各地の"ダービー"を終えて
2024年07月12日
例年より日程がやや後ろにずれた兵庫優駿を最後に、各地の"ダービー"が終了した。昨年までは"ダービーシリーズ"として全国的にシリーズ化されていたが、今年はダート競馬の体系整備によって"ダービー"に相当するレースの扱いが変わったため、シリーズではなくなった。しかしながらいずれも1着1000万円を超える高額賞金であり、各地の関係者が目標とするレースであることは変わらない。今回はその各地の"ダービー"を振り返る(写真はいずれも各主催者提供)。
佐賀はウルトラノホシが二冠達成
全日本2歳優駿JpnI(6着)から新たなダート三冠へ向けて南関東に遠征を続けたウルトラノホシ。3歳初戦のブルーバードカップJpnIIIでは地方馬最先着の4着、しかも勝ち馬にコンマ2秒差まで迫って爪痕を残し、続いて雲取賞JpnIIIにも遠征したが6着。新たなダート三冠の一冠目、羽田盃JpnIはわずか8頭立てという少頭数ゆえ「出る」と言えば出られただろうが、挫跖の影響などで万全な状態ではなく、地元の3歳重賞に矛先を変えた。
一冠目の佐賀皐月賞。ウルトラノホシは4コーナーで一気に先頭に立つと、2着デッドフレイに1馬身半差をつける完勝。そして迎えた栄城賞は、今年も日本ダービーと同日の実施。4番手を追走し、全体がペースアップした3コーナー手前から位置取りを上げると、抜群の手応えのまま3〜4コーナーでまくりきり、直線でも軽く追われただけでデッドフレイに4馬身差をつけての圧勝。1〜5着が佐賀皐月賞と同じというめずらしい結果となった。
ウルトラノホシの秋は、まず9月1日の金沢・西日本3歳優駿が選択肢にあり、9月29日のロータスクラウン賞には佐賀三冠ボーナス(1000万円)の期待もかかる。一方でジャパンダートクラシックJpnI(10月2日・大井)とは日程がかぶるため、地元の三冠か、再び全国区への挑戦か、という選択になりそうだ。
混戦の東海はフークピグマリオンが二冠
東海地区のこの世代は混戦で推移してきた。一冠目の駿蹄賞は4コーナーで人気3頭の勝負となり、フークピグマリオンが、ライバルのミトノウォリアー、スティールアクターを直線で置き去りにしての圧勝。6馬身差の2着には伏兵ベアサクシードが入った。
そして迎えた東海優駿。駿蹄賞の勝ち方から単勝1.2倍の断然人気に支持されたフークピグマリオンは、慌てずいつものとおり中団を追走。道中では反応がいまひとつだったか、鞍上の今井貴大騎手が馬群の中で何度もうながす場面があった。しかし3コーナー過ぎで外に持ち出すと、4コーナーでは先頭に立っていたニジイロハーピーをとらえにかかかった。直線では外に大きくよれる気の悪さを見せながらも抜け出し、追ってきた笠松のキャッシュブリッツに1馬身半差をつけての勝利となった。
冒頭のとおり、混戦と思われてきた東海地区のこの世代。2歳時にゴールドウィング賞を制していたフークピグマリオンは、3歳になって新春ペガサスカップ2着、スプリングカップ3着と惜敗が続いたが、その後は、ネクストスター中日本、駿蹄賞、そして東海優駿と3連勝。混戦に断を下す東海優駿制覇だった。
鞍上の今井騎手は2006年デビューで、2012年にマイネルセグメントで東海ダービー初制覇。そこからわずか12年で東海優駿(東海ダービー)歴代単独最多となる5勝目となった。
金沢ではナミダノキスが転入4連勝
金沢一冠目の北日本新聞杯は、2歳時の金沢ヤングチャンピオンシップから冬期休催を挟んで3連勝中だったリメンバーアポロが1番人気に支持されたものの向正面で競走中止。中央未勝利から転入初戦を制していた牝馬のリケアマロンが2着に5馬身差、3着馬にはさらに6馬身差をつけての圧勝となった。
石川優駿は、そのリケアマロンが単勝1.9倍で1番人気ではあったが、中央未勝利から転入して3連勝のナミダノキスも2.0倍で人気を分け合った。5番手から満を持してという感じでリケアマロンが3コーナー手前で先頭に立ち、楽な手応えのままで直線を向いた。そして後方から懸命に追ってきたのがナミダノキス。手応えでは完全にリケアマロンが押し切るかに思えたが、直線、一完歩ずつ差を詰めたナミダノキスが3/4馬身とらえてのゴールとなった。
