佐賀で初のJBCは九州競馬魂あふれる一日
2024年11月08日
ついにJBCが九州に上陸しました。
アメリカのブリーダーズカップを模範に、2001年に第1回が行われて以降、全国各地の競馬場で持ち回り開催されてきたJBC。馬産地として栄え、かつては中津競馬(大分県)、荒尾競馬(熊本県)のあった九州で、唯一生き残った佐賀競馬での初開催は大きな意義のあるものでした。
初開催とあって注目度は高く、駐車場の開場前には競馬場前の国道は渋滞。開門待ちの列を撮影するために向かっていたカメラマンの中には運転手だけを残して車を降り、競馬場まで2km弱、歩いた人もいたほどです。
JBC開催が決まってから、競馬場を挙げて騎手も調教師も職員も、みんなで盛り上げてきました。ピカピカの建物や最新設備が整う競馬場も魅力的だけど、佐賀らしさはそれじゃない、と行き着いたのが「うまてなし」と題した温かいおもてなしだったのではないでしょうか。
いざ開門し、場内に足を踏み入れると、あちらこちらに「うまてなし」が感じられる工夫がありました。たとえば、コンパクトなスタンドだけでなく、普段は入れない内馬場を開放してゆったり過ごせるスペースを作ったのもそう。
内馬場へと繋がる地下通路
内馬場の特設ステージでは予想会や、最終レース終了後にはUMATENAのライブも
飲食店は混雑緩和のため人気メニューに限定した営業で多くのお客様を迎えました。それでも、14時半には「龍ラーメン」は売り切れるほど、多くの方が訪れていました。
それもそのはず、内馬場から見たスタンドはこの人だかり。
山口勲騎手はJBC前に「荒尾競馬最後の日、スタンドが人の頭で真っ黒に埋まっていてね。JBCもそのくらいたくさんの人が来てくれたらいいね」と話していましたが、まさにその通りに。
「荒尾最終日とは違って、活気があるね」と、目尻を下げ、この日5勝の大活躍を見せました。
そのうちの1勝がこの日の1レースだったのですが、そのレースは静内農業高等学校の生徒たちが生産し、サマーセールで落札されたマギーズミッションのデビュー戦でもありました。2番手から運んだ同馬は、直線で離されて4着でしたが、「JBC当日のデビューに急遽間に合わせたから、まだまだこれからの馬やね」と真島元徳調教師。
佐賀競馬の招待で来場していた生徒2名は「初めて佐賀競馬場に来ました。安全に走りきってくれたことがまずは嬉しいです」と、目の前で見届けられたことに興奮した様子。また、パドックで曳いていたのは同校出身の厩務員、さらに調教師補佐も同校出身者と、静内農業高等学校リレーでたどり着いたデビューでした。
生徒たちと引率の先生が目の前でデビューを見届けられるよう招待したのも、また佐賀競馬ならではの「うまてなし」だったように思います。
もう一つ、馬産地・九州への「うまてなし」は2024九州産グランプリをJBCに合わせて特別に実施したことでしょう。勝ったのはルピナステソーロ(高知)。距離延長を克服し、霧島賞に続くタイトルとなりました。
そしていよいよJBC。
開幕戦となったJBCレディスクラシックは3歳牝馬アンモシエラが見事な逃げ切り勝ちを収めました。
勝った人馬が引き揚げてくると、スタンドからは武史コール。何度も拳を突き上げ、横山武史騎手は喜びを爆発させました。
JBCスプリントは3歳馬チカッパとの追い比べをハナ差制し、タガノビューティー(石橋脩騎手)が悲願の重賞初制覇をJpnIの舞台で果たしました。
追い込みタイプの同馬はこれまで展開の影響を受けたり、コース形態と上手くマッチしなかったりと歯がゆいレースが続いていましたが、大金星に担当の桜井吉章調教助手は涙、涙。かつての担当馬で、神戸新聞杯を勝つなど「僕の原点で、いろんなことを教えてもらった」というイコピコの写真と遺髪をポケットに忍ばせてのレースだったそうです。
そしてJBCクラシックも涙、涙でした。
勝ったのはウィルソンテソーロ。何度もGI/JpnIまであと一歩まで届きながら悔しい思いをしていた同馬が、GI/JpnI初制覇を果たしました。
鞍上の川田将雅騎手は祖父も、父・孝好調教師も佐賀の調教師。
「地元でGI/JpnIを勝つというのは、こんなに感極まるんだなと本当に嬉しく思っています」
と、勝利騎手インタビューでは何度も涙を溢れさせ、声を詰まらせました。
「ここで生まれ育ちましたので、ゲート裏を回っている時に、あそこで僕はちびっこ相撲の練習とかをしていましたから、そんなところでJBCを開催してくれるようになり、これだけ素晴らしい馬と巡り合えて佐賀に来ることができました」
佐賀出身としてJBCを勝たなければ、という使命感にも似た強い思いを抱いていたのでは、とさえ思います。JRA騎手ですが、佐賀競馬魂が宿っているのでしょう。
JBC後の最終レースとして行われたネクストスター佐賀は"九州競馬魂"を感じました。
勝ったのはデビューから無敗のミトノドリーム。
石川慎将騎手はお父様が中津競馬の騎手で、自身も少年時代を中津で過ごしました。また、管理する平山宏秀調教師は荒尾競馬で厩務員をしていた方。廃止になった競馬場の魂を継ぐ二人が、JBCデーを締めくくりました。
入場人員1万2386名、1日の売り上げ55億9140万3800円。売り上げはもちろんレコード。記録にも記憶にも残る、魂あふれる一日でした。
文/大恵陽子