日佐賀競馬場でJBCを開催」の文字が添えられたオッズパークの広告が掲出されて、試合終了まで投球のたびにテレビに映っていました。
九州で唯一の地方競馬をアピールできたのではないかと思います。
グリーティングを終えた飛田騎手は「満喫しました」と笑顔で、翌日と翌々日の開催に備えて競馬場に戻っていきました。
ちなみにその週は2勝をマーク。
始球式を機に、さらなるパワーアップが期待できそうです!
文/浅野靖典
【私的名馬録】美しく、強く サダエリコ
2024年09月03日
日本競馬界の歴史に名を刻んだ名馬・競馬ファンの記憶に残る名馬の活躍を競馬ライターたちが振り返る私的名馬録。
今回のテーマは─
競馬を始めたころの馬というのは印象が深いものだ。
中央競馬ファンだった私はそのうち地方競馬の魅力にハマり、ばんえいでアンローズとサダエリコという牝馬が活躍していることを知る。
競馬場で初めて2頭の姿を見たのは2005年だったか。
かわいい良血馬アンローズと、美しいサダエリコ。
私はすっかりサダエリコの美しさに取り憑かれていた。
とはいえ、好きになった理由は細い顔と切れ長の目が"サラブレッドみたい"だから。当時の私はまだ"サラの人"だった。
美しい顔にムキムキとした馬体がくっついているのもたまらない。
障害を力強く越え、末脚が切れる。
美しく、強く。こうありたい、とサダエリコの姿を見ながら、若かった私は心の支えにしていた。
『今年はばんえいを勉強しよう』と思ったのが2006年。
その年の旭王冠賞(旭川)が初めて見たサダエリコの重賞制覇だった。
表彰を受ける金山明彦調教師の姿を『この人がミスターばんえい......』と、まじまじと見つめていた。
ばん馬については何も知らない。あとになって"気性が激しい""背がまっすぐ"と教えてもらう。
鈴木恵介騎手が若い時期に厩務作業を担当していたこと、父ダイヤテンリユウの母トツカワが名繁殖牝馬であることなどの知識が増えていく。
ばんえい存続が危ぶまれていた11月、北見記念のパドックを見ながら考えていた。
サダエリコにアンローズ、シンエイキンカイ......。ばんえいが廃止になれば"馬名"がなくなってただの馬になる。
目の前のサダエリコが、"サダエリコ"ではなくなる----。
当時は競馬場の馬券には馬名が入らなかったので、友人に「場外で全頭の馬名入り単勝馬券を買って」と頼んだ。
今、当たり前のように馬名、騎手名入り馬券を買えることに感謝しなくては、とこの時の馬券を見るたびに思う。
サダエリコは追い込んで3着。
勝ったのはアンローズだった。
引退後は3頭の産駒を残したが、2012年に牧場でハチに刺されて生涯を終えた。
アナフィラキシー・ショックだと思われる。
その時横にいた仔馬がセンゴクエースだ。
1頭のみの牝馬が仔を残せず、サダエリコの血はつながらないのかと思っていたところ、ブラックシシとセンゴクエースの2頭が種牡馬入りした。
センゴクエースの活躍ぶりは言うまでもない。
好きな馬の仔どもが、ここまで結果を残してきたことに驚いている。
サラブレッドのファン時代、何度産駒の活躍を夢見てきたことか。
重賞13勝はばんえいの牝馬最多記録。
センゴクエースは14勝で母を一つ上回った。
最後に個人的な話を一つ。帯広単独開催が始まったころファンとして取材を受け「サダエリコのファンです」と言ったところ「女性に人気のサダエリコ」という話が広がった。
ファンは少なくはなかったが、私の周りはみなアンローズのファンだったし、正直違和感があった。
その時のファンの感覚を正しく感じ取り、伝えていきたいと思う理由の一つである。
文/小久保 友香
OddsParkClub vol.66より転載