8馬身離れて3着のロックシティボーイも中央未勝利からの転入。4着ダブルアタックは金沢生え抜きだが、5着カレンアイバーソンも中央未勝利からの転入。4着馬以外、中央未勝利からの転入馬が掲示板を占めた。
鞍上の柴田勇真騎手は、デビュー10年目で石川優駿(石川ダービー)初制覇。金田一昌調教師は今年まで8回の石川優駿(石川ダービー)で5勝目となった。
※柴田勇真騎手のインタビューはこちら。
岩手ではフジユージーンが無傷の8連勝
東北優駿は、デビューから無敵の快進撃を続けていたフジユージーンが、単勝元返しの人気にこたえ、大差の圧勝でデビューからの連勝を8に伸ばした。
2歳時は、北海道から重賞勝ち馬も遠征していた南部駒賞も4馬身差で圧勝して5戦5勝。明けて3歳となり、京浜盃JpnIIからダート三冠を目指すプランもあったが仕上げが間に合わず、始動戦となった水沢のスプリングカップでは2着に2秒4の大差をつける圧勝。東京ダービーJpnI指定競走となっているダイヤモンドカップでも北海道のオオイチョウに4馬身差をつける完勝で、一旦は東京ダービーJpnI出走を決めた。しかし馬房内で寝違えたことなどで調整が間に合わず回避。結局は、東京ダービーの11日後という日程だった地元の東北優駿に出走し、冒頭のとおりの圧勝となった。
東北優駿まで無傷の8連勝。2着との着差がもっとも小さかったのが、デビュー3戦目、ビギナーズカップの2馬身半差。その能力はまだ底を見せていない。
夏は休養し、今年からJpnIIのダートグレードとなった地元盛岡の不来方賞で、いよいよ中央勢との対戦となる予定だ。
高知では圧倒的な強さでプリフロオールイン
高知優駿は、デビュー2戦目から危なげないレースぶりで連勝を続けるプリフロオールインが断然の人気にこたえ、盤石の競馬を見せた。
抜群のスタートを切ったプリフロオールインは、後続の脚色を測りながらの逃げ。宮川実騎手は持ったままの手応えで3コーナーから徐々に後続を離しにかかった。中団から2番人気のワンウォリアーが徐々に位置取りを上げて来たのを確認すると、4コーナーで軽く気合を付け、直線では再び突き放して楽々と高知二冠達成となった。
ぴたりと2番手を追走していた浦和のアムクラージュが3コーナー過ぎで一杯になり、3番手のマジックセブンも徐々に遅れだした。そして中団で脚を溜めて自分の競馬に徹したワンウォリアーが2着という展開からも、プリフロオールインの強さが際立っていた。
そして同じ打越勇児厩舎では、デビューから6連勝で西日本クラシック(園田)を制したシンメデージーが、東京ダービーJpnIで地方馬最先着の4着に好走。底を見せていない同厩舎2頭の直接対決がどこで実現するのかも楽しみになった。
兵庫は3番人気もマルカイグアス圧勝
デビューから4連勝で一冠目の菊水賞を制し、西日本クラシックでは初の敗戦を喫するも、先着されたのは高知のシンメデージーというオーシンロクゼロ。そして3歳1月のデビューから6連勝でいよいよ重賞初挑戦となったウインディーパレス。兵庫優駿は、地元馬同士では負けていない2頭の馬連複が2.1倍というオッズで一騎打ちかに思われた。しかし勝ったのは、離れた3番人気マルカイグアスだった。
オーシンロクゼロは課題のゲートで何度か立ち上がって出遅れ、2周目向正面に入ったあたりですでに追走に一杯。一方のウインディーパレスは、逃げたクラウドノイズに競りかけたことで厳しいペースになった。
勝ったマルカイグアスは、前半縦長となった5番手を追走。ペースが落ち着いたスタンド前で、先行2頭のうしろまで進出すると、向正面の半ばあたりで仕掛けて一気に先頭。あっという間に後続との差を広げると、そのまま直線独走でのゴール。追ってきたウェラーマンが8馬身差2着。さらに10馬身離れて3着には最低人気ゴールデンロンドンが入った。
人気2頭は、ウインディーパレスが5着、オーシンロクゼロは8着という結果。マルカイグアスは、前走トライアルのオオエライジンメモリアルでウインディーパレスに7馬身差をつけられ2着に敗れていたが、今回はマイナス16キロと馬体を絞る渾身の仕上げと、鴨宮祥行騎手の思い切った仕掛けで歓喜の勝利。橋本忠明調教師、鴨宮騎手、ともに"ダービー"初制覇となった。
文/斎藤修